第65話 神器リベリオン

 俺は”ベクトル付与”で周囲の炎を龍のように舞わせて、アザレアとルスキュールへ繰り出す。ルスキュールは引き続き神器の氷を使うようだが、ガーネットの炎が相手に氷では先ほどまでのように猛威は振るえない。


 アザレアは氷では分が悪いと判断したのか、風魔法を使ってくるようになった。無限の魔力による爆風に当てられて俺の炎が拡散してしまう。


 俺は今度は炎の一端に触れて”形状付与”をかけ、拡散し威力が弱まった炎を一点に集めて、それをアザレアに向けて放った。相殺しきれないと判断したアザレアは風魔法を駆使して大きく後ろへ回避した。


 俺がアザレアに集中している間にルスキュールが地面から発生させた氷の勢いを使って、俺に接近を試みてきた。刀での接近戦を狙っているのか。


 「ここまでできるとは思わなかったぞ。流石はドドガを倒した男なだけはある」


 ルスキュールの斬撃を”空壁”や”風刃”で受け止めようとするが、やつの刀はそれを霧散させてくる。とてつもなく強力な武器だ。硬化した俺の肌も切り裂きそうなため、丸腰の俺は回避に専念することにした。


 「もう俺のターン終わりかよ」


 「神器を甘く見たな。これは俺たち覚醒者に対抗するために作られた代物だ。まともに喰らえばただでは済まんさ」


 俺はルスキュールの攻撃をひたすら避ける。避けきれない攻撃は自分の周囲に浮かべている竜魔鉱石を盾にして受ける。


 武器があればもっと対等に戦えそうなだが、今の俺は丸腰なのだ。こいつら2人だけ武器があってズルいな。


 あ、そうだ。なら俺も武器を作ればいいんだ。


 俺は再び竜魔鉱石でルスキュールの刀を受け止め弾き飛ばすと、その隙に竜魔鉱石に”形状付与”をかける。魔力を吸う特性があるので、吸われないように注意しながら鉱石の形を変えていく。


 ガーネットの炎を吸収してから黄金色になっていたこの竜魔鉱石が、みるみるうちに槍の形へと変化し俺の手に収まった。


 リーメルが先ほど盗んで檻を開けるのに使っていた、先端が変形する鍵から着想を得た。


 「ほう。武器まで作るとは面白い能力だ。しかも神器級の魔力を持っているようだな」


 「じゃあこいつは神器リベリオンと名付けよう。これでお前と斬り合えるってもんだ」


 俺は出来たての槍でルスキュールへ攻勢をかける。”分離”でリベリオンの中から炎を引き出し、それをリベリオンの周囲に纏わせて振るう。冷気を纏うルスキュールの神器雪摘と似たような形に落ち着いた。


 激しい剣戟が繰り広げられた。先ほどまでと違い、かなり俺の方が押している気がする。


 そこへ様子を見ていたアザレアの極大の火球が飛んできたが、俺はそれをリベリオンの一薙ぎで切り伏せた。とてつもない切れ味で自分でも驚く。


 このリベリオンがあればいける。上手く立ち回ればこの2人相手でも勝てるかもしれないな。俺は勝利への道が見えてきた気がした。


 しかしこのタイミングでルスキュールが刀を鞘に納めた。戦闘を放棄したのか。それとも何かの策があるのか。


 「迎えが来たようだ。どうやらお前たちを倒すには準備不足だったようだ。今日は帰らせてもらおう」


 前者だったようだ。逃げるつもりなのか。


 だがいずれ敵になりそうな男はここで倒しておいてしまいたい。アザレアも俺と同じ考えに至ったのか、俺たちはほぼ同時にルスキュールに襲い掛かった。


 だが突如氷の地面を突き破って表れた謎の塊によって俺たちは大きく吹き飛ばされてしまった。


 「ぐっ」


 「なんだ…!」


 そのうねる巨大な2本の棒には大量の吸盤がついていた。これは巨大タコの脚か。見えてる範囲の脚だけでも、オークション船の天井に届いてしまいそうな長さで、太さも一軒屋くらいある。


 「ではごきげんよう!」


 タコの脚に捕まったルスキュールはそのまま海の中に引きずり込まれていった。逃げられたようだ。

もしかしたらあいつは最初から逃げるつもりで、本気を出さずに時間稼ぎをしていたのかもしれないな。まだ余力を残してそうだったし。


 そんなことを考えているとアザレアが襲い掛かってきた。俺は彼女の剣をリベリオンで受け止める。まだこいつとの戦闘は終わっていない。


 「おいフール。ドドガを倒したというさっきの話は本当か。それにお前が覚醒者だというのも」


 「ドドガのは本当だ。覚醒者ってのが”選ばれし者”ってのと同じなら、たぶんそうだ」


 つばぜり合いをしながら俺の目を見つめるアザレア。何か考えているのだろうか。


 アザレアが風魔法で後ろに跳んで仕切り直した。


 「まあいい。私は私のやるべきことを全力でやるだけだ」


 アザレアが再び巨大な氷山のような氷魔法を発動した。さきほどまでとは比にならないサイズだ。まさに氷山。


 さらに俺の炎を防ぐために氷塊の周囲には高速で風が回っている。生半可な炎では拡散してしまうだろう。


 「これで終わりだ。お前に打ち破れるか」


 氷塊が俺に向かって飛んでくる。


 避けることはできない。俺の後ろにはリーメルやガーネットがいるオークション船があるからだ。


 俺はリベリオンからさらに炎を引き出すと、それを自分自身の周囲にまで纏わせて、氷塊に突進した。


 無限の魔力により尋常ならざる強度になっている氷。生半可な力では押し負けるだろう。


 だが俺はリベリオンと、”ベクトル付与”の推進力や”魔装付与”による攻撃力の強化でこれを打ち破った。俺の刃が氷の向こうのアザレアに届き、彼女の肩から鮮血が散る。


 「お見事」


 氷の大地にアザレアが倒れた。

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