第18話 革命軍のボスになりました
アジトの中はかなり広かった。森の中でこっそりキャンプ地を作っているとかではなくて、もはや一つの街のようだ。観光名所になるような綺麗な感じではなく、生活感がある。
森の魔獣を解体するところや、その肉を調理して提供する食堂のようなところ、武器や服を作る工房に、奥には居住区のようなところまである。しかし人はいないようだ。
「汚くてすみません。実用性を重視して作ったものなので」
「十分すぎるでしょ。人がいないのが気になるけど」
「他のメンバーは広場に集まってるわよ」
サフランたちに案内されるがままに歩いていくと、俺たちは広場へと出た。なんとそこでは1000人近い人々が整列して待っていた。聴衆たちは全員俺たちと同じ白い服を着ており、中には奴隷施設で見かけた人なんかもいる。
「あの反乱後に行き場がなかった人々を私達がまとめあげたのが革命軍の始まりなんですよ」
「しかしこれはいくらなんでも多すぎなんじゃ。よくこんな大人数のリーダーになろうと思ったな。おっと」
突如サフランに手を引っ張られて。俺はその集団の正面に設置された台へと連れていかれた。グラウンドに整列した全校生徒に挨拶する校長先生のような感じだ。恥ずかしいんだが。
するとサフランが声を上げる。
「お待たせしました。それでは改めて紹介しましょう。こちらが奴隷の救世主であり、我らのボスであるフール様です!」
「…はい?」
奴隷たちから「うおーー!」と歓声が上がる。
我らのボスって言ったか。俺が。
俺の内心など露知らず、サフランは言葉を続ける。
「スラムから入った人は知らないかもしれませんが、あの日、私たちの元に現れて全ての奴隷を解放したフール様の雄姿は、生を諦めていた私たちに勇気を与えてくれました。聖教のエルピス神の庇護下にない奴隷の我らには、彼こそが真の神に見えました。しかしフール様は神などではなく、強く優しいただの人なのです。そんな彼の弱者救済の活動を、彼に救われた私たちが今度は手伝いましょう。私たちのように苦しむ人々に救いの手を差し伸べましょう。共に戦いましょう!」
サフランの演説で聴衆たちの歓声は最高潮になった。
なんだろう。まず俺が弱者救済を日常的にしている人だという勘違いが起きているな。サフラン達は他人とは言えない仲になったから助けただけなのだ。これ以上奴隷解放とか人助けをする予定なんてなかった。
「え、俺がボスなの。サフランじゃなくて。聞いてないんですけど」
「当たり前じゃないですか。フール様以外に適任はいません。もしかして迷惑でしたか。そんなことないですよね?私がしっかり補佐しますから」
俺への圧が凄いことになっている。サフランの瞳から光が消えていっている気もする。
「フールが嫌なら私たちだけでやるけど」
「そうね。迷惑はかけたくないし」
リーメルとナッカは悲し気な顔をしてくる。どうしようこれ。引くに引けないんじゃないの。
だがよく考えてみれば、たしかに組織の力は便利かもしれない。
追放された上に元奴隷である俺には帝国にも中央王国にも居場所がないし、クラスメイトと合流し、元の世界に帰る方法を見つける助けになるかもしれない。それに別に俺は人助けは好きな方だしな。
ええい、なるようになれ!
