第72話 ゴーレムスーツ
サフランとナッカが新たな任務のために白竜の森のアジトからこの付近まで来ていることが判明した。今後の話はサフランと話し合いたいと思っていたのでちょうどいい。
俺たちはアザレアやロズリッダの紹介をすますと、まず捕まえた盗賊たちを警察の詰所まで運んだ。数十人の犯罪者を引き渡すとなると色々聞かれて面倒なことになりそうなので、押し付けてそのまま逃げた。
この捕らえた者の中にはドドガ盗賊団のナンバー2もいたし、ドドガもすでにいない今、この盗賊団は壊滅したといって差し支えないだろう。
スラムの騒動から始まったドドガ盗賊団との戦いはこれで一区切りだ。革命軍としての初めての大仕事が完了した。
さらにオークション船から救出した奴隷たちの一部もこの町で解放した。そして俺たち革命軍と行動を共にしてくれる志のある元奴隷にはこの場に残って貰った。奴隷労働施設やスラム街の人々のように、彼らも新たな仲間になってもらうのだ。
大半の人がついてきてくれるようだ。オークションに出品されるような人々だしもしかしたら帰る場所がないのかもしれない。
「結構残ってくれたね」
「でもこんなに多いと移動が大変」
ガーネットとリーメルが話しているように100人近く奴隷が残ってくれたが、これだけの人数と一緒に行動をするとなると大変そうだ。彼らをオークション船の保管部屋から脱出させるときに、全員を”空壁”で包んで”ベクトル付与”で運ぶという技をとっさに編み出した。これなら複数人を同時に運ぶことができる。
いや、仲間になった以上自分で走らせるべきか。俺の付与で強化すればそれなりに走れるだろう。
「じゃあ俺が付与で強化を…」
「それなら大丈夫よ。移動手段は用意しといたから」
だがナッカには何か案があるようだ。俺たちが盗賊や解放する奴隷を町に連れて行っている間に彼女はずっとこの場で何やら地面に手を当てていた。おそらく魔法の準備をしていたのだと思うが、何をするつもりなのだろうか。
ナッカが最後の仕上げに地面に魔力を込めると、ここに来るまでナッカが纏ってきていたようなゴーレムが地面から生えてきた。ナッカの10メートルほどの巨大サイズではなく、こちらは小回りが利きそうな2メートルサイズだが、その数は元奴隷と同数の100体ほどある。
「これを着れば闘気を纏えない人でもそれなりに動けるようになるわ。ドドガにゴーレムにされた人たちの魔法を解除してたらできるようになったの」
「すごいなそれは…」
ゴーレムスーツとでも言うのだろうか。ナッカは数時間のゴーレム解除作業でこのゴーレムスーツ生成を編み出し、これによってゴーレムにされた住民の回収作業を騎士団以外の一般兵にも手伝ってもらえるようになった。そうしてたった1日で万を超えるゴーレムを解除した後にここまで追ってきたようだ。
元奴隷もとい新入りたちがそれぞれゴーレムスーツに触れると、ゴーレムスーツがドロドロに変形して新入りたちが飲み込まれていってしまった。これで装着完了のようだ。
数メートルのジャンプをしたり、重たそうなシャドーボクシングをしたりして、各々性能を確かめている。
楽しそうだから後で俺用に巨大ゴーレムスーツを作ってもらおうかな。
俺の付与魔法で強化するという手段もあったのだが、こちらは時間制限がある。しかしゴーレムスーツは一度作ってしまえば勝手に消えるということはない。中に入った人間の魔力を動力として利用するので、稼働のために外からナッカが魔法をかける必要もない。
この世界の生物は誰しも体内に魔力を持っている。だがその魔力を闘気や魔法として出力するには才能や鍛錬が必要だ。だがこのスーツは使用者の魔力を勝手に使ってくれるので、そういったハードルがないのだ。
これは革命軍の戦闘力に革命が起きるな。一般兵でも騎士団並みの仕事を任せられるようになるかもしれない。
「ナッカすごいよ!私にも1個作って」
「いいわよ。ガーネットもこの組織に馴染めたみたいでよかったわ」
「リーメルがいろいろ気を配ってくれたからな」
俺に褒められてまんざらでもなさそうなリーメル。
「ガーネットがいい子だったから」
当のガーネットはというと、せっかくナッカに作ってもらったゴーレムスーツを着たが、そうすると重くてガウに乗れないことが判明して悲しんでいた。
悩んだ末にゴーレムスーツは脱いでナッカに返却した。
「ごめんなさい。せっかく作ってもらったのに」
「別にいいのよ」
若干ガーネットに呆れている様子のナッカ。そこにロズリッダが話しかけてきた。
「じゃあ俺にくれよ。靴がないから足だけにしてほしいんだができるか。全身は動きにくそうで」
「ロズリッダだっけ?あなた水魔法を使うのよね。即席で土から作ったゴーレムスーツは水に弱いからまたちゃんとしたのを作るわね」
そういってガーネットが脱いだゴーレムスーツがナッカの手によってブーツのように変形した。ロズリッダが履き心地を確かめている。
「靴ってのはこんな感じなのか。ありがとな」
初めて足が生えたわけなので靴も初めての経験なわけか。
ロズリッダは闘気が纏えなくて長距離の移動に問題があるので、ゴーレムスーツで補助してもらえるのはありがたい。水に弱いというのが難点だが。
「水以外に注意事項はあるの?」
俺が軽い気持ちでした質問にナッカは真面目な表情で答える。
「私が直接操作しないとセーフティがかけれないから、他人に奪われたらそのまま使われちゃうってことね。だから皆そのスーツの扱いには気を付けてね」
ないとは思うが下手をしたら奪われたゴーレムスーツの集団に、逆に俺たちが襲われるなんてこともありえるわけか。手に入れた力はしっかりと責任を持って管理しなきゃな。この場にいる誰もがそれを肝に銘じただろう。
こうして人員の整理をし、移動手段を手に入れた俺たちはナッカの案内にしたがって移動を開始した。サフランはここから10分ほどの場所で待機しているらしい。
「それにしてもここまで来るの早かったな。一日でゴーレムの解除作業を終えたとしても、俺たちが町をついてからまだ1日経ってないってのに」
「オート運転で夜通し走ってきたからね。そっちは野宿とかしたんでしょ」
今度はゴーレムを着ずに俺と生身で並走するナッカに話しかける。ナッカたちはどうやら眠らずに走り続けたため到着が早かったらしい。たしかにそれが可能なら到着がかなり早くなるだろう。俺たちは2日も野宿をしたからな。
「ゴーレムにはオート運転なんてのもあるんだ」
「いやゴーレムじゃなくて別のものなんだけど…」
なんだか歯切れが悪いな。何やら隠しごとをしているようだ。どうやら実際に自分の目で見るまでのお楽しみらしい。
10分ほど走って目的地まで着いたときに、ナッカが隠していたものの正体が判明した。
それは直径200メートルほどの小さな町だった。町並みは白竜の森にあったアジトに似ているがサイズはそれよりは小さいな。
そしてその円盤状の町から蜘蛛のような足が12本生えて支えていた。
「ということで私たち革命軍の第2のアジト。私が錬金魔法で作った移動要塞都市です」
ナッカが誇らしげに都市を指して言った。全員あまりの魔法の規模に絶句する。
こいつの能力かなりチートじゃねえか?
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