第4話 奴隷の扱い
俺は二人の少女たちと石堀りをすることになった。他の奴隷たちは俺が空から落ちてきたヤバい奴だからか距離を置いているので、孤独から解放されて嬉しい。
「2人はいつからここで働かされてるの?」
「かれこれ3か月くらいですかね。元々この採掘所の近くにあるスラム街にリーメルと一緒に住んでいたんですけど、そこで人狩りに捕まっちゃって」
「人狩り?」
「スラムに住む弱者を狙う卑劣な奴ら。逃げ惑う住民を殺して遊んだり、捕まえて奴隷として売ったりする」
「そんなクズがいるのか」
「国の冒険者が暇つぶしやストレス発散でやることが多いらしいですね。ひどいものでした」
「でもスラムにはいろんな病気が蔓延してるから、性的に消費されないだけでもまだましだけど」
治安のいい日本でも不良少年がホームレス狩りをする事件が稀にあった。弱者をいたぶって優越感を得たがるというのは、どこの世界でも共通の人間の本質なのかもしれないな。
「二人とも大変だったんだな」
「特にさっきはホントにまずかった。石が重たくて運べなくて殺されるとこだった」
労働用奴隷には男女の差はなく、女だからといって男より仕事が楽になることはないらしい。男の俺でもきつい肉体労働なのに酷なことだな。
「それにしても、すごいですねこの魔法は」
「石がゴリゴリ削れる」
二人のピッケルにも俺の”魔装付与”をかけてあげたら好評だった。魔装付与は人体以外にも物にもかけることができる。質の良くないピッケルであるため、あまり一気に魔力を込めすぎるとすぐ壊れるから扱いが難しいんだよな。俺は3人分のピッケル、そして3人の体に付与をしたことで魔力が切れてしまった。相変わらず絶望的に少ない魔力量だ。
「もっと長くて丈夫なピッケルがあれば楽なのにな」
「奴隷がピッケルを武器にして暴れたら大変ですからね。これ以上は望めないでしょ」
「ちょっと前に暴動が起きてからピッケルが小さくなった」
「そんなことがあったんだ…」
なるほどな。奴隷の反乱対策でゴミみたいな道具しか使えないのか。二人と喋りながら、仕方なく使いにくいピッケルで採掘作業をする。
しかし暴動か。またそういうことが起きるようなら、そのときが脱出のチャンスかもしれない。そこまで期待はできないが、俺の付与術によるサポートも活きるかもしれない。
「それにしてもなんでジュウリ様は空から落ちてきたんですか。ここは”空島”がある地域でも、”恵みの雨”が降る地域でもないのに」
「私わかった。ジュウリが神様だから」
「残念だけど神様ではないな」
「なーんだ」
「それは残念ですね」
二人とも俺が神様だと思ってたのか。奴隷施設で働かされていたら、そりゃ神にも祈りたくなるわな。たしかにここは異世界だし、神様とかが実在して本当に降臨したとしても別に不思議ではないのかもしれない。
しかし看守に従って石堀りをする神様なんてダサくて仕方ないぞ。
ちなみに空島は竜人が住まうという天空に浮かぶ楽園で、恵みの雨とはこの中央王国の外れにあるスラム街に降り注ぐゴミの雨のことらしい。
中央王国がカーラの帝国から海を渡って南に位置する国だということもサフランに教えてもらった。
つまり俺はカーラの術で別の大陸に転移させられていたらしい。わざわざ他の大陸にとは、自分の国を落下死した死体で汚したくなかったのだろうか。
帝国の女帝に処刑されてここに落とされたということは二人には話しておらず、遠くから来たとだけ伝えておいた。女帝に俺が生きていることがバレたら刺客を放ってくるかもしれないからな。
もしかしたらこの施設で大人しく従順な奴隷として生きていく方が長生きできるかもしれない。
いや、そんな後ろ向きな態度じゃダメだな。俺はこんなところで奴隷として死ぬなんてごめんだ。まだ逃げ道も、足枷を外す方法も思いついていないけど、どうにかしてここから逃げ出して自由になってやる。そしてできれば、日本に帰りたい。
「ジュウリ様はいつかここから出ていかれるのですか?」
「え?」
俺の心中を察したのかサフランが聞いてきた。
「逃げようとした人たちは全員漏れなく殺されてしまいました。ジュウリ様も殺されてしまうのは嫌ですよ」
「一緒にここで大人しく過ごそう」
「それは…」
どうやら二人はここから逃げるのを諦めているようだ。逃げようとして殺された人というのは、ピッケルが小さくなったきっかけの暴動に関係があるのだろうか。俺はこの二人になんて答えればいいのだろう。
そんな時だった。
ドーーーン!
