万能の付与術師は無双する~クラス転移されて追放&奴隷化された俺は気づいたら最強になっていました。救った奴隷たちが作った革命軍のボスになったので、この世界に反逆したいと思います~
第15話 クラスメイトside 伊織葵の決意・後編
第15話 クラスメイトside 伊織葵の決意・後編
「カーラ様の処刑がどういうものかには気づいているようですね」
「はい。女帝様が召喚師って才能なのは予想できました。処刑の時も無詠唱だったから、あれは召喚術でどこかへ飛ばしたんじゃないかなって」
メアリスは驚いた表情をした。
この世界に来て数週間程度の女の子が、他人の能力の分析なんてしだしたのだ。こんな優秀な子は今まで召喚された子たちの中にはいなかった。
「素晴らしい洞察力と分析力です。あなたは訓練の時も真面目に話を聞いていましたからね。ですが、カーラ様の能力に関して配下である私は話すことができません」
「そんな…!」
「カーラ様への報告は止めておいてあげます。もうこれ以上の詮索はしないように」
この人なら教えてくれるかもと言う葵の思惑が外れた。カーラに告げ口をされず、命拾いしただけでも儲けものの状況だ。しかし葵はここで引けなかった。
メアリスは「それでは」と言って城へ帰ろうとする。そんな彼女の肩を葵はガシッと掴んだ。
「なんですか」
「お願いです!柔理君の行先だけでいいんです!教えてください」
葵は深々と頭を下げた。かなり声を上げたせいで何人かの生徒たちに見られてしまったが、そんなことを気にしている余裕はない。
この城の中で最も話を聞き出せる希望のある帝国の人間が彼女なのだ葵は判断した。ここで引いたら柔理に関する情報は二度と手に入らないかもしれない。
葵はさらなる誠意を見せようと土下座の姿勢になろうとする。
「ちょっ、待ってください。困りますよ。なんでそんなに聞きたいんですか。彼はもう高確率で死んでるんですよ」
メアリスは慌てて葵の土下座を中止させ、質問を投げかけた。
別に答え次第で教えるなんてつもりはさらさらない。ただ疑問に思ったから聞いただけのこと。
葵はメアリスの目を真っすぐ見つめて答えた。
「それは… 彼は私の好きな人だから」
親友の楠木凛以外には一切言わなかった本心を零した。
「彼は見知らぬ他人にも優しくできる人で。その性格のせいで子供をかばって車に轢かれて骨折しちゃったりして。そんな彼を私が支えたいって思ってたんです。それなのに彼は私の目の前で消されてしまいました。まだ私の気持ちを何も伝えてないのに」
葵の瞳から涙が溢れてきた。
演技で涙を流すこともある葵だが、この涙は打算のない純粋な涙だ。
メアリスは黙って葵の話を聞く。
「私は彼の死を自分の目で確かめるまでは信じたくない。だから確かめる方法を知りたいんです。お願いします」
葵はもう一度深々と頭を下げた。
自分の心の内を声に出したことで涙が止まらなくなってしまった。
何秒、何十秒頭を下げていたか分からない。
何やら考え込んでいたメアリスがようやく口を開いた。
「面白い噂話があるのですが…」
葵は頭を上げてメアリスを見つめる。
「この帝国から南にある大陸に中央王国という国があるのですが、この国には不思議な天気があるらしいんです。なんでもこの国のある地域には”ゴミの雨”が降るんだとか。食べ残しから人の死体まで様々なゴミが空から降ってくるんですって」
「ゴミの雨…?」
「そうです。しかもさらに不思議なことに、そのゴミの中にこの帝国特有の植物が混ざっていたらしいんですよ。他国に輸出するようなものでもないのに」
帝国のゴミが南の大陸へ…
距離からしてハリケーンなどで打ち上げられたとかでもないだろう。だとすると…
カーラの召喚術か。
女帝は自国のゴミを他国へ雨として降らせているのだろう。自国で処理するのが面倒だとか、他国に嫌がらせをしたいだとか、詳しい理由は分からないが。
だとするともしかしたら柔理も同じようにそこに降らされたのかもしれない。
「面白い話をありがとうございました!」
「いえいえ。あまりにくだらない噂話なので、他言はしないでくださいね」
そう言ってメアリスは城へ帰っていった。
葵はもう一度、今度は感謝の念を込めて深く礼をした。
おそらくゴミの雨として柔理は他国へ飛ばされてしまったことが判明した。
雨のように地面に叩きつけられたら普通なら死んでしまうが、なぜか葵は柔理がまだ生きている気がした。彼の付与術ならあるいはと。
自分で現地に行って確かめよう。葵はそう決意した。
葵は自分たち転移者も使用が認められている城の書庫へ赴き、世界地図を見つけた。
そして異世界の地理に興味がある女子として、おじいさん司書に近づき話を聞き出すことにする。演技ならお手の物だ。
地形の話や、他国との外交の話から始まり、輸出入の話に持ち込んだ。
「中央王国への輸出はどうやってやるんですか?船ですか?それとも魔法?」
「貿易は主に船だね。転移の魔法が使える人なんて見たことがない」
