第34話 盗賊王の秘密部屋を漁る

 断崖の中に部屋を見つけた俺はそこの調査をすることにした。


 「なんかあそこに部屋みたいのがあるんだけど、誰か一緒に行かない」


 「ナッカの調子が悪いらしいので私たちはここで治療することにします」


 「ごめん、フールに魔法をかけてもらっても治らなくて」


 ナッカは戦闘時よりもさらに体調が悪そうで、頭を押さえる素振りをしている。俺の応急処置が間に合わなかったのだろうか。治療に関してはサフランの方が専門なので任せるとしよう。


 「ある程度よくなったら先にアジトに帰って休んでてもいいから」


 「じゃあ私がフールと行く」


 ということで俺はリーメルと共に断崖の部屋へ向かった。


 部屋は自然の洞窟を綺麗に整地したような作りになっていた。入り組んではいるが、道や壁の凹凸が大雑把に補修されている感じで、見えている部分以上にもっと奥深くまで続いていそうだ。ドドガが錬金魔法で加工したと考えてよさそうだな。


 天井には照明の魔道具らしきものが設置されているが、壊れた壁から明かりが入ってきているのでわざわざつけなくてもいいか。


 部屋には装飾が施されてた宝剣を始めとする宝物の数々や、山積みの書類などがあったが、ひと際存在感を放っていたのは壁に立てかけられた石碑だった。


 小さな円テーブルほどの石碑で、22個の多種多様な紋章が刻まれており、紋章の多くが淡く光っていた。


 「なんだか神秘的な石碑。何の紋章だろ」


 「俺は見たことないな。意味ありげに置かれてるし、とりあえずアジトに持って帰って調べてもらおうか」


 マジックポーチには入らないので俺が担いでいくことにした。


 乱雑に置かれた書類にも軽く目を通す。ドドガが言い残していった”選ばれし者”についての情報があると期待したが、その情報は全くなかった。どうやらこの盗賊団は闇オークションなるものを運営しており、この書類の山は全てそれに関するもののようだ。


 俺が書類に目を通している間にリーメルが部屋の奥でメモを見つけてきた。 


 「フール。これ見て」


 <赤髪の少女。兵士としての教育は不可と判断。闇オークションに出品予定。強大な魔力を保有し取り扱い厳重注意。暴発の恐れあり。オークション直前にドドガさんが直々に搬入する。くれぐれも檻から出さないこと>


 「赤髪の少女って、これガーネットのことか」


 「そうだと思う」


 リーメルはまだガーネットと会ったことはないが、白竜の民のことを紹介するときにガーネットについても軽く触れておいた。だからこのメモがガーネットについてのことだと予想できたのだろう。


 ガーネットがこの辺りの森で倒れていたという白竜の民からの証言もあるし、俺もこのメモはガーネットのことを指していると考える。


 「でも檻から出さないことって…」


 俺とリーメルは該当の檻を部屋の奥に見つけた。しかし檻は異様な姿になっている。


 「これは…」


 「溶けてるのか」


 檻はすでに檻として機能しておらず、中央が楕円状に溶けてなくなっていたのだ。


 「檻を溶かすって相当な魔力。それにこれは内側から溶かされているっぽい」


 「つまりガーネットが内側から溶かして逃げたってことか。そして外に逃げて森の中で…」


 俺はドドガと最後の戦闘を繰り広げた断崖横の森のうち、ちょっとした広場くらいの範囲が炎で消失していたことを思い出した。ドドガが消失した森を見て「あの赤髪の女の仕業か」と悪態をついていたことも。ドドガを制圧するのに集中していて今まで気に留めていなかった。


 「あの森はガーネットが魔法で吹き飛ばしたってことか」


 そして力を使い果たして気絶していたところを白竜の民に捕まったのだろう。倒れるガーネットの近くには魔獣の焼死体も落ちていたらしいが、それもガーネットの仕業だったのだろう。


 「ねえ、ガーネットって子は安全なの?」


 リーメルの唐突な言葉に「なんのことだ?」と一瞬思考が止まるが、しばらくすると言葉の意味を理解し冷や汗が出てきた。


 メモに書いてある”強大な魔力を保有し取り扱い厳重注意。暴発の恐れあり”という文言が再び目に入る。


 「アジトが危ないかもしれない」


 俺はリーメルを抱えて、アジトに向けて飛び立った。


 

 

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