第50話 葵たちの痕跡
冒険者の町ピークタウンに到着した。魔物の討伐や未開の地の探索を生業にする冒険者が拠点にする大きな町だ。もう日も暮れるし、今日はこの町の宿で泊まる予定だ。
ガウが持たされていた手紙には、葵と楠木さんはこの町で合流すると書かれていたので、2人が無事にここまでたどり着けていたらまだ滞在しているかもしれない。
町の門は大きめの馬車でも余裕で通れそうなほど立派なもので、その前には2人の傭兵が立っていた。初めてくる町だし、ガウも連れているため呼び止めらると思ったが、何の問題もなく「通っていいぞ」と許可された。
「案外すんなり入れた」
「荒くれの冒険者だらけだから、そんな細かい審査とかないんだろうな。テイマーとかも珍しくないのかもしれないし」
あの傭兵たちは俺たちの姿を見て何やら驚いた様子だった。ガウの迫力に気圧されたのだろうか。
さらにもう一つ気になるのが門番が俺の顔だけ執拗にジロジロと見ていたことだ。何か気になることでもあったのだろうか。でも問題があったら門で止められてるだろうし、気にすることでもないか。
「大きな町だね。魔力が回復したら空から見てみたいよ」
「そんなことよりまずはガウの治療でしょ」
「そうだな。ガウもここまでありがとな」
冒険者の町なら回復魔法を使える人間もいるのではないかと思い、俺たちはまず冒険者ギルドや向かうことにした。町に入ってすぐに3方向に延びる大きな道があり、その角に大きな地図が立っていた。それでギルドの場所は把握した。
門を入って道なりに真っすぐ進むと冒険者ギルドにはたどり着けるようだ。
地図を見て他に気になったのは聖教の教会があったことだな。常雨の村_今はもう晴れたから旧常雨の村か。あの村を襲っていた雨も聖教の仕業の可能性があるし、あまりいい印象はない。できればこの町では関わりたくないものだ。
冒険者ギルドに向かう道中に2階部分が大きく破損した建物が目についた。どうやら何かが外から突っ込んできて壊れたようだ。町中で何が起きたらこんな壊れ方をするのだろうか。冒険者の町ということもあって、かなり破天荒な人々が住んでいるのかもしれない。
冒険者ギルドについた俺たちは、ガウを外に待機させて中へ入る。建物の中はイメージしていた通りで酒場や受付カウンターが併設されていた。あちこちで冒険者らしき男たちが酒盛りをしているが、俺たちに興味を示す人間はいない。新顔が来ることもそこまで珍しくないのだろう。
「人狩りを思い出す」
リーメルが暗く呟いた。かつて奴隷施設で俺が倒した人狩りグルフもそうだが、この国の冒険者は遊びの一貫でスラムの人間を殺したり捕まえたりして遊んでいる。サフランとリーメルは人狩りによってスラムで捕まり、奴隷として鉱山で労働することになった。冒険者にあまりいいイメージはないのだろう。
「用事を済ませて早く出ようか」
俺たちは入り口を入って正面にあるカウンターに赴き、受付のお姉さんに話しかけた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件ですか。冒険者登録でしょうか」
「いやそうではなくて。うちのパーティが使役している魔獣が怪我をしたので、その治療をしてもらいたいのですが」
「魔法での治療ですね。えーと、対象の魔獣はどちらに?」
お姉さんに許可を貰ったのでガーネットに外からガウを連れてきてもらう。酒を飲んでいる冒険者の中に肩に猫や鳥の魔獣を乗せている人もいるので、別に魔獣も入れていい建物だったようだな。
「この子なんですけど」
「承りました。それでは回復魔法の費用が、銀貨3枚ですね」
たしか銀貨1枚が現実世界の1000円くらいの価値だったと帝国で習った。冒険者がどれくらい儲かるのかは分からないが、いちいちギルドで回復するのは無駄遣いな気もするな。
「銀貨3枚ですか。ちょっと待ってくださいね」
俺はマジックポーチから銀貨を見つけて支払いをする。白竜の森のドドガの隠れ家から硬貨類をかき集めてきていて正解だった。
