第63話 第4勢力
先ほどの魔法攻撃はこの2人のどちらかがしたのか。とてつもない威力だったが、一体何者なのか。
お爺さんが仮面を外した。深いしわが刻まれた威厳のある顔だ。だが異世界に来て帝国とダンジョンで大半を過ごしていた俺にはもちろん見覚えがない。
しかしルスキュールはこのお爺さんを知っていたようだ。お爺さんに向かって飄々とした態度で話しかける。
「これはこれは。中央王国の国王陛下ではありませんか。こんな汚いところへ何用で?」
「国王だと…!?」
国王は表情を崩さずに俺たちを見下している。
まさかそんな大物がこんなとこにいたとは。太陽の巫女という兵器が欲しいとか言ってたのは国の軍事力にしたいからって話だったのか。
しかし一国の王が闇オークションなんかに参加して安全面とか大丈夫なのだろうか。
いや、その安全を確信できるほどの力を隣にいる従者の青年が持っているということか。先ほどの魔法の威力がそれを裏付けている。
「海賊と反乱奴隷か。こんな輩にこうも好きにさせているということはドドガはいないようだな。となると太陽の巫女の確保に失敗したということか。これは残念だ」
重々しい声で国王が呟いた。ルスキュールの煽りに対しての返答ではなく、あくまで独り言のようだ。汚らしい犯罪者とは会話する価値もないということだろうか。
というか反乱奴隷って俺のことか。もう正体バレてんだ。
「それで、いかがいたしましょうか」
従者の青年が王に質問をした。先ほど船の上でガーネットのいざこざがあったときに彼はフードをしていたので気づかなかったが、彼には人族とは違った長い耳があった。サフランと似ているが、サフランと違い褐色をしている。ダークエルフという種族だろうか。
ダークエルフの青年の質問に王が答える。
「無論全て奪う。この船も奴隷も財宝も、ドドガのものは我が国のものにさせてもらおう。ドドガのいないこの船の防衛力など恐れるに足らぬ」
どうやら彼もこの戦いに参加するつもりのようだ。ルスキュールだけでも面倒なのに、さらに厄介そうなのが増えてしまった。
「太陽の巫女こそ手に入らなかったが、国を脅かす大物犯罪者のクビとその他の財宝だけでも十分だろう。あとは任せたぞ、アザレアよ」
ダークエルフの青年従者はアザレアという名前らしい。
「ハッ」とアザレアが返事をしたと同時に、浮遊していた船が浮力を失い海面に叩きつけられた。これにより商品の保管部屋にいた俺たちは再び水に浸かるはめになってしまった。
船の上で奴隷を守っているリーメルたちは大丈夫だろうか。水には浸かっていないだろうが、衝撃で奴隷が何人か海に吹き飛ばされているかもしれない。
「大丈夫かフール!」
ロズリッダが泳いで俺の元へ来てくれた。だがそこへアザレアの追撃が襲い掛かる。なんと周囲の海ごと俺たちや船を凍らせたのだ。さっきからなんてとんでもない規模の魔法の連発だ。
だがこの程度で俺たちは死なない。俺とロズリッダには”魔装付与”をかけてガードしているからな。
俺は”形状付与”で氷を変形させ、ロズリッダを抱えて海面上まで脱出した。空中にはアザレアだけがおり、すでに国王の姿はなかった。見渡してみるとはるか遠くに、氷の道を歩いて陸地へ向かう王の姿が見えた。この場はアザレアに任せて自分は離脱したのだろう。
アザレアの氷魔法によって周囲の海は見渡す限りの氷の大地になっていた。浸水して沈みそうな船だったが、それは周囲の海ごと凍ったことで踏みとどまっているらしい。もしかしてアザレアにはこの狙いもあったのだろうか。
「なんて規模の魔法だ。さっきからこんなの連発して、まだあいつの魔力は切れねえのか」
「たしかに。まさかガーネット以上の魔力量なのか」
ガーネットはそれまで革命軍1だったサフランの魔力量を大きく上回る。このアザレアはそのガーネットをまたさらに大きく上回る魔力を持っているというのだろうか。インフレが加速しすぎだ。
付与魔法を使って周囲の大気中の魔素をかき集めて、少ない魔力量を補っている俺の面目が立たないぞ。
「ばはあああ!」
叫び声と共に船の氷が吹き飛ぶ。
ルスキュールも刀とそれに宿る氷の力で船から脱出したようだ。保管部屋にいた盗賊や海賊のゾンビ兵たちは脱出は厳しそうだ。
アザレアが作り出した氷の大地の上に、俺と俺に抱えられたロズリッダ、ルスキュール、アザレアが向かい合った。
「ロズリッダは船の方を頼む。氷の下に落ちた奴隷とかいるかもしれないし」
「…ああ、任せろ」
一瞬思考した後にロズリッダは納得してこの場を去った。水中でないこの戦場で人魚の彼女は足手まといになってしまうと思ったが、彼女も同じ考えに至ったようだ。
ロズリッダは足元の氷を尾ひれで割って海に入っていったが、この氷は厚さ1メートルはあった。なんて強力な氷魔法なのだろうか。
こうして3勢力の3名による三つ巴の形になった。
「このバカみたいな魔力量。お前が宮廷魔術師か」
ルスキュールがアザレアに言った。宮廷魔術師というと奴隷施設を囲う巨大な壁を作ったという凄腕の魔法使いだったな。ドドガがいうにはそいつも”選ばれし者”らしい。
このアザレアがその宮廷魔術師だったのか。
「そうだが」
「噂とは見た目が違うんだが、まあそれはいい。この魔力量に疑いの余地はないからな。たしかお前も覚醒者なんだろう。無限の魔力を生み出す化け物だって聞いてるぞ」
「海賊風情が。よく勉強しているな」
無限の魔力を生み出すだと。じゃあさっきみたいな攻撃が一生続くってことか。冗談じゃないぞ。
ガーネットの太陽魔法も高威力ではあるが、あれには魔力量の限りがある。現に常雨の村で雨雲を吹き飛ばした時には魔力切れになって空を飛べなくなってしまった。
だがこのアザレアにそういった弱点はない。
ルスキュールの能力も未知数だ。どうしようか。
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