第24話 スラム街での調査結果

 アジトに着くとガーネットを部下の一人に任せた。スラムから保護してきた子供の世話なんかもしているためか、詳しい事情も聞かずにテキパキと着替えの服を用意してくれている。


 俺とサフランはガーネットに見送られながら、”ベクトル付与”で空を飛んでスラム街に向かう。


 「ガーネットはスラム街の神隠しの被害者なのかな」


 「今はまだ何とも。彼女が記憶喪失である以上、有益な情報も得れないでしょうし、スラムでの調査を優先しましょう」


 森を抜けると眼下にスラム街が広がっていた。ゴミの山がいくつもあり、木の棒とボロキレで作った簡易テントがいくつもある。これが遠くの山の向こう側までずっと広がっており、かなりの広さだ。


 こんなところでサフランやリーメルは過ごしていたのか。


 しかし不思議なことに、多くの即席テントがあるわりに人の気配が全くない。近くで戦争が起きてはいるが、別にここまで戦火が広がってきているわけではない。これ以上行く当てのない人々がこれだけ一斉に姿を消すのは、たしかにおかしいな。


 詳しい話を聞いたところ、5日前の夜に一晩でスラムの大半の人間が姿を消したらしい。それ以降残った住民も少しずつ消えていってるんだとか。しばしば少数の騎士団が巡回に当たるも原因は判明せず、今日が初めての本格的な調査になるらしい。


 「フール様。あそこにナッカが」


 サフランが指さした方向にたしかにオレンジっぽい金髪の女性がいた。俺たちはそこに着地する。


 「お疲れ様です。調査はどんな感じですか」


 「あ、サフラン。それとフール。さっきようやく子供を一人保護したところなんだけど…」


 どうやらスラム街にはまだ生き残りがいたようだな。他の人が消えた原因を知っているかもしれない。


 ナッカは中腰で泣きじゃくる幼い女の子を慰めていた。茶髪の獣人のようだ。あやし方が分からないのか、かなりワタワタしている。


 「泣き止ませ方が分からなくて話が進まないの」


 「ひどいもんですね」


 頑張っているのにひどい言いようだ。周囲の騎士団員もワタワタしてナッカに任せきりだ。武闘派集団なので、子供の扱いが上手な人材がいないのだろうか。


 「白竜の方はどうだったの?一晩戻ってこなかったけど」


 「そっちはたぶんスラムとは関係なかったよ。まあいろいろあったから後で教える」


 「ともかく今はこの子の話だけが手がかりなんです。しっかりしてくださいよナッカ。私がお手本を見せてあげましょう」


 そうクールに言い放ったサフランはナッカと交代すると、頭を撫でるだけですぐに女の子が泣き止んだ。


 「すごいわね、こんな一瞬で泣き止ませて。コツとかあるの」


 「鎮静の魔法です」


 ズルじゃんと誰もが思っただろうが、話が進まなくなるので特に突っ込まなかった。早速俺たちは女の子に話を聞くことにする。この辺りにはもう人が全くいなく、この少女だけが頼りなのだ。


 「お名前はなんて言うんですか」


 「…ネネ」


 「いい名前ですね、ネネ。親御さんや友達はいないんですか。どうして一人だったのか話せますか」


 「グスッ。ぱ、パパが地面に飲み込まれちゃって。ネネはパパが守ってくれたから大丈夫だったけど、パパが…」


 女の子はまた泣き出してしまった。


 このスラム街には”恵みの雨”というゴミの雨が降ってくる超常現象があるらしいが、人が地面に飲み込まれるという現象には誰も心当たりがないようだった。


 俺たちはその現場までネネに案内してもらった。


 「ネネはここに隠れてたの。それでパパはここで消えちゃった」


 ネネが指した場所は何の変哲もない地面だった。俺は試しにそこに立ってみたが、地面に飲み込まれたりはしない。


 「ちょっ!何やってるんですか!」


 「飲み込まれたらどうすんのよ!」


 怒られた。


 「大丈夫だって。飲み込まれても脱出できると思うし。でもなんかこの地面違和感があるな。魔力を含んでるのか」


 この土の感じはどこかで見たことがある気がするんだが、どこだったっけか。


 考えている俺の横にナッカが来て、しゃがんで土に触れた。


 「これは…フールや私がやってるみたいに土に錬成された痕跡があるわね」


 「ああ、それで見覚えがあったのか。つまり誰かが地面を変形させてここの住民を地面に飲み込んでいるってことなのか」


 ナッカが錬成魔法で地面を変形させて大穴を開ける。しかし地中に人の姿などはなかった。ネネちゃんのお父さんはどこに消えたのだろうか。


 ここでサフランが重要な情報を明かす。


 「錬成魔法の使い手なら心当たりがあります。このスラムの王であり、このスラム街の中心にアジトを構える盗賊団のボスのドドガという男が錬成魔法のようなものを使っていたはずです」


 「怪しすぎるな」


 「盗賊団が人を攫ったってこと?」


 スラムの盗賊団はスラムの住民には興味がないらしい。盗賊活動に奴隷は活用できないし、アジトでの雑用程度なら盗賊団の下っ端にやらせればいいからだ。奴隷は維持管理が大変だしな。


 だからサフランにとってこの神隠しが盗賊団と関係あるかもしれないというのは意外だったようだ。


 スラム中の人間を一晩で消したというのは規模がデカすぎる気がするし、ただ人を攫うのではなく地面に埋めたというのも謎な行動だが、犯人はその盗賊で間違いはないだろう。


 「あの… 実はリーメルさんはすでに一人で盗賊団のアジトに潜入しています」


 ここで騎士団の一人が報告した。どうやらリーメルは最初から盗賊団を怪しんでいたのか。


 ネネちゃんは騎士団の一人に革命軍のアジトまで連れて行ってもらい、残ったメンバーでスラムの中心にあるという盗賊のアジトへ向かうことにする。


 「ネネちゃん。あなたのお父さんは私たちが助けるからね」


 ナッカが少女に向けて最後にそう言った。

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