第13話『そして日常へ』


 帝国三騎士を倒した後。

 帝国は驚くほどあっさり降伏してきた。


 帝国にとって帝国三騎士は大きな柱。

 その中でもエクスはその存在そのものが帝国と言ってさしつかえない存在だったらしく。


 三騎士を失った帝国の軍隊は指揮系統も崩れバラバラ。

 血気盛んな兵士は『エクス様万歳!!』と言って勝手に自決して。

 生き残った兵士達はやる気なしという状態で、もはや国として散々な状態になったみたいだ。



 それとついでに。

 クロウシェット国と戦争状態だった帝国はジェイドル国にも喧嘩を売っていたらしいね。


 クロウシェット国には魔物の侵攻を防ぐ聖女が居る。

 だから帝国はクロウシェット国攻めに使えない魔物を全部ジェイドル国を攻める為の戦力として吐き出していたみたいだ。


 もっとも、その侵攻をジェイドル国は跳ねのけ。

 逆に帝国が差し向けて来た魔物の何割かをジェイドル国は支配してみせて、それに帝国を攻めさせたらしい。


 どうやら俺がクランク兄さんに渡した魔物を操れるアーティファクトが役立ったらしい。

 

 そんなボロボロの状態の帝国が降伏してきて。

 今はクロウシェット国とジェイドル国で帝国の領土をどう分けようかとか話し合ってるのだとか。


 そのままクロウシェット国とジェイドル国で領土を巡って戦争になるのかなとも思ったが、リルが言うには平和的な条約が結ばれそうとの事だ。

 良かった良かった。


 さて。

 ここまでは国の話で、俺個人とはあんまり関係ない。


 俺が現在、どうしているかと言えば。


「ビャクヤ。アンタをインペリアルガードへと任命するわ」


「嫌です」


「ビャクヤ。王様からのお達しだ。お前をロイヤルガードへと任命する」


「辞退します」



 帝国三騎士との戦いを終えた後。

 俺はクロウシェット国の片田舎でティナと一緒にのんびりと暮らしていた。


 そこにやって来るのがリルとクランク兄さんだ。

 二人は何度もこの家に無断で入ってこの手の勧誘をしてきている。


 いや、別に来ること自体は拒ばないけどさ。

 でも騎士団とか護衛団とか。そんなのに俺はなる気はないんだよね。

 俺は二人の提案をいつものようにバッサリ断る。



「なんで断るのよ! ねぇビャクヤ。アンタの力を私に貸しなさいっ。アンタの力が必要なのっ!」


「いや……どう考えても要らないでしょ。クロウシェット国もジェイドル国も平和そのものだし。それに俺、リルからもらった財産でもう働かなくていいくらいの金持ってるし」


「そーだそーだ! クロウシェット国なんざにビャクヤをやれるかっ! ビャクヤはロイヤルガードで俺と兄弟仲良く過ごすんだよっ!」


「過ごさないよ?」



 なぜか俺をインペリアルガードだかロイヤルガードだかに勧誘してくるリルとクランク兄さん。

 これが何度目の勧誘か。十回目以降は数えていない。



「ねーご主人様。リルカがこう言ってるならインペリアルガードやらない? ご主人様なら余裕で任務こなせると思うよ。………………ご主人様の耐久力だと事故で死んじゃうかもだけど」



