第8話『氷の棺桶』
「私の世界?」
「そうだ。ここは氷の
「逃げる事は出来ないって……」
「ご主人様。魔人の中には自分が優位となるよう周囲の環境を構築してしまうのも居るの。これがきっとそれ。もっとも、それは魔人にとっても簡単な事じゃないけど。長時間その魔術を使う事はできないし、使っている間は他の魔術なんて使えない」
うん。それだけ聞くとあまり使い勝手は良くなさそうだ。
そう思う俺をよそに、ティナの説明は続く。
「この魔術を使った魔人にとって、周囲の環境はその魔人の武器そのものとなる。この氷の世界。多分レゾニアはこの世界にある氷を自由自在に操ることが出来る。そして私たちはここから決して逃げられない。この環境改変魔術が解除されるまで、決して私たちはこの空間から逃げられないの」
「なんだそれ。なんでもありじゃねえか」
言われてみれば。
いつの間にか俺やティナ、そしてレゾニアを囲むように氷の壁が展開されていた。
あれがこの空間の壁なのだろう。
そして、あの壁は壊す事が出来ないと。
だからレゾニアが圧倒的優位となるこの空間で戦うしかないと。
つまりはそういう事らしい。
もはや呆れるしかねえな。
だからこそ、ティナはあんなに焦ってたって訳か。
「随分と詳しいではないか。やはり貴様、エクス卿の言う通り古代を生きた者なのか?」
「答える義務はない」
「それもそうだ。ならば貴様らを捕らえてからゆっくり聞くとしよう」
そうしてレゾニアが指を鳴らす。
瞬間。
俺達の足元の氷が俺達を呑み込むべく迫って来た!?
「ちょっ。いや、これ無理っ」
「ご主人様……短期決戦。後は……任せるっ」
「は? なにを……うおっ!?」
ぶおんっと。
ティナが俺の身体を強引に投げ飛ばす。
「ふん。逃れたか。だが、いつまで逃げられるかな? そもそも、この低温の中で貴様らはどれだけ動ける?」
投げ飛ばされ、迫る氷から逃れる俺。
俺を投げ飛ばすと同時に光を
そんな俺達をレゾニアは視線で追う。
奴の言う通り、こうしてレゾニアの攻撃を避け続けていてもこの氷の世界では先にこっちの動きが鈍ってお陀仏か。
動きが鈍るのはレゾニア本人にも言えそうな事だが、あっちは寒いのとか耐性ありそうだしな。
そもそも、レゾニアはこの氷の世界の中の氷を自由自在に詠唱もなしで操れるらしいし。
そのうえでこっちの動き
だからこそ、ティナも『短期決戦』と口にしたのだろう。
そして『後は任せる』というあの言葉。
なら――
「喰らえぇぇっ!!」
俺はスモークグレネードを取り出し、レゾニアに向けて投げる。
それをレゾニアは事もなげに氷の壁を出現させて弾くが、問題ない。
シュゥゥッ――
「む? これは……煙か。なるほど。私の視界を
その通り。
この閉じた世界でなら、スモークグレネードは短い時間で全員の視界を封じられる。
おそらくレゾニアは視覚に頼って攻撃している。
でなければさっき。俺達の動きを目で追ったりしなかっただろう。
ならばその視界を封じれば、あの
それに――
「それで? これでどうする? 私の魔力が尽きて魔術が解除されるのが先か、貴様らがこの環境で凍り付くのが先か。そんな我慢比べがしたい訳でもあるまい?」
そう。時間はレゾニアの味方だ。
だからこそ、この状況下で奴は積極的に動かないだろう。
おそらくそうなるだろうと。
読んでいた。
「行けっ! ティナっ!」
「了解っ!!」
そう言いながら俺は。
サーマル武器を取り出した。
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