第96話 恩に報いるために① sideロズリッダ

 3人の覚醒者にパレッドの相手を任せたロズリッダは、ガウに乗って竜人族の居住区を目指す。遠目からでも、すでにそこで戦闘が起きているのが分かる。


 本来はここで竜人族たちをターニャが説得して、本島で起きている反乱に加勢するという話だったはずだ。戦闘がここで起きているということは、逆に神聖騎士団が先手を打ってきたのだろうか。


 まあ状況が多少変わったところでロズリッダがやることは変わらない。ただ目の前の敵を倒すだけだ。


 ターニャを失ったことで生まれた竜人族の中の反乱分子たち。一度は制圧されてしまったが、ターニャが来れば再び士気を取り戻すだろう。


 このままパレッドに従っていても竜人族は使いつぶされて絶滅するだけ。それなら血を流す覚悟で再び反乱を起こそうと、ターニャは覚悟していた。


 竜人族のメアには恩がある。それと革命軍のボスのフールにも。彼らにはオークション船に捕まっていた自分を救ってもらった。

 逃げ場を失い、オークションの商品としてどこかの金持ちのペットにされるはずだった自分の運命を変えてくれた。


 ロズリッダはその恩を返したいという一心で、この戦いに挑む。


 彼女が戦場につくころには、かなり乱戦になっていた。竜人族の個の力は凄まじく各所で圧倒しているが、浮遊石に乗って本島の方から神聖騎士団の援軍が次々とやってきている。竜人族が1000から2000人くらいいるのに対して、敵は援軍を含めてその倍以上はいるだろうか。このままでは数で押し切られてしまう。


 「ん?あれはリーメルか。ガウ、ここからは別行動でいくぞ」


 ロズリッダが飛び降りると、ガウは「バウ」と一言吠えて近くの神聖騎士団へ襲い掛かっていった。自分がテイムした主人でもないのに指示を聞いてくれて、非常にかしこい魔獣だなとロズリッダは思った。


 (たしかフールの友人のあのアオイってやつが使役してるんだったか。ガウから主人の人柄が見えるな)


 ロズリッダは先ほどイチノセからアオイを救えなかったことを悔やんだ。目の前まで迫ったのにあっけなく逃がしてしまった。


 フールのためにもアオイは救わなければならない。このままではフールへの恩を返せない。


 それを成すためにまずはこの空島を救うのだ。


 ロズリッダはリーメルの援護に向かうことにした。個の力では味方陣営が勝っているこの戦場においてリーメルは押され気味だ。


 しかしこれはリーメルが弱いわけではない。むしろ竜人族たちよりも頭一つ飛びぬけた戦いぶりをしている。リーメルが一人で相手している敵が圧倒的に強いのだ。


 他の竜人たちも加勢に入ろうとしているが、どうにもその隙がないようだ。傭兵として戦い続けて絶大な戦闘力を持つ竜人族ですら、割って入れない程激しい戦いがそこでは繰り広げられていた。


 その戦場のど真ん中へロズリッダはためらわずに突っ込んでいった。変化の指輪で生やし、ナッカの靴を履いたその足の裏に水の塊を発生させ、それを爆ぜさせる衝撃で高速移動をする。


 重鎧の敵が振り下ろす大剣を、リーメルの前に割って入ったロズリッダは槍でなんとか逸らすことに成功した。想像以上に重い攻撃に腕がしびれる。


 「む。また新手か」


 「ロズリッダ!」


 「待たせたな。共闘するぞ!」


 ロズリッダとリーメルは後ろに跳んで体勢を立て直した。ロズリッダはこちらの出方を伺って立ち尽くす敵を観察する。


 身長が3メートル以上はある大男で、全身が深緑色の重鎧で包まれている。そしてその体躯に見劣りしない大剣をあろうことか片手で軽々と振り回している。あの重さの剣をこんなに軽々と持てるわけがないと思うのだが。


 この間にリーメルは、イチノセのモーニングスターにやられたロズリッダの横腹の出血に気づき、急いで魔法剣で回復させてくれた。


 「気を付けてロズリッダ。奴の強さはあの剣に秘密がある。たぶん重さを変えれるんだと思う」


 「なるほどな。それで軽々と振るったり、重い一撃を入れたりできるわけだ」


 リーメルはこのゼルドリックという敵幹部との戦いでは回避に専念していたらしいが、それでもかなりボロボロになっている。だがその甲斐もあって、敵の剣の秘密に気づいたようだ。


 「なるほどな。たしかに今は剣を片手で持っているくせに体の重心がブレてない。剣が重くなったら少しだけ体の重心がブレるから、そこにも警戒だな」


 「ほう。それには気づかなかった」


 ロズリッダは自分の考察もリーメルに共有する。その視点はリーメルにはなかったようで、攻撃を一撃受け流しただけでそれに気づいたことに関心された。


 「この剣の仕組みにもう気づいたか。なかなかやるではないか。だがそれだけで勝てる程、我は弱くはないがな」


 様子を見ていたゼルドリックが口を開いた。自分の手の内がバレたというのにも関わらずに、余裕そうな口ぶりだ。圧倒的な強者のオーラを身に纏っている。


 「我は武人族の剣士、ゼルドリック。そしてこの愛刀の銘は、神器玉堕ぎょくおち。察しの通り、質量変化の力を秘めている。尋常に手合わせを願おう」


 「神器…」


 「あっさりと認めたな。俺たちのことを舐めてんのか、まだ何か他の性能を隠してるのか。どっちにしろあの剣には注意だ」


 武人族という種族のことは二人とも聞いたことがない。


 だが神器。これにはロズリッダもリーメルも聞き覚えがある。先のオークションでの戦いで海賊ルスキュールが使っていた武器も神器と呼ばれるものだったと、後からフールに聞いた記憶がある。


 ルスキュールの神器雪摘ゆきつみから発せられる氷は、無限の魔力の権能の一部を持っていたアザレアの氷魔法と渡り合い、覚醒者であるフールすらも苦戦させた。ルスキュールの説明によると、神器とは大昔に権能に対抗するために生み出された武器らしい。この玉堕という剣もそれだけのポテンシャルを秘めているのだろう。


 ロズリッダは自分が冷や汗をかいていることに気づいた。


 「これは二人がかりでも楽な戦いにはならなそう」


 「そうだな。だが勝つ!」


 ロズリッダは大声で気合で入れ、ゼルドリックとの戦いに臨む。

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