万能の付与術師は無双する~クラス転移されて追放&奴隷化された俺は気づいたら最強になっていました。救った奴隷たちが作った革命軍のボスになったので、この世界に反逆したいと思います~

にんじん漢

第1章 奴隷解放&組織結成編

第1話 プロローグ

 「来たか。では早速本題だが。フルヤジュウリ、お前を処刑することにした」


 「え?」


 目の前の玉座に座る黒髪の女帝にそう宣告された。


 頭の中が真っ白になった。


 2週間前、この女帝カーラによって、俺はクラスの皆とこの異世界に集団転移をさせられた。恐ろしい魔族や魔獣と戦う兵士になるためだ。


 最初は皆困惑したが、魔族と戦って勝たねば元の世界に帰れないことを知り、女帝に従うことにした。


 クラスの人気者や委員長が鼓舞したことで、皆わりと前向きにこの現実に向き合えたと思う。魔法が使える!と乗り気な男子生徒とかも結構いたしな。


 カーラの水晶で才能を調べられ、俺には付与術師の才能があると分かった。この2週間はその才能を磨く訓練をしてきた。


 そうやって従順に過ごしていたのにも関わらず唐突なこの処刑宣言である。朝食の時間に俺だけ呼び出されたと思ったら、まさかこんな事態になるとは。


 「えっと、理由を伺ってもよろしいでしょうか」


 俺は女帝に質問をする。許可なく話し出した俺を女帝の傍に仕える黒騎士が咎めようとするが、それをカーラが制止して答える。カーラの答えは俺の予想外のものだった。


 「お前の仲間からの進言でな。目障りな無能を消した方がいいと」


 「は?」


 仲間?俺のクラスメイトのことか。だとすると一体誰が。この2週間で話せる人もそれなりに増えたが。でも殺したいと思われることはしてないはずだ。


 俺の動揺をよそに、カーラの後ろカーテンの中から一人の生徒が出てきた。

 金髪の美青年。クラスの人気者の一ノ瀬王輝だった。


 「一ノ瀬…くん?君が?」


 何かの間違いだろう。優しくてクラスメイトからの人気もある好青年の一ノ瀬くんがクラスメイトを殺そうとするなんて。


 中3の春休みに事故で骨折した俺は入学式にも参加できず、6月になってようやく登校できるようになりなかなかクラスに馴染めなかった。彼はそんな俺に積極的に話しかけてくれた、数少ない信頼できる人間の一人だ。ちなみに他には委員長の石岩正義と、中学からの同級生の伊織葵が俺を気にかけてくれていた。


 まさかそんな彼が俺を殺したいだなんて。そんなことあるはずない。

 

 だが俺のこの考えは一ノ瀬のニヤッと開いた口から否定された。


 「そうだ。僕が君を消してもらうようにカーラ様にお願いしたんだ」


 一ノ瀬は冷たい目で女帝の横から俺を見下ろしてくる。


 「なんでそんなことを…」


 「目障りだったんだ、君が。僕はこの容姿とカリスマ性で欲しいものは全て手に入れてきたというのに… 伊織葵。あいつの心は君のものだった。僕が持っていないものを君のような凡人が持っているなんて。許せるわけないだろっ!」


 こいつこんな叫ぶことあるんだ。というか葵の心が俺のものって。つまり葵は俺のことが好きってことか。何かの勘違いなんじゃないか。


 いやでも思い当たる節はあるな。高校に入ってからよく喋りかけてくれるようになったり、訓練で3人組を作るときに葵から俺を誘ってくれたり。てっきりクラスから浮いてる俺を気遣ってくれてるだけかと思ったが。


 でも葵が俺を好いているというの真実だとしても、それが理由で俺が殺されるのはあまりにも理不尽だ。


 「そ、そんな理由で処刑するって!そんなの横暴だろ!カーラ様はこんな暴論を許すんですか」


 「許す」


 カーラは冷たく答えた。


 「我は強者の意思を重んずる。お前はロクな戦力にならぬ弱者だ。そんな人間に我の魔力を割き続けるのはもったいないのでな」


 弱いからと言われてぐうの音も出ない。そんなのどうしようもないじゃないか。


 「それに魔眼師であるイチノセの魔眼は大変有用なのだ。そんな一ノ瀬へのストレスはできるだけ排除しておきたい」


 ストレス?

 優秀な一ノ瀬にストレスをかけないというしょうもない理由で、俺を殺そうというのか。頭おかしいんじゃないのか。人の命を何だと思ってるんだ。


 「こんなことをして他の生徒が黙っているわけないでしょ。一ノ瀬一人の機嫌を取るために他の役30人の信頼を失ってもいいんですか。それに一ノ瀬だって、皆からの人気に傷がつくかもしれないだろ」


 俺はどうにかして考えを改めるように必死に説得を試みた。俺を処刑することで不利益もあるということを訴えかけるのだ。


 だが一ノ瀬たちはそこまで想定していたようで余裕な態度を崩さない。何か作戦でもあるのだろうか。


 「その通りだね。僕も君のせいで今まで築き上げた信頼を失いたくはない」


 「なら…」


 「だから君には一緒に一芝居打ってもらうことにするよ」


 何かしてくる。直感でそう判断した俺は、とっさに自分に”魔装付与”と”状態異常耐性付与”と”火炎耐性付与”を施した。この一週間で身に着けた俺の付与術だ。


 だが女帝に凡才と評される俺の力では、こいつらに敵うはずがなかった。俺は次の瞬間には体の自由を奪われていた。体が麻痺して筋肉が思うように動かない。さらには声も出せなくなっている。


