第97話 恩に報いるために② sideロズリッダ

 まずはロズリッダとリーメルが先手を取って駆け出した。ロズリッダが右側から、リーメルが左側から回り込んでゼルドリックに挟撃をしかける。


 ロズリッダは所定の位置に着くと、中距離から魔法で無数の水の刃を放つ。1発1発が岩すらも切ってしまう強力な攻撃だ。リーメルはある程度回り込んだところで急激に軌道を変え、一気にゼルドリックに迫って斬撃を叩きこむ。


 この二人はまだ出会って間もないが、まるで長年連れ添った相棒のようにバッチリのタイミングで挟み撃ちに成功した。


 だがこのロズリッダの水刃攻撃はゼルドリックには効かなかった。大量に飛ばした水の刃は全て奴の神器玉堕の側面で受け止められてしまったのだ。もちろん剣にも傷一つついていない。


 「ちっ。やっぱり面倒な武器だな」


 水刃を防がれたロズリッダは舌打ちをしながら吐き捨てた。


 そして一方のリーメルの斬撃はというと、なんとゼルドリックの右腕で受けとめられてしまった。勢いを殺されて空中で停止したリーメルは、振るわれた敵の右腕によって吹き飛ばされてしまった。


 心配そうにリーメルの安否を確認するロズリッダだが、どうやらリーメルは想定したよりダメージを受けていない。上手く衝撃を和らげたのだろう。それでも立ち上がる時にややふらついているが。


 「くっ。やるではないか」


 リーメルを吹きとばしたゼルドリックの右腕の関節部分から血が出ており、ゼルドリックが煩わしそうにしている。ゼルドリックが重鎧を頭の先からつま先まで纏っているため、リーメルは肘の関節を狙ったようだ。


 「あなたの鎧は切れないけど、関節なら切れる。ここまでの戦闘でそれが分かった」


 リーメルがゼルドリックを見て奴の攻略法を話しているが、これはゼルドリックではなくロズリッダに向けたメッセージだろう。お前も関節を狙えというメッセージ。


 おそらくリーメルはロズリッダが参戦する今までに、何度もゼルドリックに斬りかかり、攻略法を探っていたのだろう。ロズリッダは彼女のその努力を無駄にすまいと思った。


 「たしかに関節は弱そうだ。これを全部かわせるか!」


 ロズリッダは無数の水の弾丸を放った。サイズは直径1メートルと大きめだが、殺傷力はどこまで高くない。鎧相手ならなおさらだ。今度は先ほどより拡散させて撃つ。そしてその中に関節を狙った水刃も混ぜて飛ばす。


 「くどいな」


 ゼルドリックが再び剣で水弾を防御する。今度は盾のように待ち構えるのではなく、剣の側面で薙ぎ払おうとした。


 「読み通りだ」


 ロズリッダは敵がこの行動を呼んでいた。視界を塞ぐように広範囲に魔法を撃てば、視界を確保するために対処しようとするだろうと。


 ゼルドリックは剣を薙ぎ払った状態で胴体ががら空きだ。ロズリッダはそこで大胆に奴の首関節を槍で狙う。水弾に混ぜた水刃が本命だと思わせて、実は両方ともおとり。本命はロズリッダ本人による奇襲だったのだ。


 その槍攻撃を左腕でガードしようとするゼルドリック。このままではロズリッダの刺突はガードされてしまう。


 だが彼女はそれでもいいと思っていた。なぜならゼルドリックの背後にはすでに剣を振りかぶったリーメルが迫っているのだから。


 またしても完璧な挟撃が決まった。首か左腕をもらい受ける。


 だがゼルドリックはそこまで甘くはない。


 「ふんっ!」


 「え!」

 

 「なに!?」


 なんと彼は気合の入った掛け声とともに大ジャンプをして、両名の攻撃をかわしてしまった。あの巨体と大剣からは考えられない大ジャンプだ。10メートルはとんでいるのではないか。


