第17話 革命軍のアジトへの道中
積もる話はフール教のアジトに向かいながらというサフランの提案で、俺たちは今、野原を疾走している。アジトなんてものまで出来ているのか。割とガチでやっているのだろうか、その革命軍とやらの活動は。
「そもそも何なの。その革命軍ってのは」
俺が質問すると、並走するサフラン、リーメル、ナッカが自慢げな表情で答えた。
「名前の通りですよ。フール様が私たちにやってくれたように、奴隷を始めとする弱者を救済するための団体です」
「今はスラムの問題を解決するために動いてる」
「それで助けた人とかも参加してくれてるのよ」
「そ、そうなんだ…」
革命軍は俺が解放した奴隷施設にいた人や、サフラン達がスラム街で救った人たちで構成されているらしいし。
俺たち4人の後ろを走る女性たちは、革命軍の中でも特に戦闘力の高い者を集めた騎士団と呼ばれるメンバーのようだ。こんな女性が戦いに身を投じるとは、一体どれほどの覚悟を持っているのか想像すらつかない。
「でも革命って国への反抗だから悪いことなんじゃないの」
「奴隷の反乱を起こしておいて何言ってるのよ」
「ごもっともで」
あまり深くは考えないことにしよう。俺も一度奴隷の身分に落ちた身としては、革命軍の考えに共感できるし。
「というかサフラン達はなんでこんな足が速いの。騎士団では何か特別な訓練でもしてるとか?」
今の俺は”身体能力強化”によって馬並みの速さで走っている。彼女らは闘気を使っているのだろうが、それにしたって練度が高すぎる気がする。そもそもサフランとナッカは魔法職の才能持ちで、闘気の適正が低いはずなのに。
「魔素溜まりに入って体を魔素に慣れさせるんですよ。そうやって死にかけたところで私が治療を施すことで、人間離れした闘気を纏えるようになるんです」
「命知らずすぎる」
2か月前の奴隷施設の反乱で、魔素中毒の死の淵から生還したリーメルは、闘気を纏えるようになったことに気づいたらしい。おそらく体中に満たされた魔素によって、体内の魔力の通り道のようなものが活性化されたのだろう。
サフランとリーメルも俺が”状態異常耐性付与”と”魔力付与”で人体の許容量を超えた魔力を入れたために、リーメル程の強度ではないが闘気を纏えるようになっていたらしい。
「それを参考にして生まれたのがこの魔素トレです。まだ同性にしかできないんですけど」
「それでこのメンバーは女性ばっかなのか」
この魔素トレの治癒はかなりシビアらしく、男女で魔素中毒の症状に若干の違いがあるため、今はまだ同性の治癒しかできない。スラムで襲ってきた盗賊を練習台にして判明したことらしい。
それゆえに男に魔素トレをさせることは基本的になく、高い戦闘力が求められるこの部隊は女性で構成されている。男性と魔素トレをしていない女性はアジトでの裏方を担当しているらしい。
そんな話をしながら走っていると、遠くから爆音が響いてきた。地面が揺れるほどの衝撃が伝わってくる。
音が聞こえてくる方を見てみると、巨大な石の塊が暴れていた。距離感が掴めず正確なサイズ感は分からないが、おそらく10メートルとかあるのではないか。それが何十体もいる。
「あれは?」
サフラン達はこの衝撃を気にかけることなく走り続けているので、俺もそれに従いながら質問する。答えたのはサフランだ。
「スラム街の王が作ったゴーレムという兵器です。ここの領主が失踪した混乱に乗じて、攻め込んできているんですよ」
たしかにゴーレムの足元には、反乱のときにもいたのと同じ鎧の騎士たちが群がっている。領主の代理が編成した軍隊らしい。
「へー、領主が失踪ね。大変なこともあるもん…だ… あれ、それって俺のせいじゃね?」
領主ってこの前の反乱のきっかけになった視察に来てたって奴だよな。つまり俺のせいで戦争が起きてるのか。
「フールが気に病むことないわよ。悪いのは奴隷を苦しめていた領主と、戦争を始めたスラムの王なんだから」
「でも何の罪もない市民を見殺しにするわけにもいかないから、私たちも避難とかを助けてる」
「革命軍ではそんな俺の尻ぬぐいみたいな活動までやってるのか」
これは俺も何か手伝わないといけないな。
「そろそろ森に着きますよ」
話している内に森が見えてきた。森沿いに奥の方には巨大な石壁が見える。あれがスラムなのだろう。
俺たちはスラムを横目に森の奥にあるというアジトを目指す。森の中には虎や熊のような魔獣が生息していたが、俺たちはそれらを避けながらついにアジトにたどり着いた。
「おー、デカい壁だな」
森の中に巨大な石の壁があった。高さは森の木々より少し低く、20メートルくらいだろうか。奴隷として働いていた採掘場を囲んでいた壁を彷彿とさせる。
「私の魔法で作ったのよ。錬成魔法のいい練習になったわ」
どうやらナッカが一人で数日かけて作ったものらしい。魔力が足りなくなったら森の奥の魔素が濃い場所に行って回復させていたのだとか。そういうクレイジーなことはやめてほしいものだと、魔素で死にかけた俺としては思う。
サフラン達が帰ったことに気づくと、門の上に配置された人間が裏側に合図をし、俺たちはアジトの中へと入った。
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