第104話 パレッドの最期
ロズリッダが力なく前向きに倒れた。俺は先ほどの権能二重持ちの反動のせいで助けに動けなかったが、ナッカがなんとか反応して支えてあげることができた。
「へへ、なんとかなったみたいだな」
ロズリッダは意識があり、喋る元気もまだあるようだ。倒れたのは権能の副作用などではなく、単に魔力を使い果たした疲労のせいでだったようで一安心。
海面ギリギリでなんとか制止した空島はそのままゆっくりと海に着水した。下から支えていたメアが調整して置いたのだろう。
空島を支える任務を終えたメアは海中から羽ばたき飛び出て人の姿に戻り、そのまま島の淵に着地した。
竜人たちが落下から助かったことに歓喜をあげながら、そのメアの様子を見に行っている。あの竜が同士の誰かが変身したものだということには気づいているようだ。
メアは竜人たちが様子を見に行ってくれたようだから、俺たちはパレッドの方に集中することにしよう。
パレッドが島の浮遊を諦めたことで、敵もろとも全滅して命を神に捧げる覚悟をしていた神聖騎士団たちは、まさか助かるとは思っていなかったようで困惑しているようだ。ここから再び士気を上げなおすのは難しく、戦意を取り戻してもすぐに竜人たちに討ちとられて行っている。勝敗は決したな。
「嘘だろ…」
パレッドの呟きだ。まさかこのロズリッダに権能を託すという作戦が成功するとは思っていなかったのだろう。ぽかんと口を開いている。
「権能を剥がして他人に譲渡するなんて聞いたことがねえ。何なんだお前の権能は…何かさらに特別な力なのか…」
パレッドが俺の権能について疑問を呟いているが、俺には答えようがない。俺だって自分の能力について誰かに教えてもらいたいくらいだ。
俺はボロボロの肉体をできるだけ刺激しないように、”ベクトル付与”でゆっくりと浮かんでパレッドの方を見る。
「ともかく俺たちの勝利だ。てかお前黒焦げなのにまだ元気そうだな。地上にも無事に降りれたことだし、サフランを呼んで回復してもらおう。聖教の話とか他の近衛の能力のこととか教えてもらいたいし」
俺はパレッドの命を救って情報を聞き出す判断をした。権能を奪った今、魔法での基礎戦闘力は残っているだろうが、前ほどの脅威はないし問題ないだろう。
もちろんこれにパレッドは猛反発する。
「誰が喋るかよ。くそ。負けたのに殺されもしないとは、神に合わせる顔がねえな」
倒れながら空を見て神に祈りだすパレッド。俺はまずは彼にその神について質問することにした。
「聖教が崇めるエルピス神ってのは何者なんだ。合わせる顔がないって、まさか実在するのか」
この質問に対してパレッドの答えは俺の予想外のものだった。
「エルピス神?いや違う」
「え?」
聖教の人間だから、てっきり崇めているのは聖教が信仰する神のことだと決めつけていたが、どうやら違ったようだ。
「俺が崇める神はエルピス神とは別の神だ。女帝カーラに助言をして俺をこの世界に転生させてくれた。そしていずれはこの世界を… ガハッ」
話ている途中でパレッドの様子が変わった。急に苦しみだしたのだ。容態が急変したのだろうか。
「ねえ、ちょっとただ事じゃなさそうじゃなさそうじゃない?リーメルを探して回復の魔法剣を借りてこようか」
「いや、あの魔法剣の魔力はもう切れてる。行っても無駄だ」
「おい大丈夫かパレッド。どうしたんだ」
この場にいる俺たちは回復魔法を習得していない。俺の”自己治癒力強化”は先ほどからかけているが、この重傷にはほとんど効果がない。
俺たち3人はただパレッドの成り行きを見守っていた。パレッドの顔からはすでに完全に生気がなくなり死相が見え、空を見ながらわめき出した。
「そんな神よ。なぜ俺を見捨てるのですか…嫌だ!クソ!利用するだけしやがって!あんまり…だ…」
「「「!」」」
最後の力を振り絞って神とやらに対して文句を言っていたパレッド。その体が植物が枯れるかの如く急激に萎れ、そのまま力なく塵となってしまった。風に吹かれて飛んでいき、もうここにパレッドがいた痕跡は残っていなかった。
「なんだこれは!」
「ただごとじゃないわね…」
何か超常の力が働いてパレッドが殺されたのは明らかだ。その原因は十中八九がパレッドが崇めていた神とやらだろう。
「神に消されたってことか。もう用済みってことで」
「この状況はそうとしか見えないわね」
「権能とはまた違った、圧倒的な力で殺された感じだったな。それほどに不気味な力だった」
俺の考えに他二人も同意見のようだ。
空島のことが解決したのにまた新たな謎が出てきてしまった。聖教のエルピス神とはまた別の、パレッドが崇めていた神の存在。俺たちと敵対するようなことはあってほしくないのだが。女帝カーラならそいつについて何かを知ってるのだろうか。
どのみちこれから帝国に向かうつもりだった。女帝にあったらその神とやらについても聞いてみるか。
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