第3話 出会い
太陽の位置的に時刻はちょうど正午くらいだろうか。俺は食堂で皆と朝食を取っているときに呼び出されて処刑されたので、数時間は気絶していたのだろう。
突如として俺の奴隷としての生活が始まった。
女帝カーラと一ノ瀬にはめられて殺されかけて、何とか生き延びたと思ったら、今は坑道で石を掘らされている。とんでもない半日だ。
ここはどこかの鉱山らしく、多くの奴隷が働かされている。食事も最低限しか与えられていないのか、皆やせ細っている。俺もこうなる前にどうにかこの施設から逃げ出したいが、果たしてそんなことが可能なのだろうか。
ひとまずは看守に目を付けられないように大人しく仕事をして、それと並行しながら脱出方法を考えよう。新しい付与術で何かできるかもしれないし。
この鉱山の坑道から魔石という特別な鉱石を採掘するのが俺に与えられた仕事だ。台車一杯になるまで地上に戻れないというノルマがあるため、サボることはできない。
そこで俺は付与術の練習も兼ねて”魔装付与”でピッケルに魔法の膜を張って強化し効率化を図る。空から落ちてきたときに自分へかけた魔法だ。
しかしピッケルが片手用の小さいものなので、思うように作業が捗らない。両手で振るう長いピッケルだったらもう少しやりやすいと思うんだが。嫌がらせだろうか。
「こうやって掘り続けて、そのまま施設の外まで逃げ出せないものかな…」
俺はこの小さいピッケルで我慢してひたすらに石を掘った。空から落ちてきたときに使えた新技の”弾性付与”も普通に使いこなせたが、ここでは使い道はなさそうだ。魔力を無駄遣いしても得はないだろうし、今は”魔装付与”の練習をすることにしよう。
それにしてもここに来てから力が漲ってくる感じがするな。あとずっと頭が薄っすらと痛い。新技を覚えたことと関係があるのだろうか。
しばらく坑道で作業に没頭していると、突然横から人に話しかけられた。
「あの…」
「うわっ!びっくりした」
振り返るとそこには二人の美少女がいた。また看守に鞭を打たれるのかと警戒したぞ。
二人とも俺と同じような奴隷用のボロキレ服を着ている上に体中が汚れているが、葵並みの美人であると見受けられる。歳は俺と同じくらいだろうか。
だが人族ではないようだな。二人とも人間のものではない特徴的な耳を持っているのだ。長い薄緑の髪をした少女には長い耳が、青髪少女には猫のような耳が生えていた。
両方ともファンタジーではお約束の種族。エルフと獣人だろう。
「えっと、なんでしょうか…」
話しかけてきたのに中々話し出さない二人に俺から質問をした。二人はおどおどした様子で何とか喋ろうとしている。
「えっと… あなたのおかげで私たちの命が助かりました。ありがとうございました」
「ありがとう」
「俺が救った…?何の話?」
「乱暴な看守に殺されそうになっていたところに、あなたが舞い降りて看守を倒してくれたんです」
「私たちを助けてくれた救世主」
「救世主って…」
舞い降りたというのは華々しく脚色しすぎだと思うが。落っこちてきただけだよね。
どうやら彼女たちの話でによると、奴隷を痛めつける悪癖がある不良看守を空から落ちてきた俺が殺してしまったらしい。その看守は他の看守たちの間でも腫れ物扱いされていたため、殺した俺が特に咎められて殺されることもなく、奴隷として利用することになったようだ。
実はこの坑道に連れてこられる道中に看守から、俺が落ちてきた衝撃で看守の一人が死んだので、その分も働いてもらうと言われていた。
事故にしても俺が人を殺してしまったと聞いたときは動揺していたのだが、それによってか弱い少女が救われていたのか。それなら少し心が楽になったな。
「その言葉で俺も救われたよ」
俺の言葉に二人はキョトンとしている。
それからエルフの子が俺の肩を見て、驚いた様子で声を上げた。
「あれ、お兄さん怪我してるじゃないですか!鞭で打たれたんですか。今治してあげますね」
少女が俺に片手をかざすと、俺の傷が淡く光りだした。回復魔法の光だ。帝国での訓練で葵にかけてもらったときもこんな感じだった気がする。
「回復魔法使えるんだ。すごいね」
「少しだけですが…。助けてもらったお礼にせめてこれくらいは」
無詠唱なのを見るに彼女は回復魔法に関する才能を持っているのだろう。
鞭で打たれた痛みが引いていく。”魔装付与”をしていたのに血が出るほどの威力だったからな。これが治るのはありがたい。
彼女の回復魔法の練度では完治までとはいかなかったが、さっきよりだいぶマシになった。
「こんな感じですかね。でもごめんなさい。私の魔法では頬の傷跡は治せないです」
頬の傷というと転移させられる前に一ノ瀬につけられた傷のことか。だとすると治るのが早い気がするが。触ってみるともう傷が塞がっていた。檻の中ではまだ痛みがあったのに。
回復速度が速くなっている?
「傷跡までは気にしなくていいよ。ありがとう。おかげで痛みが和らいだよ」
「…」
なんだろう。お礼をしたのに特に返事が来ない。エルフの少女はもじもじしてるし、獣人の少女は俺の顔をじっと見ている。
「あの、まだ何か?」
「えと、名前… あんたの名前を教えてくれますか?」
なんだ名前を聞きたかったのか。治療費でも要求してくるのかと思ってドキドキしちゃったぞ。
「俺は
「ジュウリ様…。素敵な名前ですね。私の名前はサフランです」
「私はリーメル。よろしくジュウリ」
こうして俺は過酷な奴隷施設にて二人の少女と知り合った。
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