「我らに勝利を!」
ということで俺もこの場の空気に合わせて、聴衆たちに向けて拳を天高く掲げた。
☆ ☆ ☆
サフランによる演説が終わると聴衆たちは各々の仕事に戻っていった。狩りによる食料の調達や調理、武器や防具の製作をするのだろう。
俺は騎士団たちと共に会議室に移動した。会議室には細い机がいくつもあり、俺はリーメルとナッカと席に着いた。
サフランはまだ他の仕事があって遅れるらしいので、俺は今持ち物の整理をさせてもらっている。
「なにその袋凄いわね。こんなにたくさん物が入ってるなんて」
「採掘場の下にあったダンジョンで見つけたポーチでな。ロッカー1個分くらいの容量があるんだけど、もういっぱいだから整理しようと思って」
「マジックポーチって奴ね」
ナッカはこういう魔法のアイテムに興味があるらしい。この革命軍の製作部門の責任者も務めているんだとか。
ということで俺が袋から取り出した変わった鉱石や魔獣の素材はナッカにあげることにした。ダンジョン内でのサバイバルに利用できるかもと、いろんなものを詰めておいたのだ。
「この花は何?」
バケツ5杯分ほどの山盛りの花を見てリーメルが聞いてきた。青に白い2本線が入った綺麗な花弁をした花だ。
「これは地下に咲いてた花なんだけど、魔獣を寄せ付けない効果があるっぽくて大量に持ってたんだよ」
「ふーん。アジトの周りに植えたら便利そう。かわいいし」
ということでこの青い花の大半はリーメルに任せることにした。アジトの壁の周囲に植えておけば植えておけばさらに安全な場所になるだろう。門番たちが対応しにくい空の魔獣も防いでくれるだろうし。
魔獣避けになって便利なので俺もいくつか持っておくか。たしかこの花は帝国の城の庭にも咲いており、葵が好んでいた記憶があるし、再会したらプレゼントするのもいいかもしれない。
いや、待て待て。なんでここで葵にプレゼントって話になるんだ。採掘場で走馬灯を見た時も思ったが、帝国を追われてから俺にとって伊織葵という存在が大きくなっている気がする。
二人はそれぞれ貰ったものを嬉しそうにいそいそと自前の袋に詰める。
ちなみに製作部門を指揮するナッカに対して、リーメルは諜報・隠密系の仕事をしているらしい。彼女たちが町から盗んできた書物で、部下は魔法や地理の勉強をしているんだとか。
そんなことを話しているとサフランがやってきた。
「お待たせしました。ではフール様が加わった革命軍として初の仕事の計画を話しましょう」
サフランの言う計画とは、採掘場からここに来るまでにも少し触れたようなスラム街の問題を解決することのようだ。
その問題というのは、先ほど見かけたゴーレムや戦争のことだ。スラム街の中央に住む王がゴーレムを解き放ったせいでスラムの住民は行き場を失っている。その人たちを安全なところに避難させる、もしくは革命軍に入ってもらうのが目標である。
さらにはこの戦乱に乗じて人が消える事件も起きているようだ。騎士団の中にも家族が消えてしまった人間がいるようで、その捜索に乗り気らしい。
「つまりこれからの目標は今いる人間の保護と、いなくなった人間の捜索ってことか」
「そういうことです。特に見つけ出したいのが黒いローブの占い師です。実はその人物の助言のおかげでフール様が今日あの採掘場に現れると分かったんです。彼には是非とも今後も力を貸してもらいたい」
そういえば革命軍うんぬんってことで忘れてたけど、なんであの時サフラン達が採掘場にいるのか不思議だったんだよな。採掘場に住んでるわけでもなさそうだったし、まるで俺が今日地上に出てくるのが分かってたみたいだった。
どうやらその情報は占いによるものだったらしい。2か月前にスラムで出会ったときに「2か月後の雨の日の翌日に救世主が再臨する」と助言されたんだとか。
もしかしたらその占いで、元の世界に帰る方法のヒントが分かるかもしれない。革命軍としても俺個人としてもその人は必要だ。
「では騎士団のメンバーでスラムに向かいましょう。半分はアジトの防衛に残って…」
ギャーーーーーース!
サフランの説明を遮るように、遠くからバカでかい音が聞こえてきた。魔獣の鳴き声だろうか。
「すみません忘れていました。スラムから人が消える原因の候補にこの白竜が上がってるんでしたね」
サフランがため息をつきながらぼやいた。
どうやらこれは白竜の鳴き声だったらしい。このアジトのある森のさらに奥には白竜山脈と呼ばれる白竜の住処があり、最近そこから白竜が下りてくることが増えたのだとか。
「何人かは白竜の調査に向かった方がいいわね」
ナッカが提案した。
しかしただでさえ数が少なく、アジトの防衛のため半分にする騎士団をさらに半分にするのは愚策に思えた。騎士団以外の一般兵を俺の付与で強化して戦力に加えることも提案したが、それは緊急事態時などの最終手段だと反対されてしまった。
たしかにいくら戦闘力に下駄をはかせても、訓練を受けていない人間を混ぜるのは危険だと俺も納得した。
採掘場での反乱のときは奴隷たちを強化して戦わせるしかなかったが、実際あの反乱でも何人かの戦死者が出てしまっていたらしいし。
となると、白竜の方は俺がなんとかすればいいか。ダンジョンで成長した俺ならドラゴン相手でも苦戦しないだろうし、騎士団にはスラムの方を任せるとしよう。
「じゃあ白竜は俺が行くよ。他には森の案内ができる人が一人いればいいか…」
俺が言い終わるより先にサフラン、リーメル、ナッカの幹部格が凄まじい勢いで挙手した。3人共鬼気迫る表情で一歩も引かない。そんなに白竜の相手をしたいのか。
「こうなったらやるしかないですね」
「負けるつもりはない」
「この勝負はもらうわよ」
「え、なにするつもりなの…」
俺や他の騎士団のメンバーが若干引いている中、3人は全力でジャンケンを始めた。
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