第28話 付与vs.錬金

 「ボスが本気を出すぞ、全員離れろ!」


 遠くから盗賊の叫び声が聞こえてくる。近くにいたら巻き込まれるような大規模な戦闘をするということだろう。ナッカとリーメル達も敵と戦いながら距離を取っているようだ。


 「街を壊したくないからセーブしてたんだが、このままじゃお前を倒せないみたいなんでな」


 ドドガが地面に手をつくと、辺り一帯の地面が泥のようになった。ネネちゃんのお父さんを地中に飲み込んだのと同じ魔法だろう。


 俺はこの泥に一瞬足を取られてしまった。すぐに空を飛んで脱出しようとするが、地中で何かに掴まれてしまった。ゴーレムの腕か。


 すぐに破壊して脱出しなければ。いやゴーレムはスラムの人だから破壊したらダメなのか。でも腕くらいならいいか。少し考えた末に俺は、ゴーレムの腕を”軟性付与”でドロドロにすることにした。これなら解除すれば元通りだろう。


 しかし俺のこの一瞬の判断の遅れをドドガは見逃さなかった。俺から半径数100メートル先の地面がものすごい速度で山のようにせり上がっていき、はるか上空で折り返すと俺に降り注いできたのだ。なんて速く広範囲の攻撃だ。ほぼ災害だ。


 降り注ぐ土砂の先端は槍のようにとがっている。付与で体を強化すればそのダメージはなくなるだろうが、生き埋めになるのだ問題だな。


 俺は”形状付与”で抗おうとするが、周囲の土はびくともしない。奴の館と同じように、他人の錬成魔法に体勢をもった土に変化させたのか。


 俺の行動が全て後手に回っている。

 周囲はすでに土の壁となっており、上からは土砂の雨。もう逃げ道はない。


 なら攻めるか。


 俺はドドガに接近して攻撃をすることにした。


 「面白い判断だ。俺の近くなら生き埋めにされないと思ったか。だが残念。俺はお前を道連れに生き埋めになる覚悟だ」


 俺ごと生き埋めになり、自分だけ錬金魔法で後から脱出するつもりか。


 周囲の土を俺の”形状付与”に耐性を持つ土に変化させた今、俺には生き埋めから脱出する術がない。ドドガはそう考えているわけか。


 だが俺にはまだドドガに見せていない手札が残っている。それの準備をしながら、今は近接攻撃をしよう。


 「なんだまた懲りずに近接格闘か。今度は両足を潰してやる」


 「もう捕まらねえよ!」


 俺は蹴りを主体で戦う。さきほどの甲冑のような腕で握られたのが、思ったよりもダメージになっていたのだ。


 しかし”ベクトル付与”の補助のおかげで頭に描いた通りの動きができるので、それなりに様になっているはずだ。


 「さっきの空気の攻撃はしないのか。それともできないのか。まあどっちでもいい」


 今は違う魔法の準備をしているため、空気への”形状付与”は縛っている。どうせ”空壁”を撃っても、今度は土の壁とかで防がれるだろうしな。


 「くそ…時間切れか」


 俺は近接攻撃でそれなりにドドガを翻弄したが、奴の体を硬化する魔法が想定より強力でほとんどダメージを与えることができず、そのまま二人とも降ってきた土砂に飲み込まれてしまった。


 ドドガが魔法で土を変形させて自分だけ地上に出たのが聞こえる。


 「ふー。念のために丸1日は固めたままにしておくか。俺にここまでさせるとは大した奴だったよ、お前は」


 やはり”形状付与”で土は変形できない。建物の土は頑張れば変形できそうだったが、この攻撃の土はかなり強い魔力を込めているようでビクともしない。”身体能力強化”をしてもこの土を動かすことはできない。


 ドドガが背を向けて離れていく気配がする。サフランたちを片付けるつもりか。俺への警戒が薄れたな。


 俺はこの瞬間に、先ほど近接格闘をしながら座標の設定をしていた”座標付与”を発動した。位置は現在位置から上に20メートル。この技はまだドドガは知らないため、反応できないはずだ。


 地上に脱出した俺はそのまま足裏に”弾性付与”をすると、固めた空気を蹴って跳躍してドドガに襲い掛かる。


 「な!?貴様…」


 反応が遅れたドドガの首に俺の回し蹴りがクリーンヒットした。ドドガが数メートル吹っ飛ぶ。


 「ゲホゲホ。どうやって脱出した。それにこのダメージは…」


 「お前が首を硬化した直後に、俺の魔法で脆くさせてもらった。これでお前のガードは意味をなさない。勝負ありだな」


 ”脆性付与”は物体を脆くする魔法で人体に使ったことはなかったのだが、ドドガが自分の体を硬い石のように変化させているなら効果があると思ったのだ。


 ドドガは首の衝撃で脳も揺れているのか、フラフラと立ち上がった。そして吐いた。


 「これほどの強さ…一体何者なんだお前は」


 「革命軍の総司令、フールだ。お前がゴーレムにした人を解放してもらうぞ、今すぐに」


 俺は脅しのために”空壁”を構えると、ドドガに迫る。回復を図るために時間を稼ぐようならすぐに追撃するためだ。


 だがここで想定外のことが起きた。


 「いや、まだ天は俺を見放してないらしい」


 「…?っ痛!」


 突然肩に激痛が走った。探知からして、上からものすごい速さで何かが落ちてきた。ドドガが時間差攻撃を仕掛けていたのか。


 肩に触れると手には赤くドロっとしたものがベチャッとついていた。


 これは俺の血…ではない。トマトだ。なんで。


 上を見るとトマト以外にもいろんなものが空から降ってきていた。空を埋め尽くすほどのそれは無差別に地上に着弾し、地面を抉っている。


 再び遠くから盗賊たちの叫びが聞こえてくる。


 「ドドガさん!”恵みの雨”だ!早くドームを展開してください!」


 ”恵みの雨”。スラムに降り注ぐゴミの雨か。とんでもないタイミングで降ってきやがった。


 当たったのがまだトマトで幸いだった。いや、トマトも当たり所が悪かったり、”魔装付与”を解いたりしていたら即死だった可能性もある。さらにいろんなゴミが空から降ってくる。


 俺はすぐに自分の身を守るためにドドガを脅迫する用の”空壁”を傘代わりにした。


 この隙をドドガは見逃さなかった。


 「じゃあなフール。次はぶち殺してやるぜ!俺の秘密兵器でな!」


 「しまった!」


 自分の足元から土柱を錬成して自分を射出し、この場から脱出してしまった。ゴミの雨対策で土に包まれながら。


 ここで逃がすのは面倒だ。追わなければ。

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