万能の付与術師は無双する~クラス転移されて追放&奴隷化された俺は気づいたら最強になっていました。救った奴隷たちが作った革命軍のボスになったので、この世界に反逆したいと思います~
第19話 人食い白竜 とある赤髪の少女side
第19話 人食い白竜 とある赤髪の少女side
中央王国のスラム街、その後方に広がる巨大な森。白竜大森林と呼ばれるこの森には大昔からとある部族が住んでいた。
彼らは白竜の民。白竜を神と崇め、白竜の加護の元で生きる、文明に取り残された異民族だ。王国にもその存在が確認されていない。
彼らにはある風習があった。流行病や天災などの有事に、守護者である白竜に生贄を捧げるのだ。生贄には魔力を多く持った若い女性が選ばれる。基本は部族の中から条件に見合う女子を見繕うのだが、今回の生贄は村の外から拾ってきた赤髪の少女だった。見た目は15歳前後だろうか。
「おい!早く歩け!俺たちにはもう時間がないんだ」
「痛っ!ねえどこに行くの」
赤髪の少女は縄で拘束されて、20人の白竜の民の戦士たちに森の中を歩かされている。
『ガルルルル』
「ひっ!」
そんな一行の前に森の魔獣が現れた。集落の家屋ほどのサイズがあるハウンドタイガーだ。冒険者ギルドの基準で言えば、A級冒険者単体か、B冒険者の複数人パーティでの討伐が推奨されている凶暴な魔獣だ。赤髪の少女は身がすくむ。
「邪魔だ!」
「キュイン」
しかしそんなハウンドタイガーでも鍛え上げられた白竜の民の戦士には敵わない。隊列の側面を歩く一人の戦士の槍の一振りで絶命してしまった。
赤髪の少女は絶望した。
こんな魔獣が巣食う森から生きて逃げれるわけないし、そもそもこんな屈強な戦士たちの手から逃げることすら無理だろう。
しばらくすると開けた場所にたどり着いた。木漏れ日によって神秘的に演出されたこの空間の中央には、苔だらけの地面の上に石作りの巨大な台座が置かれている。生贄を捧げるための祭壇だ。ちょっとした屋敷ほどのサイズである。
「族長…」
「よし。では赤髪の女子を祭壇の上まで運べ。準備ができしだい儀式を始めるぞ」
一人の戦士が少女を抱え、50段以上ある階段を足早に上って祭壇まで連れていく。少女は抵抗むなしくここで足まで拘束され、台座の中心に設置された木の柱に括りつけられた。いよいよ逃げることができなくなってしまったのだ。
「やめてよ!なんで私がこんな目に」
「我ら一族が生き延びるためだ。悪く思うな。今日まで保護してやっていた恩を返せ」
少女の悲痛の叫びを受け流して、戦士は台座から降りていく。
少女は暴れて拘束を解こうとするが、硬い縄はびくともしない。皮膚から血が滲み縄を赤く染めていく。
「では儀式を始める」
族長の合図を機に戦士たちが各々腰にかけていた角笛を吹いた。音は森中へ、さらには森の奥の山脈にまで響き渡る。ひとしきり角笛を引き終えると、族長を筆頭に何やら呪文のようなものを唱えだした。魔法を発動するための詠唱ではなく、白竜へ捧げるお祈りだ。
『ギャーーーーーーーーッス』
まるでそれに応えるかのように、今度は森へ生物の叫び声が響く。白竜の鳴き声だ。
次の瞬間、上空から先ほどのハウンドタイガーの数倍のサイズの白竜が降下し、祭壇へ降り立った。白竜の襲来には目もくれず、族長と戦士たちはお祈りを続ける。
白竜は祭壇に捧げられた赤髪の少女を確認すると、口を開けてよだれを垂らしながら近づいていく。
「嫌!来ないで!」
少女はどうにかして縄を切って逃げようとするが、指先や腕から血が出るだけでどうにもならない。
部族たちはお祈りを続ける。
「我らの守護者たる白竜よ。我らの供物が受け入れ、平穏をもたらし給え。我らに仇なす呪いを祓い給え。我らの願いを聞き届け給え」
これに続いて戦士たちも同じ言葉を繰り返しだした。これが白竜に生贄を捧げる彼らの儀式なのだ。
その言葉を理解したかは定かではないが、白竜の口がさらに大きく開かれて少女に迫る。
(もうダメ…)
少女は自分の運命を受けいれて目を閉じた。そして次の瞬間…
ズシーン!
「…え?」
何か音がした。
赤髪の少女がゆっくりと目を開けると、白竜が首だけになって落ちていた。少女は何が起きたか分からなかったが、遠くから見守っていた族長たちからはよく見えた。
白竜の首が、飛来した何者かによって斬り落とされたのだ。
ズダーン!
首を失った巨大な胴体は力なく倒れ、そのまま台座からずり落ちていった。台座の上には一人の黒髪の少年が立っていた。
「おや。すみません。獲物を横取りしちゃった感じですか。素材とかはいらないので、竜のお腹の中だけ確認させてもらっていいですか。人を食ってるかもしれないらしくて」
その少年の元に薄緑の髪をした少女が飛び乗ってきた。
「せっかく倒したんですから素材は貰っていきましょうよ。こういうのは早い者勝ちでいいと思います」
「えー、じゃあ貰ってちゃう?ナッカにこの竜の鱗を渡したらこのコートをパワーアップしてもらえるかな」
「それは名案ですね。いい白色ですし。でもそれより仕事が先ですよ」
沈黙の中で二人の楽し気な会話だけが響く。
唖然としていた白竜の民は彼らの会話を聞いてようやく正気を取り戻し叫んだ。
「神殺しだー!奴らを殺せ!」
「「え…?」」
族長の叫びをきっかけに戦士たちが2人に襲い掛かった。
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