第68話 変化の指輪
ガーネットとメアたちが奴隷を陸地まで誘導しはじめた。アザレアが発動したこの氷はどうやら陸地まで続いているようで、オークションの参加客もこれを通って陸地まで逃げたようだ。やはり無限の魔力の威力は恐ろしいな。
「じゃあ俺はここまでだ」
俺たちも陸に帰ろうとしたところで、氷の上に座るロズリッダがふいに発言した。人魚は足がなくて陸地へいけないため、ここで別れて海に帰るという意図の様だ。たしかにそれはどうしようもない。俺の”形状付与”で無理やりヒレを変形させて脚にするわけにもいかないしな。
「そうか。それは残念だけど仕方ないか」
「ああ、それは残念だな。フールくん」
俺の横から男の低い声がした。隣に男なんていなかったはずなのだが。
「は?」
横を見ると、俺の隣には汚い身なりの黒ひげの男が立っていた。それはどこからどう見ても海賊ルスキュールそのものだった。さっき海から逃げたはずなのにどうして。
俺は訳も分からずにとりあえずリベリオンを構えて炎を纏わせた。
「ごめんごめんごめん。ちょっとふざけすぎた」
ルスキュールが両手をあげて降参した。するとこいつの体から白い煙が出てきて、その中からリーメルが現れた。
「リーメル?何それは。魔法?」
「そう。この魔道具の力。変身できる」
リーメルの指には銀色の指輪がはめられていた。どこかで見覚えがある気がするのだが。
「これさっき船の商品保管室にあった指輪じゃないの。ハングドマンの所有物とかいう」
「そう。あのとき盗んでおいた」
「お前…」
なんという手癖の悪さだろうか。先ほどは変形する鍵も盗んでいたが、どうやらそのときにこの指輪も盗んでいたようだ。きっと盗みやすいサイズだったから手が動いてしまったんだな。船の中に残った人がいないか調査しているときに、この指輪の効果は確認したのだろう。
ルギンのアジトでもシレっと魔法剣を盗んでいたよな。スラムに住んでいたこともあって、こういった盗みが常習化しているのかもしれない。これを本人に言うと悲しむかもしれないので、口に出しはしないが。
「ハングドマンか。たしか聖国の監獄に捕らえられている大犯罪者だな。罪状は明かされていないが、かなり腕が立つ男だったらしい。その所有物となればこれほどの効果も納得だ」
「じゃあこれってかなりすごい魔道具なんだ」
アザレアがハングドマンの補足をしてくれた。オークションに出品されたものとあって、この変身の効果を持つ魔道具はかなり希少なもののようだ。
「これ。あなたにあげる。ロズリッダだっけ?」
リーメルは指輪を外すとロズリッダに差し出した。
「くれんのか?でも別に俺は指輪に興味とかねえんだけど」
「これで変身すれば足を生やせると聞いても?」
どうやらリーメルはこの変化の指輪でロズリッダに脚を授けようとしているようだ。リーメルの盗みは役に立つことが多いな。
「なるほどな。確かにそういう使い方もできそうだが。でもいいのか。こんな高価そうなものを貰って」
「さっきは船から助けてもらったから。そのお返し」
「それは元はと言えばお前らが俺を船から助けてくれたお返しで…」
「ロズリッダ。せっかくだから貰ってあげてくれ」
譲り合いが発生していたので俺が仲裁に入り、結局ロズリッダが納得してリーメルから指輪を受け取ることになった。
「そこまで言うなら遠慮なく貰っておくぜ。えっと、こうやって使うのか…」
ロズリッダが指輪を指にはめて魔力を込めると、リーメルのときと同じように体中から煙が出て全身を覆っていく。煙が晴れるとそこにはロズリッダの下半身から足が生えていた。
変身の効果で服も表現されているようで、危ういことにはならずに済んだ。ヒレはメアたち竜人族の尻尾のように腰から生える形になった。獣人のリーメルのものと違い、重量感がある尾だ。
ロズリッダは慣れない脚に戸惑いつつもゆっくりと立ち上がった。
「おおっと…これが脚か。不思議な感じだな」
「じゃあこれで私たちと一緒に来れるね。フールもいいよね」
「一緒にって。革命軍に入ってもらうってこと?」
リーメルはロズリッダを勧誘するつもりだったようだ。そのために指輪を渡して陸地に来れるようにしたのか。船から助けてもらってよほど気に入ったのだろうか。
しかしたしかに彼女の水魔法の扱いは凄かったし頼りになるが、そんな唐突な勧誘をしても困らせてしまうのではないだろうか。
「そういうのはもっと信頼を得てから…」
「いいぜ。脚も貰ったし、まだ助けてもらった恩を返し切れてないからな」
俺の心配をよそに、ロズリッダは迷いなく勧誘を受けてくれた。
「よろしくロズリッダ。頼りにしてる」
これにはリーメルも嬉しそうに微笑んでいる。
こうして新たなロズリッダが新たな仲間になった。
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