第49話『断罪劇のラストに立ち会ってみた』


 ――ストールの街の冒険者ギルド



「放せっ!! 貴様らこの私を誰だと思っている!? クソ、離せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


「………………ナニコレ?」



 ルヴィナス盗賊団を始末し、ストールの街の冒険者ギルドへと辿り着いた俺、リル、ティナの三人。


 そんな俺達が目にしたのは衛兵さんにずるずるとどこかに引きずられていくおっさんことギルド長の姿だった。



「ソニア、クランクッ!! 貴様らぁ……このままではすまさんぞっ! あの小僧もろともいつか地獄に叩き落としてやるっ!!」


「やってみてください。私は……私はもう屈しませんっ!

 一度はあなた達が怖くて震えてしまい、ダメだと分かっていたのに言いなりになってしまいました。

 だけど……いえ、だからこそ……もう屈しませんっ!! 私は自分がやらなきゃいけない事を思い出したんですからっ!」


「だ、そうだぜおっさん?

 つか、負け犬の遠吠え過ぎんだろ。散々あくどい事をやらかしといてよぉ。いざそれがバレたら八つ当たりかよ。見苦しすぎるぜ。ぶっははははははははーー」


「貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 ギルド長はそんな怨嗟えんさの雄たけびを上げながら、しかし衛兵に押さえ込まれて成すすべもなくそのままギルドから叩きだされる。


 そうして、どこかへと引きずられていった。



 ……うん……なるほど。


 全く状況が掴めん。



「えーーーーっと? これは……一体どういう状況なんです?」


「さぁ? でも、状況から察するにあのクズギルド長は今までに裏で色々とやらかしてたんじゃない?

 そして私たちの居ない間に断罪劇が始まっていた……と。多分だけどそんな所でしょ」



 目の前で展開されていた光景から現状をある程度把握し、そう推理するリル。


 ティナはそんなリルの話を聞いて「おー、だんざいげきー」と断罪劇が何を意味するか分かっていなさそうな顔でぱちぱちと手を鳴らしていた。



「ギルド長が色々とやらかしてた……か。そういえばあのギルド長、ギルド内での評判もあまり良くなかったみたいだしなぁ。真面目な職員さんにも嫌われてたみたいだし」


 ルヴィナス盗賊団襲撃の報を聞いた時、同時に真面目そうな男性職員がギルド長を嫌っているとも聞いたからな。


 実際、俺が見たギルド長も上っ面だけ真面目で裏では自分の利益の事しか考えていなさそうなクズ野郎だった。


 ならこの結末は訪れるべくして訪れたって感じだな。



「あ、ビャクヤさん」


 と、そこで今しがたギルド長を断罪していたソニアさんが俺の事に気付く。


 彼女はなぜか俺を「ビャクヤさん」と呼び。



「この間は本当に申し訳ありませんでしたっ!!」



 なぜか俺に頭を下げてきた。


 え? なんで?



「いや、あの……ソニアさん? すみません、ちょっと話が見えないんですけど……」


「そうだぜソニア。ビャクヤが思いっきり戸惑ってるだろうが」




 ソニアさんと一緒にギルド長を断罪していた男が遅れて駆け寄ってきてソニアさんの頭を軽くはたいた。


 俺はその二人を見ながら。


「しかし……こんな所で何やってんのさクランク兄さん?」


 ギルドに入り、クランク兄さんを見た時からずっと抱いていた疑問を口にした。


「兄さん!?」


 俺の言葉に思いっきり反応するリル。


 ああ、そうか。


 そりゃいきなり元貴族(俺)の兄貴が出てきたら驚くか。


「そうだよ。この人はクランク・アスカルト。アスカルト家の次男であり俺の二つ上の兄貴だ」


「初めましてお嬢さんがた。俺はクランク・アスカルト。気安くクランクって呼んでく……れ?」


「クランク兄さん?」


 どうしたのだろう?


 挨拶を済ませようとしたクランク兄さんだが、なぜか途中で様子がおかしくなった。


 なんだか信じられない物でも見たような顔をしている。



 その視線の先に居るのは……リル?



「何よ。そんなジロジロと見ないでくれる? ビャクヤのお兄さんか何か知らないけど随分失礼な態度じゃない」



 そんなクランク兄さんの視線を感じたのだろう。


 リルは不快げに顔を歪ませながらクランク兄さんを睨めつける。



「あ、ああ。悪いな。随分と可愛いお嬢さんだったんでつい目が奪われて……ちょっ、おいソニアやめろっ。足をガシガシ踏むなっての痛いからっ!!」



 ナチュラルにリルを口説こうとするクランク兄さん。


 その様子を見たソニアさんが怒りの形相でこれでもかというくらいゲシゲシとクランク兄さんの足を踏んづけている。


 大人びていると思っていたソニアさんがあそこまで感情を露わにするとは……。


 様子から察するに、クランク兄さんとソニアさんは結構深い仲っぽいな。

 


 しかし、それはそれとしてだ。



「――それで? クランク兄さんはどうしてこんな所に? 確か王都にある貴族学校に通ってたんじゃなかったっけ?」


 そう。


 俺の記憶が正しければクランク兄さんは王都の貴族学校に通っていたはずなのだ。


 それなのに気づけば地元に帰ってきている。



「あん? あー、それはその通りなんだが……ちょいと色々とあってな。呼び戻されたと言うか……派遣されたというか……悪い。詳しくは聞かないでくれるか?」


 言葉を濁し、結局なんで帰って来たのかは明かさないクランク兄さん。


 なにやら訳アリのようだ。


 ならこちらも聞かない方が良いだろう。


「別にいいけど……それじゃここで何があったか教えて貰ってもいい? なんかギルド長が連れていかれてたみたいだけど――」



 そう俺がクランク兄さんに尋ねると。



「その件に関しては私が説明しますね」


「いだぁっ!?」


 クランク兄さんの足を何度も踏みつけからの最期にローキックを放ったソニアさん。


 彼女は後ろで足を抱えて悶絶しているクランク兄さんを無視して、事の経緯を語り始めた。

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