第109話 浮遊するアジト
地下から出ると竜人族のアルトがいた。一般兵だった彼は今ではメアの直属の部下という扱いになっている。
「お疲れ様です。ロズリッダさんたちがアジトの浮遊に成功して移動が完了したらしいのでその報告に来ました」
「完了したって、どこにあるの」
「あちらです」
彼が指した方角を見ると、海の上空にちょっとした島が浮いていた。その島の上には白竜の森のアジト周りで見た背の高い木が生えている。あの木の向こう側にアジトが隠れているのだろう。
「もう移動が終わったのか。まだここを出てから1日しか経ってないのに」
「行きも帰りも海の上を飛んでいったんだろう。障害物がないとすぐだな」
「ではご案内します」
俺たちはアルトの指示に従って浮遊石の元まで案内された。俺たちが落ちた空島から陸地に戻ると、そこには石板があった。どうやらかつてのパレッドの浮遊石ように、ロズリッダは石に浮遊の効果を込めることもできるようだ。
この石板に乗り魔力を込めると、石板が浮かび上がって俺たちを浮遊するアジトへと運んだ。アルトは一緒に来ずに、紛争地帯にいるメアの元まで戻っていった。
空を飛んで分かったが、どうやら白竜の森から持ってきたアジトが乗っている本島の裏に、ナッカが作った移動要塞も浮かんでいるようだ。
島の淵に浮遊石が着地したので、そこから俺たちは”ベクトル付与”で飛んでアジトへ向かい、ロズリッダたちに出迎えられた。
「ようフール。要望通りにアジトを運んできたぜ」
「お疲れ様。思ってたよりも到着が早かったね。権能を使いこなすの早すぎない。それに規模もでかいし」
「私の要塞を見た時も同じこと言ってたわよね」
ロズリッダの権能を扱うセンスに嫉妬する俺に、ナッカが諭すように声を掛けてきた。つくづく俺の付与の魔法は規模が小さい気がするんだよな。メアの竜化もガーネットの炎もとてつもない攻撃力を持ってるのに。
「フールの力のおかげで俺はこの力を手に入れられたんだ。パレッドもこんなことできる権能は想定外だったみたいだし、誇っていいと思うぞ」
「それに私から無限の権能を奪って武器に付与してたしな。フールのおかげで私は今ここに生きてるんだ」
ロズリッダとアザレアに慰められた。
付与魔法なんて人を補助する能力だろうし、攻撃や規模に関しては仲間に任せればいいかと考えを改めた。
「それで今後の作戦はどうするかだけど、これからはサフランだけでなくアザレアも一緒に作戦を考えるようにしてくれ」
「任せてくれ」
「なんですか。私の作戦じゃ不満でしたか」
「…」
「え、なんですかその間は」
サフランはスラム街のときからかなり雑で大雑把な作戦を立てる人物だと判明している。それで俺はドドガにやられかけたし、竜人族たちとの戦闘もナッカのゴーレムスーツ頼りの力押しだったしな。
中央王国にかつて勤めていたアザレアの知見を借りることにしよう。
「じゃあフールとロズリッダは私と要塞の方に行きましょ!やってみたいことがあるの」
「ん。じゃあサフラン。期待してるから」
「…え?あ、はい。お任せください!ではアザレア、部屋に行きましょうか」
ナッカが話の流れを変えてくれ、俺は本島の横に浮遊する移動要塞の方に行くことになった。
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