 二人ともゼルドリックのこの回避方法は想定外で、ターゲットがいなくなりお互いの剣と槍がぶつかってワタワタしてしまう。


 「おおっと!すまねえ」


 「っ!ロズリッダ!上!」


 そこへ質量変化の神器の特性を活かした、超質量のゼルドリックの蹴りが落ちてきた。


 地面が大きく割れて瓦礫が拡散し、二人ともその衝撃でそれぞれ別方向に吹き飛ばされる。再び受け身で衝撃を和らげようとするリーメルだが、建物に到達する前に高速移動したゼルドリックが追撃を入れてきた。振り下ろされた大剣をなんとか剣で受けとめるが、その圧倒的な質量で背中から地面に叩き落とされてしまう。


 「がああ!」


 下の地面に亀裂が入るほどの衝撃を受け、リーメルが苦痛で声を上げる。さらにゼルドリックはリーメルを逃すまいと、その巨大な左足で彼女の両足を踏みつけて抑えた。


 「あああ!」


 リーメルが悲鳴を上げた。骨もやられているだろう。


 「これでスピードは封じた。終わりだな」


 ゼルドリックは剣を振り上げた。


 「やめろぉ!」


 ロズリッダは慌ててリーメルの元へ駆けつける。リーメルも自分をオークションから助けてくれた恩人なのだ。彼女を助けられない自分に腹が立つ。リーメルは絶対に守る。


 ロズリッダは水魔法で水流を生み出して、ゼルドリックへの道を作ると、変化の杖の変身を解いて人魚の姿に戻し泳ぐ。


 そしてその勢いでゼルドリックの左足を蹴り飛ばし、リーメルを解放する。膝裏も装甲がなくて斬撃が通ったのだ。


 「なんという速さ!なるほど、人魚族だったか。これは想定外だ」


 「ゲホッ。ありがとうロズリッダ」


 「あとは任せとけ」


 ロズリッダはリーメルと共に水で流され、ゼルドリックがそれを追う。やはり奴は自分たちを逃がすつもりはないようだ。足を負傷したリーメルを置いてロズリッダは、一人反転してゼルドリックに追撃を入れる。


 先ほど敵の左足を奪った時に、同時にこちらも背中を深く斬られてしまった。これでは槍をまともに振ることはできないだろう。


 「その傷で1対1で正面からとは、血迷ったか」


 たしかに凄まじい身体能力のゼルドリック相手に、闘気を纏えないロズリッダでは勝ち目はない。


 「そんな馬鹿正直に付き合ってられっかよ!」


 ロズリッダは水流である程度敵に近づくと、直径10メートルの巨大な水球を発生させた。これにゼルドリックもロズリッダも飲み込まれてしまった。


 「お前からただ逃げてたわけじゃねえ。近くの川までおびき寄せただけだ。俺の土俵のな」


 「!?」


 魔法で生み出す水量だけでは敵わないと悟ったロズリッダは、近くの川の水を利用することにした。それによってこれほど巨大な水球を作れたのだ。


 地面で戦うのは不利だが、水中なら闘気なしでも有利に戦えるとロズリッダは判断してこの作戦を思い付いた。


 ゼルドリックの斬撃をロズリッダは高速遊泳で回避する。呼吸ができずに苦しそうにしだしたゼルドリック。


 このままでは敵わないと察したゼルドリックは質量を増やして地面に着地しなおすと、残っている片足によるジャンプで水球から脱出しょうと試みた。


 ロズリッダはその隙を見逃さず、ゼルドリックの側面に水流を生み出すと、水球の横方向から押し出した。


 その先では剣を構えたリーメルが待ち構えていた。


 「美味しいとこは譲るぜ」


 「ナイスアシスト」

 

 「お見事…」


 リーメルはロズリッダに賛辞を送りながら、飛んできたゼルドリックの首を跳ね飛ばした。

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