第111話 神器玉墜の回収

 「二人は神器持ちと戦ってたんだ。それであんな大怪我を…」


 すでにサフランの回復魔法によって完治しているが、ロズリッダは背中を深く斬られ、リーメルは両足を潰されていたらしい。相当な強敵と戦ったのだろうとは思っていたが、まさかルスキュールと同じ神器持ちだったとは。


 「魔眼で強制的に操られた状態で弱体化してたみたいなんだけどな。かなり手ごわかったぜ」


 「俺たちはパレッドの相手でギリギリだったから、そいつを抑えておいてくれて助かったよ」


 「それでその神器はどこにあるの。空島の残骸のところに遺体と一緒に残ってるのかしら」


 おそらく神器というのは魔石の上位互換のようなものでできているのだと思う。ルスキュールと相対した時に、俺のリベリオンの材料になった竜魔鉱石と似たような魔力を感じたし。その神器なら権能の力の一端を封じ込めておく器にふさわしいだろう。


 だが幸先いいと思ったのもつかの間、ロズリッダは困った様子で口をへの字に曲げながら答えた。


 「海に落ちちまった」


 「「え…」」


 どうやら竜化して暴走したメアが、襲い掛かってきたその神器持ちの幹部を神器ごと尻尾で弾き飛ばしてしまったらしい。そして海へ真っ逆さまに落ちていったと。


 まだ幸いなことに空島の真下が海のど真ん中でなく、陸地寄りだったため探す余地はありそうだ。

 

 ロズリッダに浮遊アジトの高度を下げてもらいつつ、海の上まで俺たちを飛ばしてもらった。


 「それでどうやって探すのよ」


 「じゃあ俺が潜水して探してこようかな」


 俺は”空壁”と同じ要領で、空気へ”形状付与”をして巨大な空気の塊を作った。これに入れば呼吸を気にせずに海に潜れるはずだ。


 「器用だな」


 「私は水とか空気とか流動性のあるものは扱えないから、こういうことはできないのよね。私たちの分は作れないの?」


 「俺も流動性のあるものは直接触れてないと維持できないんだ。3人で入ったら空気の減りがその分早くなるから、一緒に行くってのも止めておいた方がいいと思うし…」


 すると突然、眼下の海が波打ちだした。地震ではないようだが、何が起きているのだろうか。


 「空気を固めて潜水するより、いい考えがあるぜ」


 ロズリッダが意気揚々と告げると、海が持ち上がった。文字通り一体の海水がロズリッダの重力魔法によって宙に浮き、海底がむき出しになったのだ。


 俺もかつて、アジトからオークションへ向かう道中で野営をするときに、川の水を魔法で浮かべて魚を確保したことがあった。それと似た現象だが、規模が桁違いすぎる。


 「なんてでたらめな魔法を…」


 「もうこんな練度で使いこなせるのね」


 俺もナッカもロズリッダの能力の扱いに驚愕する。そしてロズリッダが目当てのものを見つけた。


 「この重力魔法を使えば、俺の水魔法のバリエーションも増えそうだな。ん?あの海底に落ちてるのが神器じゃないか」


 ロズリッダは一人飛び立ち、俺たちも”ベクトル付与”で後を追う。


 海水がなくなった海底には1本の大剣が落ちていた。相当な魔力がこもっているのが触れずとも分かり、それが神器であると俺はすぐに察した。


 「これだよ、これ。たしかこんなデザインだった気がするぜ。じゃあ早速持っていこう」


 ロズリッダが剣の柄を掴んで持ち上げようとする。だがロズリッダはそのままの姿勢で固まってしまった。


 「なにやってんのよ」


 「重くて持ち上がんねえんだよ。あいつこんなの振り回してたのか」


 どうやら重くて持ち上がらなかったようだ。両手でもダメそうである。見かねた俺はロズリッダにアドバイスをした。


 「重力魔法を使えば重さを中和して持ち上げれるんじゃない」


 「そうか。その手があったな」


 ロズリッダは剣に意識を集中させて、ついに神器を持ち上げることができた。


 だが意識が剣に向いたことで、なんと頭上にさせた海水が俺たちの元に降り注いできた。


 「「「あ…」」」


 そのまま俺たちは海に飲み込まれた。


 ロズリッダは魔法の規模こそすごいが、まだ操作が甘いところがあるようだな。俺は二人も連れて”ベクトル付与”で海上に脱出する。


 「ケホケホっ。悪い油断した」


 「アジトは落ちてないからまあいいか」


 「それは細心に注意を払ったからな。アジトと剣に意識を割いたら海の重力が解除されちまった」


 「もうちょっと練習が必要ね」


 こうして俺は神器と二人を担いだままアジトへと帰還した。

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