第33話 盗賊王との決着

 ドドガゴーレムには表情がないが、その声色から動揺しているのが手に取るように分かる。


 「なぜだ。一体どうやって俺の錬金魔法から脱出した!」


 「俺の才能は<付与術師>。その応用で俺と一体化していたゴーレムを”分離”したんだ」


 「分離だと?でたらめを言うなぁ!」


 ドドガゴーレムが殴りかかってきたが、俺はそれを”ベクトル付与”で受け流す。パンチが効かないと悟った敵は腕を無数の触手に変形させて手数で押してくるが、俺は”空壁”も駆使して全てを回避する。


 それでもドドガゴーレムは攻撃の手を緩めず追撃してくる。


 「もうお前を吸収するのはいい。ここで殺してやる。このゴーレムと合体している限り俺がお前に負けるわけないんだ!」


 俺は全ての攻撃を回避しながらドドガゴーレムの懐へと入り込んだ。そしてゴーレムの胸に手を触れて”分離”を実行する。


 「もうゴーレムに隠れる時間は終わりだっ!」


 「ぐおおおおおおおお!俺の魔法が…!」


 ゴーレムの胸から人型の物体が引きずり出される。ゴーレムと同じような黒い金属に体が変化したドドガだ。


 俺は奴がスラムから逃げる盾にするためにゴーレムから子供を出したとき、子供たちはゴーレムの胸の位置から出てきたのを覚えていた。ゆえに今回のアダマンタイトゴーレムの場合も心臓部にドドガが融合していると考えたわけだ。


 俺は取り出したドドガを地上に放り投げる。


 核を失ったアダマンタイトゴーレムは糸が切れた人形のように再び崖の方へ倒れていってしまった。損傷を抑えるために、ナッカが錬成魔法で受け止めに行ってくれているようだ。


 俺は地上で倒れるドドガの元へ降り立った。


 「ぜぇぜぇ。万策尽きたな。なんでゴーレムと融合していたところから強制的に引きはがせるんだ。こんな相手は初めてだ、こんちくしょう」


 ゴーレムから無理やり引きはがした割にドドガは五体満足ではあるが、今の戦闘のせいで悪化したのかスラムで負った砕けた首から血が溢れ出ており、致命傷に思える。


 「さあ、もう観念しろよ。まず手始めにあのアダマンタイトゴーレムを解除してもらうぞ。そうしたら命だけは助けてやる」


 「お前はその力をいつ手に入れた」


 「おい話を逸らすな」


 ドドガはもう目の焦点が合っていないように見える。死なれたら困るし念のために”自己治癒力強化”で応急処置をしておいてやる。といってもこの魔法はかすり傷に対してならまだしも、致命傷に対しては気休めにしかならない。


 サフランがある程度回復させてからゴーレムは戻させる方がいいな。


 「お前はその力を覚醒させた後から頭痛がするようになったんじゃないか」

 

 「…何のことか分からないが」


 嘘だ。その頭痛に関しては身に覚えがある。採掘場に落ちてから、特に”弾性付与”を覚えてから偶に頭痛がするようになっている。


 人狩りグルフとの戦いで”過剰魔力付与”を使用した後も頭が痛んだ。魔素中毒の症状かと思ったが、”状態異常耐性付与”をしていたのでそれはない。他に原因があると結論づけていた。


