第29話 ゴミ雨の真相
俺は”空壁”で雨から身を守りながらドドガを追う。ドドガは逃げながらも土の槍を飛ばしてくるので、”ベクトル付与”をそちらにも割かなければならない。
今のドドガはかなりの深手を負っているはずだ。ここで見失って体勢を立て直されるのは面白くない。
しかしゴミの雨が勢いを増してきて追跡が難しくなってきている。ドドガは地面からゴーレムの腕をいくつも生やして、自分が入ったボールを街の外までパスして運ばせている。随分と楽そうだ。
サフラン達が残っている方を横目で確認すると、地面からいくつもの土柱が生えて上空で広がって繋がり、ゴミ雨を防ぐ傘のようなものが出来上がっていた。
あれが盗賊の部下が言っていたドームっていう奴か。ドドガが部下をゴミ雨から守るために発動していったのだろう。革命軍のメンバーたちもあれを利用して無事でいてくれるといいのだが。
サフラン達も命をかける覚悟で来ているだろうから、俺は目の前のドドガに集中する。
奴もかなりの速さで逃げているが、俺の方が速い。
「もう追いつくぞ!観念しろ!」
俺の槍がドドガに迫る。その瞬間、俺の目の前に10体のゴーレムが立ちふさがった。今さらこんなのは何の障害にもならないだろうに。最後の悪あがきか。
「エンチャン…」
俺は自分を襲ってくるであろうゴーレムの足元に”滑性罠”を設置しようとした。
しかしゴーレムは俺を襲うことなくその場で立ち止まった。そしてその土の体がドロドロと溶けて、中から少年少女たちが出てきた。
「ゴーレムのままよりそっちの方が盾になるだろ」
「っ!貴様ぁ!」
こんなゴミの雨に無防備でさらされたら、この子供たちはただでは済まないだろう。
俺は”空壁”の傘を広げつつ、もう一つ”空壁”を作って10人を俺の元まで手繰り寄せる。さらに念のために子供たちに防御力上昇系の付与もかけておく。
その隙をドドガは見逃さなかった。地面から伸びた土槍が俺の胸に刺さった。
「くっ…!」
俺は自身への”ベクトル付与”の操作を誤って墜落してしまった。
「救世主は守るものが多くて大変だな。じゃあな」
そう言い残してドドガは街の外まで逃げていってしまった。
「ケホッケホッ。くそ!」
俺は悔しさで地面を殴りつける。いやそんなことより、まずは子供の安否確認だな。
子供たちは気絶はしているが、外傷はないようだ。呼吸もちゃんとしている。
「ゴーレムを元に戻せるってのは嘘じゃなかったのか」
それだけは朗報ではあるか。これを利用して逃げられたのは悔しいが。
俺の胸の傷もそこまで深くはない。サフランと合流して回復してもらおう。
とりあえず俺は恵みの雨の様子を見ながら、小休止をとることにした。”自己治癒力強化”で応急処置だけでもしておくためだ。
しかしこのゴミの雨はいったいどういう原理で空から降ってきているのだろうか。どこか遠くのゴミがハリケーンかなにかで打ちあがったのか。
そんなことを考えながら”空壁”ごしに空を見上げていると、目の前に見覚えのあるものが降ってきた。俺の心臓の鼓動が早くなる。
「これは…」
それは俺の高校の女子生徒用の制服だった。俺たちクラスメイトがこの世界に来て、帝国で手放した制服。
しかしこれは帝国で保管されていたはずだ。なぜそれがこんなところに空から降ってきたのだろう。似た服が異世界にもあっただけなのだろうか。制服なんてものはどこの世界でも同じようなものなのかもしれない。
だがその希望も次の瞬間に潰えることになる。なんとなく服の内側を確かめてみた。内側は自分たちの制服とは作りが違うかもしれないと思って。
だが目に飛び込んできたのは”伊織葵”という刺繡だった。
慌てて周囲を見渡すと同じ制服がいくつも降ってきていた。他のクラスメイトの制服だろう。
「なんで俺たちの制服がここに…」
俺は葵の服をマジックポーチにしまうと、この雨の真相を確かめるために上空へと飛んだ。
その前に子供たちを土の壁で保護しておく。錬成した土と違って”空壁”は射程外に出ると維持が難しいからだ。
俺はゴミの雨を掻い潜って、スラムの上空までたどり着いた。
「これが恵みの雨の発生源か…」
スラムのはるか上空には広範囲にわたって複数の魔法陣がいくつも展開されていた。似たような魔法陣は見たことがある。帝国の女帝カーラの召喚魔法の魔法陣だ。
俺はこれを見て確信した。
「なるほどな。スラムの”恵みの雨”は、帝国から飛ばされてきたゴミだったのか」
おそらく帝国のゴミがカーラの魔法によってここに不法投棄されているのだろう。
だとすると俺の処刑も不法投棄みたいなもんだったのか。舐めやがって。
しかしスラムに落とそうとした割には座標がズレているな。ここから少し離れた奴隷収容所に落ちたわけだから。何か魔法に不具合でもあったのだろうか。
「まあ処刑のことはいいか。生きてたわけだし。ここから帝国に戻れたりするのかな」
試しに魔法陣に触れてみるがバチッ!と弾かれてしまった。一方通行でこちらから向こうに行くことはできないらしい。
「そんな簡単にはいかないか。しかしなんでこんなタイミングで俺らの制服がまとめて捨てられたんだ」
制服を捨てるならこの世界に転移された直後でもよかったはずだ。それにそもそも大事に保管してくれるという話だった。
あれから2か月経った。もしかしたら帝国で何か良くないことが起きているのかもしれない。
「嫌な予感がするな」
俺はすぐにドドガの件を片付ける決意をしつつ、地上へと戻った。
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