第16話『貧弱なのに強い存在(リル視点)』
――リル視点
「
ビャクヤ・アスカルト。
今はアスカルト家から勘当されているからアスカルトではなくただのビャクヤか、
ともかく、そのビャクヤは私達の前に現れる魔物達を一瞬にして始末していった。
ズガァンッ――
ズガァンッ――
ズガァンッ――
「――ったく。本当はこんな迷路とか不利でしかないんだけどなぁ。ショットガンも音が響くからあんまり多用したくないんだが……魔物の断末魔がうるさすぎてサイレンサー付きの武器を使う意味がないし(ぶつぶつ)」
何かよく分からない文句をたれながらも魔物を駆逐していくビャクヤ。
その顔に疲労の色はなく、その手に持つショットガンとやらも延々と猛威を振るい続けている。
彼が事前に言っていたように、連続で何度か使うと溜めのような時間が必要みたいだけど、それも彼がショットガンをガチャガチャと数秒弄るだけで終わる。
「本当に……こんなの出鱈目だわ」
これまでの魔物との戦闘、私は一度だって手を出していない。
私が詠唱や魔法陣を
おかげで今のところ私は彼の後ろをついて歩くだけになってしまっている。
「本当になんなのあの術は? 詠唱破棄みたいな激レアスキルかとも思ったけど魔術じゃないみたいだし。そもそも魔力の動きが欠片もない。目にも見えないヘンテコな塊を撃ちだしているのは分かったけど――」
魔法陣も要らず、陣を敷く必要もなければ魔力だって必要ない。
加えていくらでも発動可能な術など、インチキを通り越して呆れるしかない。
「それに……異常に勘が鋭いわ」
何度か魔物の襲撃を受けた私たちだったが、ビャクヤは不意打ちによる一撃を未だに一度も喰らっていない。
上からだろうが背後からだろうが関係ない。
死角を完全に突いた魔物の攻撃に対してもビャクヤはきっちり対応しているのだ。
それもスキル『TPSプレイヤー』によるものだということに。
自身の姿を第三者目線で眺めることが出来るという能力。
それにより、ビャクヤの目には背後からの攻撃だろうがなんだろうが見えているのだ。
圧倒的な無双状態。
しかし、問題が無いわけではなかった。
「けれど……本人のステータスは貧弱という他にないのよね」
ビャクヤには言っていないが、私は一つの魔術を常時展開させていた。
魔術『ライブラリアイ』。
それは瞳に魔力を集中させることで対象のステータスを見ることが出来るというものだった。
スキルや特殊技能といったものは見えないが、その個人が持つ身体能力や魔力量、残りHPなどを測れる非常に使える魔術だ。
これによって私は最初にビャクヤが倒した魔物『クロウウルフ』のHPが尽きている事を知ることが出来たのだ。
なので私の目にはビャクヤのステータスが見えている。
それによるとビャクヤのステータスは……。
HP→ごみのような数値。
魔力→ゼロ。
身体能力→目を背けたくなるような数値。
それはまさに最弱と言っても過言ではないステータス。
無能と言われても仕方ないと思えるステータス数値だった。
「C級の魔物の一撃を喰らっただけで死んじゃいそうなHP。なんて貧弱なの……」
冒険者としてやっていくにはあまりにも厳しすぎるステータス。
だというのに。
「だけど……恐ろしく強い」
ステータスはごみのようなものなのに、ビャクヤはC級の魔物はおろかB級の魔物すら瞬殺している。
本人はその区別すらついていないのか、B級の魔物を目の前にしようが動じていないのだが、それは凄まじい戦果だ。
「でも、これなら――」
クリスタルの採取。
特Sクラスの冒険者でも忌避するような依頼。
もちろん、クリスタルの採取依頼を受ける特Sクラス冒険者も居る。
しかし、そういう者達は人気過ぎて予約は数年先まで埋まっているのだ。
それを悠長に待てるだけの時間など私には……いや、私たちにはもうなかった。
「だけど……」
それでも諦められないから。
私は難易度も低く、マッピングもほぼ終わっているというストールの街のダンジョンでならばと期待を込めたのだ。
けれど、一人でのダンジョン探索は危険すぎる。
だから無理は承知の上でギルドに依頼を出したのだが、依頼の受理すらされなかった。
そこに現れたのがあいつ。ビャクヤだ。
何も知らない少年。貴族の家から追放されて右も左も分からない様子のビャクヤ。
軽く聞いた『無能』という噂が本当なら誘うつもりもなかったのだけど、あいつがA級冒険者のアレンを倒したという話を聞いて気が変わった。
クリスタルの採取という危険極まりない依頼を受けてくれるかもしれないくらい世間知らずで。
そしてA級冒険者を倒せる実力を秘めているかもしれない。
そんな冒険者など、他に居る訳がない。
だから彼に直接依頼し、こうしてダンジョン探索に同行してもらったわけだ。
結果は上々。
私が期待していた以上の実力をビャクヤはこのダンジョンで発揮してくれている。
私の見立てでは彼の実力は最低でもAクラス冒険者相当。
特Sクラス相当という事も十分にあり得る。
いや、もしまだ見せていない力があるのだとしたらそれ以上という可能性も――
「……それはないか」
とにかく、希望は繋がった。
こいつと一緒ならば絶望的だと思っていたクリスタルの採取も上手くいくかもしれない。
現状、唯一注意すべきなのはビャクヤのHPの低さだ。
今は大丈夫だが、もしこいつが不意の一撃を喰らおうものなら即死してしまうだろう。
C,B級の魔物による一撃でも危うい。A級の魔物の一撃なんて喰らおうものなら即死は確実だ。
だからこそ私はビャクヤにもしもの事がないよう、魔力を温存したまま彼の後を着いていく。
私が動くべき時。
それはビャクヤの身に危険が迫った時だ。
そう意気込みながら私は周囲の警戒を絶やさない。
しかし、幸いというべきか。
ビャクヤはどんな不意打ちにも難なく対応して見せ、危ない状況と言うのが一向に訪れなかった。
おかげでビャクヤばかりが活躍し、私は終始彼の後を着いていくだけ。
そうして、そのまま私たちは第三階層へと辿り着いたのだった――
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