第84話 vs.重力使い②
いつの間にか周囲を浮遊する小島が俺を360度囲むように移動しており、それが一斉に俺に襲い掛かった。お喋りしている間に準備していたのか。逃げ場はなさそうだ。
俺は回避を諦めて防御に徹することにした。自分の周囲を”空壁”で囲い、さらに付与で強度も増す。
巨大な岩石が俺を目掛けて次々とぶつかってくる。俺に向かって飛んできているというより、俺がいる場所を中心に引っ張られてるようだ。空壁に当たってなお勢いが衰えず、さらに俺を押しつぶそうと力を込めてきている。
徐々に岩で埋まっていく視界に勝ち誇った笑みのパレッドが目に映った。
だが正直これは勝機だ。この状況はスラム街でドドガに奇襲をしかけたときと似ている。
あのときはたしかドドガが周囲の地面を波のように操って俺を生き埋めにし、勝ち誇って油断したところへ俺が”座標付与”で奇襲をしかけて首に致命傷を負わせたのだ。あの攻撃が勝負の分かれ目になったといえる。
今回もこの奇襲作戦が使えるだろう。俺は魔力探知でパレッドを探る。それと同時に”座標付与”の準備だ。付与魔法自体の練度が上がったからなのか、今までよりもずっと短時間で準備が完了した。
俺は”空壁”ごと押しつぶされる寸前のところで”座標付与”で脱出した。そしてパレッドの背後からリベリオンの一閃を食らわせようとする。
だがリベリオンがパレッドの体に届くことはなかった。奴の魔法で攻撃の軌道を逸らされたのだ。せっかくのチャンスを逃してしまった。
「なにっ!」
「おっと危ない危ない。瞬間移動か。楽しいことするじゃねえか」
「くっ、反応された」
パレッドは俺から距離を取るとこちらへ何かを放り投げるモーションをした。すると突然俺の目の前で衝撃波が生まれ、俺は後方へ吹き飛ばされた。吹き飛ばされながらもう一度”座標付与”をかけてパレッドの目の前に戻る。
「圧縮した空気を一気に解放することで衝撃波が生まれるんだ。俺のも楽魔法だろ」
「かなり自分の能力を使いこなしてるな」
パレッドは自分の能力やその応用方法を披露したくて仕方ないという感じだ。自分の能力やこれまで鍛錬によほど自信も持っているのだろう。
「そりゃあ40年近くこの能力を使ってるからな。だがそれにしてもお前の権能は弱いな。どうにも規模が小さすぎる」
「面と向かって言われると傷つくな。これでも頑張ってるってのに」
「いや違うな。お前、自分の力を封印してるだろ」
「…なんでそれを」
「やはり図星か。歴戦の勘って奴だな。こればかりは転移してきたばかりのひよっこには理解できないだろうが」
いかんな。こいつのペースに飲まれつつある。なんとか喋りながら隙を伺うか。
「さっきの瞬間移動に反応できたのもその勘のおかげか」
「あれもまあそうだな、似たような技を使う知り合いがいたからな」
パレッドのこの発言に俺は一瞬思考が停止しかける。
俺の”座標付与”を似たような技を使う人間だと。俺はその人物に心当たりがある気がする。
それは俺をダンジョンに突き落とし、俺の”座標付与”の元になった瞬間移動を使うあの謎の男のことじゃないのか。
「それってもしかして赤髪の…」
俺が言い切る前にパレッドは話を遮った。
「さあお喋りばかりしてないで、そろそろ本気を出せ!」
パレッドの手の動きに合わせて、島同士をつないでいた川が荒ぶりだした。
「今度は川か!」
そうか。島だけじゃなくてこの川もあいつが浮かせてたわけだから、操れて当然か。それにしたって大技を連発させすぎな気もするが、魔力切れにはならないのだろうか。
俺は龍のように襲い掛かる川を全て回避する。ロズリッダの水魔法と似たような動きなので、動きが読める。
そしてしばらくの攻防の末、突如川が形を失って地上に落ち始めた。
「どうした。魔力切れか?」
俺の問いかけにパレッドが答える。
「いや、十分楽しんだんでもう終わりにしようと思ってな」
すると突如急にひどい頭痛がしだした。めまいがして浮遊も不安定になる。何か攻撃されたのか。全く反応できなかった。
「一体なにを…」
「お前の周囲を極端な低気圧にしただけだ。空に来る時に不思議に思わなかったか。急激に上空まで上昇したのに、高山病などの症状がでなかったことに。日本でそういう名称くらい聞いたことくらいあるだろ」
たしかに空まで来たのに地上と同じように動けていた。異世界特有の現象だと思っていたのだが。
「あれは俺の権能で一帯の気圧を保っているからなんだ。だが今お前の周囲だけその能力を解いた。急な低気圧にお前の体はついていけていないようだな」
呼吸も苦しい。酸素が薄くなっているのか。これはまずい。
「できれば本気のお前と戦いたかったが、本気を出さないってんなら仕方ねえ。もう終わりだ」
俺は浮遊を保てなくなり落下を始めた。パレッドが追い打ちで俺の周囲の重力を強化したのだ。
俺はそのままなすすべもなく落下していった。パレッドが暴れまくったためか、島を覆うバリアはすでに消えていたのがせめてもの救いだ。
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