 「付与術師なのに状態異常にかかるなんて、やはり君には才能がない」


 状態異常の能力か?実力に差がありすぎるせいで、俺の”状態異常耐性付与”が効かなかったのか。


 さらに続けてカーラが言う。


 「”絶対支配権”発動。存分に暴れてもらうぞ」


 一ノ瀬が俺の目の前に1本の剣を投げる。俺の体は自分の意思に反してその剣を掴み、そのまま構えを取った。このとき剣で左頬に切り傷がついてしまったが、今の俺ではそれを抑えることもできない。カーラの魔法で体が操られているようだ。


 次の瞬間、部屋の後方にある扉が開き誰かが入ってきた。声からしてクラスメイト達だ。なぜこのタイミングでここに来たんだ。


 「あれ柔理くん。そんなところで…」


 葵の声が聞こえた。しかしそれに応える前に俺は剣を振りかぶって女帝の元へ走り出した。一瞬で間合いを詰めると俺の体は女帝を斬りつけようとする。

 

 「え?」


 クラスメイト達が急な出来事に驚きの声を上げた。俺の剣が女帝に迫る。一体何をやっているのだろうか。


 「悪いなフルヤ」


 誰かに声を掛けられたと思ったら、次の瞬間ドガッ!という音と共に視界が変わった。何が起きたのかすぐには分からなかったが、どうやら女帝に剣が届く前に俺は黒騎士に取り押さえられたようだ。地に伏した体勢になり、視界に玉座の女帝と一ノ瀬が入った。


 痛みが遅れてやってくる。鼻血まで出てきた。いやそんなことよりこの状況の方がまずいぞ。


 「みんな気を付けてくれ!彼はおかしくなってしまった。カーラ様を殺めて一人で元の世界に帰ろうとしていたんだ。今の彼は何でもするぞ」


 一ノ瀬がクラスメイト達に向けてそんなでたらめなことを言った。


 しかし俺は声が出せず、その反論もできない。


 普通ならこんな妄言を誰も信じようとしないだろうが、実際に剣を持って暴れてしまった。クラスの人気者の発言ということもある。


 すでに勝敗は決していた。


 「あいつ、そんなことを考えていやがったのか」

 「せっかくこの2週間で仲良くなれたと思ってたのに…」

 「人を殺そうとするなんて、一線超えてるでしょ」

 「ストレスでおかしくなっちゃったのかねぇ」

 「急に異世界になんて来たんだ。気が狂う奴も出てくるさ」


 もうここに俺の味方はいない。ここまでして一ノ瀬は俺を消したいのか。


 「ではこれより我に歯向かった反逆者フルヤジュウリを処刑する!」


 カーラが門の付近に立ちすくむクラスメイト達に向けて大声で言い放った。本当に俺は今から殺されるのか。


 処刑という言葉に一ノ瀬以外のクラスメイトはかなり動揺している。「それはやりすぎじゃ…」という声も出たが、無数の兵士が立ちふさがったことで皆押し黙ってしまった。


 唯一葵だけが取り乱して「処刑って!そんな!」とこちらに来ようとしているが、兵士達に取り押さえられている。


 皆に変な誤解をされたまま、こんな惨めに死ぬなんて。こんな最期は嫌だ。


 だが俺の体は動かない。

 黒騎士レオが俺から離れると、今度は地面から黒い影のようなものが無数の腕となって俺を抑えつけた。おそらくカーラの召喚術の一つであろう。頭から足の先まで抑えつけられて、体は微動だにしない。だが声の調子だけは少し戻ってきたようだ。


 「ケホッ… く、くそ…」


 「ほう、イチノセの沈黙の効果がもう切れたか。この2週間で必死に練習したおかげだな。だがもう全て手遅れだ」


 カーラが玉座から俺の元まで歩み寄って話しかけてきた。

 たしかにここまで葵や楠木さんたちを傷つけて、もう元に戻ることはできないだろう。みんなにこいつらの暴挙を伝えようにも、門まで届く大声はまだ出せない。


 「しょうもない付与術師を犠牲にして、魔眼師の信頼を勝ち取れるなら安いものよな。しかもこれで他の兵達もより緊張感を持って修練に励めるであろう。弱者にも使い道はあるものだ」


 なんだその言い草は。

 そっちが俺たちを勝手に召喚したくせに。なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。


 俺は憎しみがこもった眼でカーラを睨みつける。


 「存外いい目をするじゃないか。どれ、最期に何か言い残すことはあるかな?」


 カーラが俺に聞いてきた。俺の人生最期の一言か。命乞いをしてもこの処刑を取りやめてくれることはないだろうな。これは別に残ったクラスメイトに遺言を伝えてくれるというわけでもないだろうし。


 どうせ最後ならカーラに一言言ってやるか。もうこの際、相手が権力者とか知ったことか。


 「お前みたいな若作りクソビッチに従うくらいなら死んだほうがマシだ。自由になれてせいせいするぜ」


 「貴様っ…!なら望み通り死ねぃ」


 額に血管を浮かべたカーラが叫ぶと俺の足元に魔法陣が現れて、俺はそこに落っこちるように吸い込まれた。

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