第50話『明かされる衝撃の真実(ビャクヤにとってのみ)』


 なにがどうなって冒険者ギルドの長が連行されるなんて事になったのか。


 その事について、ソニアさんは俺たちが居ない間の出来事を語ってくれた。


 それによると――


「つまり――ソニアさんはアレンさんに脅されていて、仕方なくギルド長達の言いなりになっていた……と?」


「はい……本当に申し訳ありませんでした」



 ソニアさんは俺達が知らなかった事を色々と教えてくれた。


 ギルド長とアレンさんがアスカルト家の誰かに依頼され俺を殺害しようとしていた事。


 俺が受けた冒険者試験は俺を弄びながら殺す為の処刑場のつもりでギルド長とアレンさんが用意した舞台だったという事。


 それが失敗し、けれど俺が冒険者になる事を良しとしなかったアレンさん。


 彼がギルド長を脅したからこそ、本来試験に合格していた俺は無理やり不合格にされたのだという事。


 そして、そのアレンさんとアスカルト家の次期後継者であるルイス・アスカルトがルヴィナス盗賊団のボスになっており、俺の命を狙っていた事。


 その全てを話し、謝罪するソニアさん。

 


 だが。



「そ、そんな……馬鹿な事が……」



 俺はそんな謝罪に対応できなくなるくらい動揺していた。


 信じたくない。


 あのクソギルド長の事はともかく、まさかアレンさんが俺を貶めようとしていただなんて……。


 忙しい中、俺の冒険者試験に付き合ってくれていたアレンさん。


 無能と呼ばれていた俺を見下しもせずに握手してくれたアレンさん。


 俺に冒険者の心構えを教えてくれたアレンさん。




 そんなアレンさんが最初から俺の事を殺そうとしていただなんて……にわかには信じられない。



「えっと……ビャクヤさん? どうかしたんですか? 顔色がすごく悪いですけど……」


「だな。大丈夫かビャクヤ?」


「ごしゅじんきぶんわるい? かいふくさせる?」


「あー、大丈夫よみんな。こいつ、勝手に勘違いして勝手にダメージ受けてるだけだから。ホント、アンタの目って節穴よねー」



 そう言ってコンコンっと俺の頭をドアノックよろしく叩くリル。

 

 いや、こっちはショックを受けているんだから少しくらいなぐさめてくれてもいいのでは?



 その後。

 俺がショックから立ち直るまで数十分が経過し――



「わ、悪い。ちょっと……いや、かなり予想外だったんで驚いた。

 まさかみんなが言ってた悪名高いAランク冒険者のアレンと俺の知ってるアレンさんが同一人物だったなんて……」


「いや、私やソニアは最初っからそう言ってたわよね? 頑なに信じなかったのアンタよね?」



 ジト目で睨んでくるリル。

 俺はそれから逃れるようにして、話を続ける。



「しかし……あのアレンさんとクソ兄貴がルヴィナス盗賊団のボスだったなんてな。

 それで? その二人はどこに?

 ……あ、そだ。報告ですソニアさん。今さっきルヴィナス盗賊団の前線基地は潰してきました」



 ついでのようにルヴィナス盗賊団撃退の報告をする俺。


 しかし、そんな事はソニアさんはとっくに知っていたらしく。



「ええ、もう既に聞いていますよ。アレン冒険者とルイス・アスカルト。その両名がルヴィナス盗賊団を率いていたというのは逃げて来た盗賊団員から入手した情報ですしね」


 そこでソニアさんはため息をつき。


「なんでも突然奇襲を仕掛けられ、敵がどこに居るかも分からないままルヴィナス盗賊団は敗走したとか……。

 それを聞いて『あ、ビャクヤさんだな』と確信しましたよ。

 ――まぁ、その報告が入ったおかげでギルド長を追い詰めるなら今しかないと私も行動を起こした訳ですが」



 なぜか疲れたような顔で語るソニアさん。


 ふむ。


「よく俺がやったって分かりま――いたぁっ!?」


「馬鹿でしょアンタ。この街に、いや、この国でそんな事が出来そうなのがアンタしか居ないからでしょうが。

 ったく……そろそろ自分がどれくらい規格外なのか自覚しなさいよね」



 リルの理不尽な暴力が俺を襲う。


 いやいや。何を言ってるんですかリルさん。


 俺の戦い方がちょっとばかり特殊だというのは認めますけど規格外はさすがに言い過ぎでしょ。



 そんな俺達の様子を見たクランク兄さんは一言。



「なんというか……お前ら仲いいな。付き合ってんの?」


「ふんっ!!」



 ――ボキィッ!!



「あぎゃぁっ!!」



 なんだろう。


 今、聞こえてはならない音がクランク兄さんの足から聞こえた気がする。


 ちなみに、渾身のローキックを放ったソニアさんはゴミを見るような目でクランク兄さんを見ていた。怖い。


「は、はぁ!? 何言ってんのバッカじゃないの!? アタシが!? この馬鹿と!? 冗談も大概にしてよね!? 死ねっ。ホント死ねぇっ!!」



「いや、ちょっ。嬢ちゃん今はマジでまっ。アーーーーーー」



 そうして倒れて悶絶しているクランク兄さんに追い打ちをかけるリル。


 情け容赦なく倒れているクランク兄さんに殴る蹴るとやりたい放題だ。


 正直、クランク兄さんが哀れでしかない。


 なお、俺の繊細なハートもリルの心ない発言によって傷つけられた事をここに記しておこう。


「んゆ? ごしゅじんさまないてる? どっかいたい?」


「強いて言うなら心が痛いかなー」


 ご主人様の心配をしてくれるティナにそう返し、俺は悶えるクランク兄さんと攻めるリルを眺める。


 クランク兄さんと親しい様子だったソニアさんは「本当に……昔からデリカシーっていうものが欠けているんですから」とぞっとするような視線をクランク兄さんへと向けていた。


 本当に、二人の間に一体何があったのだろうか?


 少し気になるが……いや、やめよう。


 今のソニアさんに話しかけるのなんか怖いしな。



 その後、ぜぇぜぇと息を荒げながらクランク兄さんへの暴行をやめたリル。


 彼女は身をひるがえし。



「ったく。付き合ってらんないわっ!

 ほら、行くわよビャクヤ。もう腹はくくったでしょ?

 前に話した通り、アンタに手伝って欲しい事があるの。だから一緒に来てもらうわよ!」


「へ? あ、はい」


 リルの言う前に話した事というのは彼女の故郷で何かしらの仕事を手伝って欲しいというアレの事だろう。


 しかし、俺はまだリルの故郷に行くだなんて一言も言っていなかったはずだが……。


 いや、それは些細ささいな問題か。


 口には出していなかったものの、俺も心の中では行くと決めていたしな。


 なにより、今のリルには逆らっちゃいけない。


 理由は説明できないが、なんとなくそんな気がしたのだ。


 なので……俺は大人しくリルの後を追うのだった――

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