第93話 重力魔法の攻略

 「もうちょっとで金髪のは死ぬとこだったな。もう俺との差は分かっただろ。どうだ。今のうちに降参したらお前ら全員部下にしてやってもいいぞ」


 「嫌だね。竜人族を苦しめるやつなんかの部下に誰がなるか」


 パレッドからまさかの勧誘を受けた。3人の覚醒者を一度にまとめて部下にしようとするとは強欲な奴だな。


 それほど自分の勝利を確信しているのか。それとも虚勢を張っているのか。どちらにしても俺はこいつを倒して、メアやターニャさんを始めとする竜人族を解放するだけだ。


 俺はリベリオンから炎を出し、槍先に纏わせる。リベリオンから溢れ出る、アザレアから回収した無限の魔力の一端によって俺の”魔力付与”の効率がさらに上がるのを感じる。


 パレッドは目を細めて俺のリベリオンを警戒するが、それほどの脅威ではないと判断したのか、すぐに元の態度に戻った。


 「やはりそれは神器か?だがそれがあったところで俺のグラビティコアは突破できんがな」


 「それはどうかな」


 俺の生意気な態度に表情を曇らせたパレッドが次なる攻撃をしかけてくる。


 「じゃあお望み通り、次はお前に喰らわせてやるよ。テレポートで逃げ切れるといいな。グラビティコア!」


 再びパレッドの頭上に黒点が出現した。今度のはサイズも今までのこぶし大のものから、バランスボールくらいの大きさになっており、引力も最初から強めに設定されている。周囲の瓦礫が急速でかき集められれては、片っ端から塵と化していく。


 だが俺たち3人はその強烈な引力の影響を受けていなかった。


 「!?どういうことだ。なぜ効かない」


 満を持して発動した大技が効かずに、今までで一番うろたえている様子のパレッド。そんな彼に俺はネタ晴らしをすることにした。


 「俺の権能は付与魔法。俺はこの力で今、俺たち3人と黒点の間の空間の”斥力”を強化している」


 「なに!?それは…」


 「その反応を見るに、やっぱりお前も同じことをしてたみたいだな」


 斥力とは物体同士が反発する力のことだ。簡単に言うと引力の逆バージョンだな。


 引力とは物体同士が引っ張り合う力のことで、特に地球と地球上の物体の間に働く引力のことを重力という。(まあ正確には重力は、地球の自転の遠心力とかも関わってくるが)


 つまり重力魔法の権能持ちが、その重力魔法の応用で斥力を操作できてもおかしくはないのだ。


 「よく気づいたな」


 「一番のヒントは殴ったときの抵抗力だな。あれは重力が変わったのとは違う力が働いていると思った」


 奴の不可視の抵抗バリアはこの斥力を操ったもので、俺の拳を反発させて衝撃を和らげていたのだろう。それがあの抵抗力の正体だ。


 俺の”ベクトル付与”よるも細かな重力操作で攻撃を受け流していると思っていたのも、実際は自分の体表から一律に外に向かうこの斥力によるだったのだろう。それなら細かい魔法操作がいらず、ほぼ自動で攻撃を弾いてくれるからな。


 俺が上空まで吹き飛ばされた強力な蹴りも、この力によるものだったに違いない。もしかしたら蹴りのインパクトの直前までは引力を強めて、対象を引っ張っていたりしたのかもしれないな。


 そしてこの反発する斥力の力で、奴はグラビティコアの影響すらも無効化していたのだ。


 ここまでのことを予想した俺は、自分の付与魔法で物体間に働く”斥力”と”引力”を強化することを思い付いた。


 さっそく”引力強化”で遠くに落ちたリベリオンを回収し、”斥力付与”で俺たち3人のグラビティコアの引力の影響を中和無効化してみたが、どちらも上手くいった。


 元々”空壁”を始めとして、空間への付与には慣れていたからな。最初からやろうと思えばできたのだろう。


 この空間にはいろんな物理的な力が働いている。そのことにパレッドが気づかせてくれたおかげで、この新技を編み出すことができた。


 「グラビティコアは自分が被害を被らない、斥力で中和できる威力までしか出せないんだろ。その程度の威力なら俺の魔法で無効化できる」


 「ほう、なるほどな。理科の勉強をしっかりしてたおかげで俺の能力を分析できたな」


 グラビティコアを封じられたパレッドは素直に俺の分析と対策を褒めた。


 だが焦っている様子はない。


 「だが、これで俺と同じ土俵に立ったってだけだ。まだ勝ちを確信するには早いぞ」


 「そうだな。決着をつけよう」


 俺は自分の付与魔法で、パレッドの重力魔法の一部を再現しただけに過ぎない。まだパレッドは他の技も戦意も残っている。戦いはここからだ。


 「お前の成長を心から嬉しく思う。もっと俺を高ぶらせてくれ!」


 パレッドが意気揚々と突進してきた。さらに俺の体が奴に引き寄せられる。引力を強化したのか。


 ここで俺はこの引力にさからわずに、さらに自分の意思で引力を強化した。両者の接近が早まる。


 「攻めに出たか!いい根性してるな!」


 俺とパレッドはお互いに拳に引力を乗せて、相手の顔に1発食らわせる。頭の中をシェイクされたような感覚に陥る。


 そしてパレッドの斥力操作により、俺はパンチの勢いをさらに増して吹き飛ばされてしまった。俺の”斥力強化”は間に合わなかった。


 さすがに引力や斥力の操作の練度はパレッドの方が上だ。奴が俺に食らわせたパンチの方が重い一撃だっただろう。


 だが俺には”引力強化”や”斥力強化”だけでなく、付与による強化がある。攻撃も守備もこれで底上げされている。これで差を埋めて、ダメージは五分五分だ。


 いや、正直これでもまだパレッドには届かないか。


 「付与魔法でこんなことまでできるとは。面白い権能だな。だが俺の方がまだ上だ」


 「残念ながらそうらしいな」


 パレッドが言うように付与での底上げがあってもまだパレッドの方が上手だ。これが歴の重みか。今作ったばかりの新技では敵わない。


 そのとき、パレッドの元へ横方向から火球が飛んできた。


 「ぐはっ!」


 ガーネットの火球だ。斥力バリアや重力操作でパレッドが妨害しようとしたところを、俺が”引力強化”でさらに妨害してガードを阻止した。


 「一対一だったらな」


 俺は先ほどの”パレッドの方が上”という自分の発言に付け加える。


 「野郎…」


 すぐさま斥力で火球を跳ね飛ばしたが、若干の火傷は追ってしまったパレッドが悔し気に呟いた。


 当初の作戦通り、俺は仲間の力も借りてパレッドを上回る。

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