「魔素溜まりだーーー!!」
突如坑道の奥から轟音が響き、次いで作業している男の声も届いた。
「うわなんだ!何の音だ?」
「どうやら奥が崩落して魔素溜まりと繋がってしまったみたいですね。私たちも早く逃げますよ」
「魔素?」
「知らないんですか?空気中に含まれる魔力のことを魔素って言ったりするんですよ」
「私たち人間の魔力の源」
二人から魔力の回復についての新しい知識を得たな。てっきり魔力は体内から湧いてくるものだと思っていたのだが、大気中から吸収していたのか。この知識は帝国では習わなかったな。
「それでなんで逃げるの?」
「濃すぎる魔素は命に係わる毒なんですよ。濃い魔素が溜まった空間と坑道が繋がった時は急いで地上に逃げることになってるんです」
「魔素は空気中に広がるのが早いから迅速に」
有毒ガスみたいな扱いなのか。
二人に続いて俺もピッケルを放り出して足枷をジャラジャラと鳴らしながら走ってついていく。
後ろからはしきりに「魔素溜まりだ!」と声を掛け合う声と増える足音が聞こえてくる。声を掛け合って逃げ遅れる人が出ないようにしてるのであろう。俺たちの前方の奴隷も後方の奴隷も、地下中の奴隷が一心不乱に走っている。
魔素溜まりとはそれほどに危険なものなのか。
ケホッケホッと俺たち3人は咳をし出した。
「もう魔素が回ってきたみたいですね。急ぎましょう」
咳が出たと思ったら次は頭が痛くなってきた。これが魔素の影響なのか。早く逃げないと悪化しそうだ。
頭痛を我慢しながら必死に前へと走り、ようやく地上へ脱出することができた。俺は地面に膝をついて呼吸を整える。新鮮な空気を吸うことで、魔素による頭痛も治まっていく。
ここであることに気づく。後ろから人の気配がしないのだ。「魔素溜まりだ!」と叫んでいた人やその周囲にいた数十人の人たちはまだ後ろにいるはずなのだが、声も足音も聞こえてこない。
「助かったのは私たちまでみたいですね」
サフランが坑道の入り口を見ながら呟いた。
「え… 俺たちより後ろの人たちは全滅ってこと?」
二人は暗い表情をしながら頷いた。
後ろでは数十人は働いていたはずだが、それが全員死んだ。人はこんな簡単に死ぬものなのだろうか。
「近くで魔素溜まりが出たら基本的に助からない。地下を掘っていて大勢死ぬなんてこの施設では日常」
そうか。こうやって命を使いつぶす場所に生きているから、二人は生きることを諦めかけてるのか。
「無事なのはお前らまでか。ではすぐに車輪の作業に移れ!」
命からがら逃げきった俺たちに近づいてきた看守は次の仕事を命令してくる。そういえば地下にはほとんど看守がいなかったな。こういう危険がある仕事だから奴隷にやらせて、自分たちは安全圏で待っているのわけか。
立ち上がろうとするがふらついてしまった。
「すみません。こっちの男性は新入りで魔素で体調が崩れたみたいで…」
「言い訳などいらん!早く仕事に行け!」
サフランは俺を休ませてくれようとしたみたいだが、看守はそれがそれを許してくれなかった。ムチで俺の腕を叩いて、早く行くように急かしてくる。”魔装付与”してても痛いからやめてほしいんだけど。
俺は看守たちへの憤りと殺される前にこの施設から脱出しなければという気持ちが強まった。
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