支払いを済ますとお姉さんが魔法の詠唱を始めた。受付だけでなく、魔法での回復作業まで彼女の仕事らしい。サフランに比べると発動時間も完治までの時間も長く感じたが、それでもガウの傷はちゃんと塞がった。痕は残ってしまったようだが、これは仕方ないだろう。
念のためにリーメルとガーネットにもかけてもらっておこうか。ルギンと戦闘をしたわけだし、リーメルは平気そうにしているが吹き飛ばされてたしな。
俺は追加で銀貨を6枚支払い、2人の治癒もしてもらった。
「ふぅ。これで治療は完了ですね。他に用件はございますか」
「ありがとうございます。あと一つ聞きたいことがあるのですが」
俺は受付のお姉さんに葵や楠木さんについて聞いた。黒髪の女性と茶髪の女剣士がこの町に来なかったかと。
「その方々でしたら覚えていますよ。来たタイミングはバラバラでしたが」
「ほんとですか!こんな何人も相手にする仕事なのによく覚えてますね」
「ええまあ。黒髪の女性の方は巨大な怪鳥で町の家屋に突っ込んできたので、それなりの騒動になりましたから」
「ええ…」
どうやら門からこのギルドに来るまでに見かけた壊れた建物は葵の仕業だったようだ。怪鳥のテイムが甘くて着地に失敗したとかだろうか。
「その黒髪の方は壊れた建物の修理代を払ったあと、そこの伝言板にメッセージを残して、ウエストタウンの場所を聞いたらすぐに発たれてしまいましたね」
お姉さんがギルドの壁に設置された黒板を指す。
「何か他に話したことは?」
「そうですねぇ。なんか占いがどうとかって言ってましたよ。ピークタウンで騒動を起こしちゃうって占いがあったから気をつけていたのにその占い通りになっちゃったって。あとは茶髪の女剣士が来たら伝言板を案内するようにとお願いされました」
占いか。そういえばスラムで出会った占い師に、北に行けば俺が見つかると言われてオークションを目指しているんだったか。
「その数日後に軽傷を負った茶髪の女剣士の方が来て、お兄さんと同じように黒髪の女性のことを質問されたのであの伝言板を案内しました。それから女剣士の方はここで治療をしてからすぐ発たれましたね」
常雨の村のお婆さんにはめられて盗賊ルギンに狙われた楠木さんだが、どうやら軽傷で済んでこの町までたどり着けたようだ。ガウが頑張ってくれたおかげだな。
俺はお姉さんに伝言板の元まで案内してもらう。
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とある事情でこの町にはいれなくなったので、私は先に発ちます。目的のウエストタウンはここから北西にあるらしいです
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葵は家を壊した恥ずかしさからこの町にいられなくなって先にウエストタウンに向かい、この伝言を見た楠木さんもその後を追ったのか。
「今から追う?」
横に立つリーメルが聞いてきた。
「いや、もう日が暮れるしこの町で泊まっていこう」
どのみち一晩ではたどり着けないのだから、休めるときにしっかり休んでおく判断だ。
「やったー。私はもうヘトヘトだよ」
ガーネットは当たり前のようにまたガウにまたがってギルドの外に出ていく。俺もお姉さんにお礼を言ってギルドを後にしようとした。
しかしその時あるものが視界の端に映ってしまった。それは葵のメッセージが書かれていた伝言板の端に貼られていた1枚の紙だ。
紙の上部にはWANTEDと書かれ、その下には黒髪の少年の似顔絵が書かれていた。あまり聞きたくはないが、聞いておかなければならないだろう。
「あの、お姉さん。この紙って…」
「その紙ですか。それはたしかフールっていう犯罪者の手配書ですよ」
俺の手配書じゃねえか。
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