第3章 竜人傭兵と空島編

第71話 次の任務

 闇オークションで葵と再会することができず、彼女はどうやら一ノ瀬に連れ去られてしまったと判明した。


 俺がいつどこに現れるかをサフランに助言した凄腕占い師が葵に与えた助言では、闇オークションに向かえば俺と会えるという話だったはずなのだが、その占いは外れたということなのだろうか。それか会えるのはもう少し未来のことで、闇オークションに向かったことが再会の鍵になるということなのだろうか。


 しかしそれでもやはり、俺と再会するだけなら元奴隷労働施設なり革命軍のアジトなり近い場所があったはずだ。この占い師については少し疑問が残る。


 このまま占いのことを考えていても何の答えも出そうにない。とりあえず今はこれからやるべきことについてを考えよう。


 帝国へ一直線に逃げられていたら厄介だったが、どうやら今の海は嵐がひどい時期らしく一ノ瀬は空島とやらを経由して帝国へ帰ることにしたらしい。


 それならまだ今から追いかければ追いつけるかもしれない。


 「じゃあ俺も空島に行かないと。どこにあるんだ」


 俺は闇オークションで捕らえたドドガ盗賊団の女幹部ランにさらに聞き出そうと試みる。


 俺の”ベクトル付与”があれば空島まで自力で飛んでいくことができるだろう。一ノ瀬の移動手段はただの魔獣なはずなので、全力で飛んでいけばどこかで追いつけるはずだ。


 しかしそう簡単な話ではないようだ。ランは空島についてまでは知らないようなので、代わりに捕虜のアザレアが教えてくれた。


 「そう簡単に行ける場所ではないぞ。空島の周囲には外敵を拒絶するバリアが張られているんだ。空を飛んで向かったとしても空島へ上陸することはできないだろう」


 「そうなのか。てかよく知ってるな」


 「以前王の命令で調査に向かったことがあってな。そのときに体験した話だ」


 どうやらこれは自分で確かめた事実だったらしい。ちなみに空を飛んだのは風魔法の力のようだ。闇オークションでの騒動のときに船を浮かせたのもこの力らしい。


 複数の風魔法を同時に発動し続ける高度な技らしく、無限の魔力ありきの力技だったようで、今のアザレアでは使えないのだとか。


 「じゃあどうやって空島に行けばいいの」


 「空島に住む竜人たちは傭兵家業をやっていて、紛争地帯にもたびたび現れるんだ。そいつらにコンタクトを取って一緒に空島まで連れて行ってもらうしかないだろう。まあ竜人族はプライドが高く他種族を見下していることが多いから、力づくで協力させる必要が出てくるかもしれないがな」


 ようは空島の身内の協力がないと入れないということか。これはまた面倒そうだな。


 「さっきの竜人に相談すればよかったな」


 「たしかに。ロズリッダの言う通りだ」


 メアに相談すればすぐに空島に行けただろうが、彼女たちは急いだ様子ですぐにここを発ってしまった。


 だがこれはむしろ幸いだったかもしれない。この手続きは空島に向かう一ノ瀬にも必要なものなわけだから、俺たちが追い付くまでの時間稼ぎになるかもしれない。


 いや、一ノ瀬は他人を操れるのでこれは何の障害にもならないわけか。もうすでに竜人を操って空島に向かっていてもおかしくないだろう。


 こうしてはいられない。俺も急いで後を追わなければな。一ノ瀬の能力の使い方次第では葵が物言わぬ廃人になってしまう可能性もある。


 しかしここでまた問題が発生する。リーメルが悲しそうなトーンで質問してきた。


 「革命軍はどうするの?」


 「それは…」


 今の俺にはこの組織のボスという地位があるんだった。できるだけすぐに追いつきたいところだが、下手をしたら帝国まで一ノ瀬を追うことになるかもしれない。


 そうなった場合、この中央王国で活動している革命軍を放置していくことになる。帝国でクラスメイトと合流したらもうこちらの大陸に戻ることもないかもしれない。それはあまりに無責任か。


 闇オークションに向かう道中でリーメルには、「自分たちを置いてどこかへ行かないでほしい」という内容のお願いをされた。俺たちはすでに仲間であり、それが欠けるのは悲しいことなのだ。俺はどちらを取るべきなのだろうか。


 「革命軍として全員で行くのはどうなの?私は早くこの子を主人の元に帰してあげたいよ」


 「それは…サフランに相談してみないと。私個人としてはフールを手伝いたいけど、組織の一員としての責任も果たさなきゃ」


 ガーネットがよさそうなアイデアを提案したが、リーメルは全面賛成というわけでもないようだ。ガーネットの傍にはいつの間にかガウが戻ってきていて、顎を撫でられていた。


 革命軍の意思決定はサフランがしてくれている。その相談なしに勝手に空島に行くのは迷惑だろうからな。そもそも俺たちは今オークションでの任務を任されている最中なわけだし。


 だがアジトまで片道3日もかけて連絡をしていたら、それこそ一ノ瀬に追いつけない。どうするべきか悩ましいな。


 「ん?この揺れは…」


 そんなときに突如、地面が揺れた。地震といった感じではなく、巨大なものが歩いているような揺れだ。まるでゴーレムの歩行のような。


 「おい、なんかいるぞ」


 ロズリッダが丘の上の方を指さした。そこからゴーレムらしきものがこちらに向かって走ってきていた。


 拘束している盗賊たちがざわつきだした。あれがドドガのゴーレムで、ドドガが自分たちを助けに来たと。


 たしかにあのゴーレムはドドガの奥の手のアダマンタイトゴーレムに似ているが、ドドガが死んだということを俺は知っている。そしてその能力は…


 走ってきたゴーレムが俺たちの目の前で止まると、口がないのにどこからか声を発した。


 「やっと見つけた。オークションはもう終わったの?3人とも元気してた?」


 ゴーレムの頭にあたる部分がドロドロに変形する。そしてその中からは金髪の女性が出てきた。


 「ナッカ!どうしてこんなとこに」


 ゴーレムに乗っていたのはナッカだった。ドドガと同じ能力を使えるようになったナッカはゴーレムも作れるようになり、その能力でここまで追ってきたのだろう。しかしなぜ彼女がこんなところまで追って来たのだろうか。

 

 「リーメルの故郷の紛争地帯があるでしょ。最近になってなぜかあそこに竜人の傭兵がいつもより大量に投入されて大変なことになってるんですって。だから革命軍は次に紛争地帯の平定をすることになったの。サフランも来てるわよ」


 これはいいタイミングだ。サフランと合流して今後のことについて相談しよう。

 

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