第70話 クラスメイトside 捕まった伊織葵

 葵はウエストタウンにて凛と合流することができた。そして町で徘徊していた盗賊を捕まえてオークションが船で行われることを聞き出すと、町の近くで鳥型の魔獣を捕まえてその船へ潜入した。


 占い師の予言によると、北の闇オークションで柔理と出会えるという話だった。葵はこれを、柔理が盗賊に捕まりオークションの商品として売られるという意味だと判断した。まさか柔理が革命軍のボスになって、変装して客として闇オークションに参加するとは、葵には想像もつかなかったのだ。無理もない話である。


 スラムで出会ったあの占い師の腕はおそらく確かなものだ。


 周囲の人たちが次にどんな会話をするだとか、スラムに迷い込んだあの魔獣が次にどんな行動をするかだとか。そういった葵からの質問をフードの占い師は全て的確に当ててみせた。占いというより未来予知のような優れた能力だった。


 それゆえに葵はその占いを信じることにしたのだ。


 船に潜入した葵はテイムした複数の鳥型魔獣に船を襲わせ、盗賊たちがその対処で慌ただしくしている隙をついて商品の保管部屋まで侵入した。


 しかしそこには何人もの奴隷がいたものの、肝心の柔理の姿はなかった。


 予想が外れて焦る2人。


 そこへ盗賊を手懐けた一ノ瀬がやってきてしまった。


 凛が斬りかかったが盗賊の女幹部に撃退され、一ノ瀬の魔法によって石にされてしまった。そして葵は一ノ瀬に体の自由を奪われ、船から連れ去られた。石像となった凛は船の中に置き去りだ。


 一ノ瀬と葵は今は怪鳥に乗って空を飛んでいる。


 「よくも凛ちゃんを…」


 「おや、喋れるのかい。カーラ様に付与された”絶対支配権”を使ったんだけど。まあ体の自由さえ奪っておけば喋るくらいはいいか」


 たしかに葵は今は喋る以外の行動はできない。一ノ瀬の”絶対支配権”の扱いが下手だったことでなんとか喋ることだけはできるようだが、体の自由はしっかりと奪われている。


 これがかつて柔理が帝国の場内で暴れた時に使われていた力なのだと、葵はすぐに悟った。


 「楠木さんは邪魔だからあそこに置いていくことにしたんだ。借り物の”絶対支配権”で2人を同時に操れる自信がなかったからね。もう彼女とは二度と会うことはないよ」


 「そんなことない。あなたから逃げてまた船に戻れば…」


 「さっき千里眼で船の周囲を探知した時に、海中に浮遊する有人の海賊船を発見した。おそらくオークションを襲撃しようとしてたんだろう。あの海賊はかなり強そうだったからね。オークション船もただじゃ済まないだろう」


 「そんな…」


 「あの海賊のせいで太陽の巫女が到着するまで待てなかったが、まあそれはカーラ様に謝ればいいか。僕は伊織さんだけ回収できれば他は知ったことじゃないし」


 一ノ瀬には女帝への忠誠心はない。女帝から贔屓されていることをいいことに、やりたい放題なのだ。葵を追跡する条件として課された任務もこうしてあっさりと放棄する始末である。


 「凛ちゃん…柔理くん…」


 そういえば柔理とはなぜ会えなかったのだろうか。あの凄腕占い師の占いが外れたのか。ついていなかったなと葵は嘆いた。


 「まだあいつのことを引きずっているのか。強情な子だね」


 実は一ノ瀬は柔理が葵を追ってきていることを千里眼で確認している。オークション船からはウエストタウンも千里眼の射程距離内であり、柔理が町に入ってくるのを見ていた。柔理はそれなりに強くなっていそうだったし、仲間も連れていたので遭遇したら面倒そうだった。急いで船を発ったのはこれも理由だ。


 だが一ノ瀬はこのことを葵に話さない。余計な希望を抱かせないために。


 あの町にはたまたま新技の練習がてら、一ノ瀬を追跡するものを追尾して爆発する罠人間を生成していきてある。これで万が一にも柔理が追ってくることはないだろうと一ノ瀬は判断し、勝ちを確信した。


 「このまますぐに帝国に帰りたいところだけど、どうやら今は海が荒れる時期らしい。空島経由でゆっくり帰ろう。ちょっとしたデートだね」


 葵は一ノ瀬の態度に寒気を覚えた。一方的に好意をぶつけてきて恐怖さえ覚える。これが彼の隠れた本性だったのだろうか。それとも…


 「カーラ様が言うには、どうやら空島はその支配者の権能で守られているらしい。あ、権能っていうのはカーラ様の人並外れた召喚術のような特別な能力のことね。だから空島にいくためには、地上で竜人族の助けを得る必要があるわけなんだ。まあそう簡単に手を貸してくれないだろうから、力づくで言うことを聞かせないといけないんだ。オークションからはそうやって帰って来いってさ。面倒で嫌になるよね。でも葵と一緒なら楽しめそうだよ」


 葵は一ノ瀬の目から狂気を感じた。自分はもうどうすることもできないのだと観念した。


 このとき葵は視界の端に人影が見えた。一ノ瀬は気づいていないようだ。


 「え…?」


 見覚えがある。あれはもしやスラムで出会ったフードの占い師ではないだろうか。


 確かめようとしたが、体が動かせない葵は振り向くことができなかった。


 「ん?どうかしたかい」


 「いや、なんでも…」


 葵は気のせいだったと思うことにした。そもそもここは上空だし、絶望のあまり幻でも見たのだろうと。



★★★

これで2章は終わりです。次回から主人公たちの帝国への旅路が始まります。


2章が面白かった、3章が楽しみ、続きを読みたいと少しでも思った方は、ぜひ作品フォロー、☆評価、感想をお願いします。続きを書くモチベになります。


また他の作品も書き始めようと思っているので、ぜひ作者フォローをしてお待ちください。

 

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