「おーいティナさん? 最後の不穏な一言はなんですか?」


「………………えへ♪」


「笑ってごまかすな」



 リルにべったりなティナ。

 そんな彼女としては俺にリルの要望を聞いて欲しいらしい。



「そうよ。ティナの言う通り! さぁ来なさいビャクヤ。アンタの生きるべき場所は私が決めてあげるわっ」


「いや、俺の生きるべき場所はこの家かな?」


「ビャクヤッ! 頼む。ジェイドル国に来てロイヤルガードに入ってくれっ! そうして……俺の給料と地位を上げる手伝いをしてくれっ!!」


「すがすがしいほどにクズいねクランク兄さん。もちろん断ります」



 そういえばこのクランク兄さん。少し前に結婚したらしい。

 相手はギルド長の補佐役になったというソニアさん。

 ギルドの受付嬢だったソニアさんだ。


 前に二人を見た時にいい雰囲気だなぁと思っていたんだけど、ようやくくっついたらしい。

 おめでとう。爆発してしまえ。



「ねぇリルカ。そんな言い方じゃご主人様には伝わらないよ? ちゃんと言わなきゃ。少しでもご主人様と一緒に過ごした――」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。ティナったら髪が乱れてるじゃないっ! ちょっとこっち来なさい! 整えてあげるからぁぁっ!!」



「んぐっ。ふごご……」



 髪を整えると言ってるのに、なぜかティナの口を押さえながら俺から離れるリル。

 最近よくある光景だが……アレなんの儀式?



「お前……まだ進展ないのかよ……」


「進展? 何の話?」


「いや、こういうのは俺が言うべき事じゃねえし……。というかお前はリルカの事をどう思ってるんだ? なかなか会えなくて寂しいとか思わないのか?」


「そういうのはないかな」


「マジか……まさかの脈なしとは。想定外だわ」


「だってリルって毎日この家尋ねて来てるんだもん。それでどうやって寂しいと思えと?」


「あぁ、そっちか……。それで進展がないのもすげえな……」


「だから進展ってどゆこと?」


「自分で気づけ鈍感野郎」


「???」



 なぜかジト目で俺の事をにらむクランク兄さん。

 クランク兄さんが何を言いたいのか、俺にはよく分からなかった。


 そこで髪を整え終わったのか。

 リルとティナが戻って来た。


 ただ、ティナの髪がさらに乱れているような気がするのは気のせいだろうか?

 まぁ女性の髪をとやかく言うのもどうかと思うので黙っておこう。


「はぁっはぁっ。か、勘違いしないでよねビャクヤッ! 私はアンタの力が欲しいだけなんだからっ! アンタの傍にもうちょっと居れたらなーとか。そんな事は微塵も思ってないんだからねっ!」


「いや、別に勘違いしてないし。リルがそんな事を思う感じの乙女な訳がないってのは知ってるけど?」


「なんですってぇ!?」



「なんでそこでキレるの!?」



 勘違いするなよって言われて勘違いなんかしてないよって返したのにリルが顔を真っ赤にしてその手で雷をバチバチと鳴らしていた。

 超怖い。



「ティティティティナッ!! 逃げるぞっ!」


「ご主人様……。いや、もちろん従うけどね。でも、マスターとは別の意味で地獄に落ちた方がいいかも……」


「なんでそんなに辛辣しんらつ!?」


「こっちの話。それじゃリルカ。ご主人様への折檻せっかんは私に追い付いたらにしてね」


 そうしてティナは俺を背に乗せて我が家の玄関を開け。



「待ちなさいよゴラァッ!!」



 その後ろからリルが追いかけて来る。


 そんな光景をクランク兄さんは呑気に眺めていて。



「こりゃ……色々と長引きそうだな」



 なんてよく分からない事を言っていた。

 その意味を聞きたい気もするが、今はそんな事をしている場合でもなく。



「ビャクヤァッ! ちょっと待ちなさいっ。その愉快な脳みそに電気通してやるわっ。そうしたら考えも変わるでしょうよっ!」


「ひぃぃぃぃぃぃっ。ヤバイ。今度こそ殺されるっ!? ティナァァァッ」


「はいはい。はぁ……」



 そうして今日も俺とリルは。

 何度目になるか分からない追いかけっこを開始したのだった――

 



 Fin


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チートスキル『TPSプレイヤー』に目覚め無自覚無双~魔術も使えない最弱無能の貴族三男だけど、TPS武器でヘッドショット無双する~ @smallwolf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