第2章 闇オークション編

第39話 出発の準備

 ナッカが”選ばれし者”となりドドガと同じような能力を使えるようになったかもしれないと聞いて、俺たち騎士団はアダマンタイトゴーレムの元までやってきた。実際に能力を使っているところを見せてもらうためだ。


 「さあナッカ。今朝のようにやってみてください」


 「う、うん…」


 ナッカがアダマンタイトゴーレムに触れて魔力を流すと、その部分のゴーレムがグニョグニョと変形し人に戻った。どうやらナッカがドドガの能力を使えるようになったというのは本当のことらしい。


 「頭痛が収まってから力が溢れてくる感覚があって、試してみたらできちゃった…」


 「できちゃったってそんな簡単に…」


 リーメルが驚愕している。

 

 「覚醒前に頭痛がしたって点は俺と同じか。じゃあ俺もナッカもドドガが言っていた”選ばれし者”ってことなのかな」


 どうしてナッカがこの力に目覚めたのかは分からないが、せっかく目覚めた力なのだから有効活用してもらおう。彼女がゴーレムを元に戻せるというなら俺がここに残って分離をしなくても問題ないだろう。彼女の力が本当にドドガの錬金魔法なら俺の分離より効率もいいだろうし。


 「それではゴーレムのことは私たちに任せてフール様たちにはオークションに行ってもらいましょう。あとそこで”選ばれし者”についても調べてみてください。ドドガの幹部なら何か知ってるかもしれませんし」


 「やることいっぱい。本当に私たち3人だけで行くの?」


 リーメルが不満を漏らしたが、サフランはメンバーの増員をするつもりはないようだ。目の前のゴーレム化したスラムの住民を助けることの方を重要視しているらしい。


 「じゃあ仕方ない。ガーネットもそれでいい?」


 「う、うん。頑張るよ」


 ということで俺、リーメル、ガーネットの3人でドドガの闇オークションに行くことが確定した。目的は、1つ目が商品となっているであろう奴隷の解放、2つ目がガーネットの素性の調査、3つ目が選ばれし者についての調査だ。


 「あと4つ目は宝物を奪ってくることね」


 「いいのか、そんなことして…」


 ナッカが悪い顔をして提案をしてきた。闇オークションってことは出品される宝物の中には盗品も多くあるだろうし、俺はこの提案に反対気味だ。


 しかし他のメンバーはそうでもないようだ。


 「仕方ないですよ。革命軍の活動にもお金がかかりますからね。持ち主が明確なもの以外は貰ってしまいましょう」


 「キレイごとだけじゃ運営できない」


 他の騎士団員もサフラン達に賛成のようだ。革命軍のメンバーの能力向上のためにリーメルが貴族の家などから魔法に関する本を盗んできて、それで勉強をしているという話も聞いたし、盗みなんて今さらなのだろう。


 そもそも国に楯突く革命軍なんて武装組織を作っている時点で犯罪だしな。


 「じゃあバンバン盗んでくるよ。そういえばここにあるドドガの隠し部屋の中にも宝物があったから、それも回収しちゃおう」


 荷車とそれを運ぶ人員を用意してゴーレムから元に戻した人をアジトに運ぶため予定らしいので、そのついでに宝物もアジトに持って行ってしまおう。


 「宝物は私たちが運び出しておきますから、フール様は旅の資金の分をマジックポーチに入れてもう出発していいですよ。これが書類の山の中にあったオークション会場への入場パスです。ウエストタウンという港町が開催地となっていたので、そこまでの地図も書いておきました」


 「分かった。じゃあ俺たちはもう出発することにするよ」


 サフランが1枚のチケットのようなものと1枚の地図を渡してくれた。


 ナッカがゴーレムにされた人を元に戻せることも確信でき、ここでの俺の役目はもうなさそうなので、早速出発することにする。


 ナッカたちがゴーレムの解除と運搬作業を始めると、俺たちオークション組はドドガの隠し部屋に再び戻ってきた。ここの宝物の山から旅の資金を調達するためだ。


 「換金は面倒だから硬貨にしておいた方がいい」


 「よーし、じゃんじゃん入れてこう」


 リーメルにそう言われて俺はマジックポーチに硬貨を詰めていく。リーメルとガーネットは宝物の山から硬貨の類を探して集めてきてくれている。

 

 そんなときガーネットがとあるものを目にしてしまった。入り口部分が熱で溶けた檻。ガーネットが閉じ込められていたと思われる檻だ。


 切なげな表情で檻を見るガーネットに俺とリーメルは寄り添った。


 「ここにたぶんガーネットが閉じ込められてた。何か思い出せる?」


 リーメルの問いにガーネットはゆっくりと答える。


 「分からない。でもこれが自分の魔法がやったってのは感覚で分かるよ」


 依然記憶が戻らない自分に失望しているように思える。


 「まあ記憶は徐々に取り戻していけばいいさ。俺がケアしてれば暴走する心配もないし」


 「うん、そうだね」


 そのときガーネットが牢屋の中に何か落ちているのにハッと気づき、それを拾った。所々が焦げた黒い布切れが2枚落ちていた。


 「リボン?」


 リーメルがガーネットの横に歩み寄って聞いた。


 「私のリボンだ。たしか髪を留めるのに使ってた…気がする」


 リーメルはガーネットの手からリボンを取ると、それでガーネットの髪を結んであげた。2本のリボンを使いツインテールにしてあげるようだ。


 「ありがとう。そうえいば前もこういう髪型だったよ」


 「また1つ思い出せたね」


 「じゃあそろそろ行こうか」


 ガーネットの髪を整えたところで俺は出発の指示を出した。俺たちは地上で作業中のサフラン達に「行ってくる」と声をかけてから、走って北へと向かう。闘気を纏えないガーネットは俺の付与で身体能力を強化してある。


 ドドガと関わるガーネットの記憶が戻れば、”選ばれし者”についての情報が分かるかもしれない。”選ばれし者”の力は俺やドドガの能力からして破格の性能を誇り、この世界で活動する上でも、俺たちクラスメイトが元の世界に帰る上でも必ず必要になる力な気がする。


 是非ともこの力についても解明したいものだ。


 

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