第25話 スラム盗賊のアジトへ潜入
ゴミ山を駆け抜けた先で、つなぎ目一つない石壁が立ちふさがった。高さはアジトの壁の倍の40メートルほどはあるようだ。この壁の中全てが盗賊団のアジトらしい。
ただでさえ国の目が届かない広大なスラム街の真ん中に、さらに壁まで張ってしまうとはな。悪事なんかもやりたい放題だろう。
まずはサフランが採掘場のときと同じように火魔法による信号弾を上げた。壁の中にいるであろうリーメルを呼び戻すためだ。
しかしスラムの別の場所で調査をしていた騎士団員たちを呼び寄せることはできたが、10分以上待っても一向にリーメルは現れなかった。
「もしかしたらアクシデントかもね」
「それでは私たちも中へ行きますか。目標はネネちゃんのお父様を始めとする行方不明のスラムの住民の捜索、それとリーメルの安否確認です」
「ドドガは倒さなくていいの」
俺の質問にサフランは顎に手を置いて少し考えた後に答える。
「ドドガはその辺のチンピラ盗賊とは一線を画す強者ですので、今までは関わらないようにしてきたのですが、フール様がいるなら大丈夫かもしれませんね。行方不明者を地道に探すよりドドガに聞いた方が確実でしょうし。ドドガの身柄の確保も目指しましょう」
ということで精鋭の俺とサフランとナッカはドドガの元を目指し、他のメンバーは俺たちの援護及び住民とリーメルの捜索をするという作戦になった。
ちなみにドドガはスラムから出て盗賊行為を行うことは滅多にないらしい。近くの街へ山道で盗みを働くのは部下がやることで、ドドガは基本的にはずっと街で過ごしているんだとか。
なのでこれから潜入しても目当てのドドガがいないということは十中八九ない。
「それでこれはどうやって中に入るの」
ここから見える範囲に入り口らしきものがないので、俺はサフランたちに質問する。返答をくれたのはリーメルが壁の中へ行ったと報告をした騎士団員だった。
「リーメルさんと調査した結果、この壁に入り口はないことが判明しました。なのでリーメルさんは壁を登って侵入してましたね」
「この壁を…」
全員が絶句した。とんでもない身体能力だな。
この壁に入り口がないというのは、おそらくドドガの錬成魔法でその都度出入口を作っているのだろう。それか隠し通路でもあるか。それなら部外者は壁を登るしかないと。
「壁に穴を開けて内側に見張りがいたら厄介ですし、私たちも壁を登っていきましょうか」
「あ、じゃあ私が柱を伸ばすわよ」
ということでナッカが地面から土柱をせり上げて、エレベーターのように俺たちは上がることにした。俺とサフランとナッカ、それに騎士団員が22人の計25人による潜入だ。
俺の”ベクトル付与”で飛ぶ方が迅速でお手軽だが、25人を一気に持ち上げるのは無理なのだ。俺の”ベクトル付与”は不可視の矢印を対象に張り付けるイメージであり、その矢印の方向に力がかかるという魔法だ。しかしこの矢印は一度に3つしか付与することができないのである。
壁の上には等間隔に監視塔のようなものが設置されていた。しかし肝心の監視者はいないようだ。さすがは盗賊クオリティ。
壁の内側にはスラムとは思えない整備された石作りの街が広がっていた。もしやこの建物群もドドガとやらが錬成で作り出したのだろうか。
国を相手に自ら戦争を始めるような男だし、盗賊イコールチンピラかぶれという認識は改めた方がいいだろう。おそらくこいつはかなり熟練な魔法の使い手だ。
俺は全員に”身体能力強化”を始めとする基本的な付与をかけた。闘気を纏える者に対しては効果がかなり薄れるのだが、ないよりはマシだろう。
壁の内側には、壁から階段状に石がせり出していたので俺たちはそこを駆け下りていく。バレずに地上までたどり着くと騎士団は散開した。スラムの住民を捜索しに行ったのだろう。
しかしこの街はかなり広いとは言え、広大なスラム全体に比べたら100分の1にも満たない広さだ。地中にもいなかったし、いったいどこに住民を移動したのだろうか。
ドドガの元へ向かう俺たち3人は石作りの家の屋上を駆けていく。”ベクトル付与”で飛んでいくことも考えたが、空は目立つということで却下されてしまった。それに3つしかないベクトルの矢印を3人に使ったら、飛んでいるときに防御ができないからな。
他の移動手段として”座標付与”があるが、これは今の俺では自分対象にしか使えないという問題がある。ゆえに屋上を素早く走っていくのが最適解というわけだ。
この”座標付与”はかなり使い勝手が悪いんだよな。前述のように自己対象でしか使えないうえに、座標の設定のために発動までに時間がかかるため、ハイスピードな戦闘中では使えない。この仕事が終わったら使いやすく調整をしよう。
地上では盗賊が歩いているが、昼間から飲んだくれているのか俺たちに気づく様子はない。
俺は自身の魔法の射程距離である半径40メートル以内を探知しながら進んでいくが、俺たちに気づいた様子の盗賊はまだ一人もいない。
「というか真っすぐ走ってるけど、ドドガの家に目星はついてるの」
「町の中央にひと際大きな屋敷が建っているのが、壁の上から見えました。おそらくドドガはそこだと思います」
「私も同感ね。盗賊のボスを差し置いてあんなのに住める部下なんていないだろうし」
2人とも壁の上の時点でそこまで見ていたのか。行き当たりばったりの俺とは大違いだな。俺は大人しくサフランたちについていこう。
「頼もしいな。警備も緩いし、このまますぐに中央まで着いちゃいそうだな…っと!」
俺がフラグを立てたせいか、突然建物の下からズガーンと石柱の槍が伸びてきた。この近くに人の気配はなかったんだが。
「大丈夫か」
「問題ないです」
「大丈夫よ」
二人とも回避が間に合い直撃は避けたようだな。
さらに驚くべきことに、俺たちを襲った石の槍が変形して腕の形になった。下の建物を崩しながら現れたのは巨大なゴーレムだった。
「これは戦場にいたゴーレムか」
体長5メートルほどのゴーレムが俺たちに向けて腕を薙ぎ払ってきたのでさらに回避する。
「私たちの侵入はもうドドガにバレてると見ていいですかね」
「おかしいわね。警備に見つかったはずはないんだけど」
同感だ。罠でも踏んだのだろうか。
さらに俺たちの元へ横から鉄球が飛んできた。軽自動車ほどの巨大な鉄球には鎖がついており、その鎖は地上にいる巨漢の手元まで伸びていた。ゴーレムの音を聞きつけてやってきた盗賊だろう。
「侵入者だ!全員起きろ!」
巨漢の叫びを受けて建物からゾロゾロと盗賊が出てくる。俺たちは一気に劣勢になってしまった。他の騎士団員は大丈夫だろうか。というかここからどうしようか。
「ここは私が引き受けるので二人でドドガの元へ行ってください」
サフランが臨機応変に対応してくれた。白竜の民との戦いで見た彼女の実力ならこれくらいの盗賊相手に死ぬことはないだろう。それに回復魔法もあるし。
「任せた」
「無理そうだったらすぐ信号弾を上げるのよ」
サフランは軽く手を上げて返事をする。
俺はサフランに再び強化系の付与をかけると、ナッカと共にドドガの元へ駆け出した。
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