 「お前も俺や宮廷魔術師と同じ、ってことだ。でなきゃ俺の錬金魔法が弾かれるわけねえ」


 「選ばれたって… 知っていることを全部話せ。俺の能力のこともガーネット…赤髪の少女のことも」


 ゴーレムを解除するために魔法を行使させたら死んでしまいそうだし、今は話を聞き出すことを優先しよう。こいつはいろいろと知っているようだ。


 だがドドガは俺の命令を聞かなかった。


 「嫌だね」


 ドドガがニヤリと笑いながらそう言うと、地面から無数の棘が錬成されて俺を襲う。俺は”空壁”で全て防いだ。


 それと同時にドドガの周りに土が集まり、ノーマルのゴーレムへと変化していく。


 「おい、それ以上動くな。本当に死ぬぞ!」


 「盗賊の王として…辱めを受けるわけにはいかない。最後まで戦うぞ。死ねーーーーー!!」


 ゴーレムのパンチが俺を襲う。


 「フール!避けて」


 駆けつけてきたナッカが心配そうに声を上げたが、俺はその場に立ったままそのパンチを受けいれた。


 俺が吹き飛ばされることはなく、ゴーレムの腕の方が砕けた。そしてその余波でゴーレムの本体までひびが広がり砕け、中からはこと切れたドドガが落ちてきた。


 「また無茶なことを。大丈夫なの」


 「ちょっと唇を切っただけ」


 ドドガはかなりの強敵だった。地下ダンジョンでサバイバルをして俺もかなり強くなったと思っていたんだが、まさかここまで追いつめられるとは。


 <選ばれし者>か。


 一体誰に選ばれた者を指すのだろうか。この国の宮廷魔術師も選ばれし者だとドドガは言っていたな。この世界には他に何人の選ばれし者がいるのだろうか。


 気になることは多いが、もうドドガから聞き出すことはできない。ひと段落したらサフラン達にもこの話を報告しておこう。


 俺とナッカはドドガの死体を確認する。


 「ドドガは死んだの?」


 「うん。こいつは俺たちに利用されて生きながらえるより、自ら死ぬことを選らんだみたいだ。でもゴーレムを元に戻す算段ならあるから、それだけは救いだな」


 「さっきドドガを引きずり出していた技ね」


 「そうそう」


 俺の能力やガーネットに関しての情報を得ることはできなかった。だが消えたスラムの人々を助けるという当初の目的は果たせそうだ。


 今の戦いで”魔力付与”で無茶をして体調がやや優れないというナッカに”状態異常耐性付与”と”分離”による魔素中毒の治療を行ってから、俺とナッカは断崖に寄りかかったアダマンタイトゴーレムの足元へやってきた。


 先ほどナッカが錬成魔法で断崖を操作して受け止めていたので、ひどい損傷は見当たらない。


 俺はドドガにやったようにアダマンタイトゴーレムに対して”分離”を実行する。するとゴーレムの体の一部が欠け、その破片が一人の男性に変化していく。気絶しているが息はあるようだ。


 「よし、成功だ」


 「これならスラムのゴーレムも全員元に戻せるわね」


 その後ナッカも錬成魔法でゴーレムを元に戻せないか試していたが、それはやはり無理そうだった。ゴーレムを元に戻す作業は俺にしかできないわけか。大変そうだな。


 俺たちは一仕事を終えた安堵からグータッチをする。


 そこへサフランとリーメルと数人の騎士団員がやってきた。

 森の中でゴーレムが大量に発生してその制圧に手間取っていたらしいが、先ほど俺がドドガの死と共に全てのゴーレムが活動をやめたことでようやく合流できたようだ。


 幹部格の2人も倒し、今はハブラタを主体に残党狩りを行っているらしい。


 俺たちもドドガとの戦いの顛末と、ゴーレムを元に戻せることを報告した。


 「これでスラムの問題もひと段落しそうですね。まずこの巨大ゴーレムからフール様に治してもらいましょう。分離した人々はアジトから荷車と人を連れてきて運ばせます。騎士団はその護衛を」


 早速サフランが次の段取りを決め、騎士団員たちが行動を始めた。仕事が早い。


 「じゃあ俺はさっそく分離作業を始めようかな…」


 人を運び出す準備がまだできていないが、やることもないのでもう始めてしまおうかと考えた。


 しかしそんなとき、俺の視界に気になるものが入った。アダマンタイトゴーレムが抉った断崖の中に何やら部屋のような空間がある。


 アダマンタイトゴーレムが眠っていた場所の近くだし、もしかしたらドドガの秘密の部屋か何かではないか。


 何か有益な情報があるかもしれないと思い、俺はそこの調査をすることにした。

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