やはりただの司書ではカーラの能力の事を知らないようだ。頑張ってメアリスを説得した甲斐があった。
「中央王国への輸出は月に2度だけ船で出すんだよ」
「へー異世界でも船なんですね。私の世界でも船を使っていました。とても興味深いです。こっちの船も見てみたいです」
「船にも興味があるのか。次の分は3日後の夜に南の港町から出発するんだけど、君たちに外出の自由は与えられていないからね。ちょっと待っててくれ。今その船の絵が描かれた本を探してくる」
「あ、そろそろ友達と食事をする予定なので。今日はこれくらいで。ありがとうございました」
ミッションコンプリート。
中央王国への船は3日後の夜に出るらしい。
部屋に戻り、書庫で貰ってきた地図を広げて港町を確認する。城から討伐演習の地までの距離と比較して、3日後の夜までに港町に着くには今すぐ城を発つべきだと判断した。狼の使役獣のガルに乗っていけばギリギリ間に合う距離だろう。
まだ夕食を食べておらず空腹だが、呑気に食事をして船に間に合わなかったら洒落にならない。食事は道中で獣でも狩ることにしよう。ガルがいるからなんとかなるだろう。
葵は自分の部屋で着替えだけ済ませると、窓からこっそりと城を抜け出そうとした。日が暮れると城の門は完全閉鎖してしまうからである。
しかしその時だった。
「なにやってんの葵」
「あ、凛ちゃん。これは…」
部屋に楠木が入ってきてしまった。一緒に夕食を食べると約束していたのに中々葵が来ないため、部屋まで様子を見に来たのだ。
葵は部屋の中央に正座させられた。
「何をしようとしてたか説明してもらうわよ。流石に今回のは目を瞑れないわ」
「それは…」
葵としては自分の計画に楠木を巻き込みたくない。
城から脱出してもし捕まったら、柔理と同じように処刑されるかもしれない。この作戦を知っていたのに黙っていたとなれば楠木も何らかの罰が与えらるかもしれない。
そう考えて葵は楠木には何も伝えないことを選択した。
「凛ちゃんには何も言わない。巻き込みたくな…」
バチッ!
自分の耳元から大きな音がした。何が起きたのかすぐには分からない。
だが自分の左頬がヒリヒリと痛みだしたことで、ようやく自分が楠木にビンタされたのだと理解した。
「え…」
いつも優しい楠木が自分に手を上げるなんて想像もしていなかった。
「あんたねえ!もっと私を信用しなさいよ!もっと頼ってくれたっていいでしょ」
楠木が涙目で葵に訴えかけてくる。彼女が泣いているのを見るのも葵にとっては初めてのことだ。
「古谷くんのことなんでしょ!私も、あの時何か行動していたら、彼が女帝に処刑されることなかったんじゃないかって後悔してる」
「で、でも凛ちゃんを巻き込んで死なせたくない」
「もっと頼ってよ!親友でしょ」
この言葉に葵はハッとした。
楠木は級友を救えなかったことだけでなく、親友に頼られていない現状にも悲しんで泣いていたのだ。
「親友だからこそ巻き込みたくないんだよ」
「もしここで何も言ってくれなかったらもう葵とは親友じゃなくなるわ。そうして生きながらえるより、葵の親友として死にたい」
葵は楠木の想いを聞いて涙が込み上げてきた。彼女は自分のことをそこまで考えていてくれたのかと。
この想いを無下にはできない、したくない。
葵はこの作戦について楠木にも話すことにした。
実は楠木は夕方の葵とメアリスのやり取りを見かけており、葵が柔理関連で何かしようとしているのには気づいていた。
なので輸出の船に潜入して、柔理が飛ばされたと思われる中央王国へ密入国するという作戦を聞いた時もそこまでの動揺はなかった。
「古谷君、生きてるといいわね」
「うん。死んじゃってるとしてもちゃんと弔ってあげたいし」
そのためだけに脱出や密入国までしようとする葵を、楠木は心配もしたが同時に彼女の友であることを誇らしくも思った。
「じゃあとりあえず今から出発して南を目指すのね」
「そう、だけどほんとについてくるの?捕まったらどうなるか…」
楠木は今度は軽く葵の額にデコピンした。
「いてっ」
「捕まって処刑されたら女帝の魔法で一気に中央王国へ行けるんでしょ。むしろそっちの方がいいくらいだわ」
楠木には敵わないなと、葵は思った。
二人は城から支度を終えるなり窓から城を出て、王都の門をくぐって南を目指す。
一番の懸念は黒騎士レオだったが、彼は夕方から東の前線へと向かっていった。
王都から離れることさえできれば、逃げた先が分からず追手の出し用がないとも思っていた。
葵が船の事を聞き出した司書からカーラへ何か漏れる可能性もあるが、それまでにかなりの時間が稼げると踏んでいた。
だが葵はある男の存在を忘れている。
いや、嫌いな存在なので無意識に考えないようにしていたのかもしれない。
城には”千里眼”を持つ男がいるということを。
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