第69話 一ノ瀬と葵の行方

 ガーネットや奴隷たちに続いて俺たちも陸地へと向かう。脚が生えたばかりのロズリッダだが、元の身体能力が高いためかすでに安定して走れるようになっていた。


 「もう走れるんだ」


 「まあな。しかしやっぱ水中より動きにくいな」


 「闘気を纏えないとどうしてもね」


 リーメルと機動力について話し合っている。ロズリッダは水魔法の才能を持っているが、闘気を纏うことができない。人魚であるがゆえに泳ぐスピードはそれなりのものだが、地上での機動力には不安が残る。


 水魔法を活かした移動方法を作り出せればいいのだが。


 しばらく走るとウエストタウンからやや離れた海岸に辿り着いた。大勢で港に入ったら騒ぎになるかもしれないのでそれは避けたのだ。


 まだ夜深く、星明りのみで周囲はうす暗い。


 海岸ではガーネットやメアが奴隷たちと待っていた。メアが話しかけてくる。


 「フール。メアたちはもう行くのです」


 「そうか。短い間だったけど助かったよ。知り合いも助け出せたようでよかった」


 メアの隣に立つ女性とも目が合う。彼女もメアと同じような角や尻尾を持つ竜人で、長い白髪をしていた。メアとは違いかなり礼儀正しい人物なようだ。


 「挨拶が遅れて申し訳ありません。私はターニャ。メアを導いていただきありがとうございました」


 「こちらこそ。メアにはいろいろと助けてもらいました。ターニャさんもご無事で何よりです」


 「フール、メア相手と違ってターニャ様には礼儀正しいのです」


 「相手の態度に合わせてるだけなんだけどな」


 メアがフレンドリーな態度で接してきていたのでそれに合わせただけなのだが。というかメアに礼儀という概念があるとは思わなかった。


 しかしターニャさんを様呼びするとは、2人はどういった関係なのだろうか。これに関して質問をしようとしたが、その質問をする前に2人はもうここを発つことになってしまった。


 「それでは皆さん。我々にはまだ次の用事があるので、すぐにここを発とうと思います」


 「空島に帰るのです」


 「そうか。それじゃあまた」


 さっと挨拶を済ますと2人は半竜化して走り去ってしまった。かなり急いでる様子だが、一体どのような用事だったのかは聞けなかったな。


 「ガーネットは2人の目的について何か聞いてないの」


 「詳しいことは分からなかったけど、なんか戦いがあるって言ってたよ。私たちも手伝うか提案したけど断られちゃった」


 「戦いか」


 「空島の支配者がどうこうって言ってたのと関係あるかも」


 リーメルの意見があっていそうだが、手伝いを断られたならわざわざ首を突っ込むことじゃないだろう。それに今の俺にはやることがあるしな。一ノ瀬や葵の行方を調べなければならない。


 「まあ今はその話は置いといて。とりあえずこっちを片付けよう」


 俺は縄で拘束された盗賊たちに視線を向けた。盗賊たちがびくっとする。命乞いをしてくるが、別に戦闘が終わっているのでわざわざ殺すつもりはない。用が済んだらウエストタウンの警察に突き出すとしよう。


 ともかく今は情報を聞き出すことだ。俺は盗賊たちの先頭に座る女幹部に質問をする。たしかランという名前だったか。


 まずは当初の目的である”選ばれし者”について聞いたが、これは大した収穫がなかった。海賊ルスキュールや宮廷魔術師も持っている強力な能力ということしか聞かされていないらしく、俺が今持っている情報と大差なかった。


 次に俺は本命の質問をする。


 「一ノ瀬という男について教えてもらおう」


 「イチノセ…ぐっ」


 ランの視線がブレて自爆魔法を唱えだした。やはりこいつも一ノ瀬の魔眼の支配下にあったようだ。ロズリッダの話によると、一ノ瀬はオークション船の商品保管部屋にいたらしい。このことから魔眼の力で盗賊の上層部を操っていた可能性は考えていた。


 俺は昼間にウエストタウンで散々やったのと同じように”分離”でこの操られ状態を解除する。


 「…な、私は今何を…」


 「金髪の男に出会っただろ。あんたはそいつに魔法をかけられてたんだ。そいつについて話を聞かせてもらおう」


 正気を戻したランから聞き出した情報によると___


 今日の昼頃に怪鳥に乗って船の上に一ノ瀬が現れた。魔眼の力によってランが操られ、一ノ瀬は正式な客人として扱われることになった。


 そして一ノ瀬はすでに船内に隠れ潜んでいた黒髪と茶髪の2人の女性を見つけ出した。そして商品保管部屋で茶髪の女性を魔法で石にしてしまった。


 この2人の確保と太陽の巫女の確保が目的だったようだが、太陽の巫女が船にいないこと知るとそちらは諦めることにした。


 夜まで待てばドドガが太陽の巫女を連れてくるはずだと伝えたが、「フルヤが来たら面倒そうだ」と断られてしまった。


 ___ということがあったらしい。


 葵と楠木さんはオークション船に潜んでいたが一ノ瀬に見つかってしまったのか。俺がこの船に向かっていることも知っていたようだな。葵の手紙にもあった千里眼とやらの力でウエストタウンにいる俺を見ていたのかもしれない。


 葵は連れていかれてしまったのか。おそらく操られているのだろうな。だが命が無事だったと判明したのは幸いだった。


 「それで一ノ瀬は黒髪の女性を連れて怪鳥で帝国に向かったということか」


 「いや待てフール。今の時期は怪鳥で海を渡ることはできないはずだ」


 話を聞いていたアザレアが訂正を入れてきた。どうやらこの時期は帝国の大陸とこの大陸の間の海がひどく荒れるらしく、船や飛行生物での渡航が不可能になるらしい。


 では一ノ瀬はどこに行ったのだろうか。俺はランに詳しい話を聞く。


 「海は渡れないらしいんだけど、一ノ瀬は具体的にどこに行ったんだ」


 「それについても聞きました。イチノセさんも海が荒れるのは知っていたようなので、天候の影響を受けない空島を経由して帰ると言っていました」


 「空島…」


 メアとの再会は思ったよりも早くなりそうだな。

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