第83話 vs.重力使い①
「あのメアとかいう竜人を姫のとこに向かわせてよかったのか。また姫さんの位置が俺に筒抜けになっちまうわけだが」
「見えたところでどうしようもないだろ。お前はここで俺に倒されるんだから」
「それは無理だと思うぞ」
パレッドの目つきが変わった。
言い終わるなりパレッドは急加速して俺に接近し、再び蹴りを入れてきた。とてつもなく重い一撃だ。奴は重力魔法を俺の”ベクトル付与”と同じような使い方をして、自分を高速かつ精密に動かしているのだろう。
俺はなんとか”ベクトル付与”で支えた”空壁”を足場にして吹っ飛ばされるのは防ぐ。
「いいな。空中戦ができるやつはレアなんだ。もっと俺を楽しませてくれよ」
こいつ遊んでやがるのか。
俺は一度パレッドから距離を取り、リベリオンを振るって奴に向けて炎を放出する。俺の視界をも覆いつくすほどの巨大な炎がパレッドに襲い掛かる。
だが次の瞬間にはその炎は跡形もな消し飛んでしまった。パレッドがこちらに向けた右の掌に吸い込まれていったようだ。
「危ない危ない。いきなりこんな大技を出すとはな。俺が好きだったバトル漫画ではまずはお互い小手調べのウォーミングアップするもんだったんだがな」
「バトル漫画?この世界にもそんなのがあるのか?」
「そうじゃなくて俺が生前日本人だった頃に読んだって話だ」
「元日本人…!?」
パレッドから予想外の言葉が出た。まさかの同郷の人間だったようだ。
俺たちクラスメイト数十人がこの世界に招かれたのだ、他の日本人がいたとしても不思議ではないか。だがパレッドの顔立ちは日本人のものではない。
「外国の人なのか」
「いや日本人だったさ。俺はお前たち転移者と違って、向こうで死んでこっちの世界で赤子として生まれかわった転生者なんだ。つまらない前世と違って、夢にまでみたファンタジーの世界で魔法を使えて最高の二度目の人生さ。だからこれを実現してくれた女帝カーラには感謝してるのさ」
「それがカーラへある恩ってのか」
「ちなみに俺が元日本人だからって手を抜いてもらえるとは思うなよ。俺はもう過去は捨てたのさ。では改めて、神聖騎士団近衛第6席、パレッド・アークライト。参る」
パレッドが接近してきて空中での近接格闘戦が始まった。
どうしよう。語り方といい、かなり痛い人に見えてきてしまった。俺のパレッドへの評価がファンタジー世界の強者から中二病のおじさんに変わっていく。
いかん油断しちゃダメだ。ここまでの動きを見て実力はたしかなんだ。
そこで俺は格闘戦をしながら気になったことを質問した。
「近衛ってなんだ?」
「なんだ知らねえのかよ。肩書を聞かせてビビらせるいい演出だと思ったのによ」
少しふてくされた様子のパレッド。やはりふざけているのか。というよりも俺に負けるわけがないと高をくくって舐めているのだろうか。
「近衛っていうのは神聖騎士団の7人の幹部のことさ。まだ俺より上に5人もいる。お前が敵に回そうとしてるのはそれほどデカい組織ってことだ」
背中から冷や汗が出てくる。関わってはいけないものに手を出してしまったかな。
しかし竜人や葵を放置しておくわけにもいかなかったし、仕方ないか。
「さあお喋りはこの辺にしてバトルの続きといこうぜ」
パレッドが俺から距離をとって両手を広げると周囲の空気が揺れ出した。こいつも何か大技を出そうとしている。
「なんだ…?」
すると周囲に浮遊していた小島たちが俺たちに向かって飛んできた。
「この空にある島は全て俺が浮けべたものなんだ。もちろんこんなことだってできる」
「うがっ!」
四方八方から巨大な岩石が俺に降り注いで押し固めていった。
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