第二章『クロウシェット国動乱編』

第1話『姫君の帰還』



「リルカ様?」


「リルカ様が戻られたぞ!!」


「お帰りなさいませリルカ様っ!」


「ジェイドル国での秘密任務というのは完了したのですか?」


 口々にリルの帰参を祝う兵士達。

 それにリルは「はいっ!」と答え。


「いっぱいいっぱい苦労しちゃいましたけど、なんとか任務を達成することが出来ましたよ!」


 兵士たちが「おぉ~」と感心したような声を上げる。


「それはそうと。クロウシェット国の方は相変わらずですか?」


 そうリルが兵士達に聞くと。

 兵士達は少し暗い顔となり。


「そう……ですね。相変わらず異常な数の魔物が攻めてきます。聖女様の結界に守られていなければ我が国はどうなっていた事か……」


「インペリアルガードの方々の手を何度も煩わせてしまっています。本当に……情けない限りです」


 そう言ってガックリと肩を落とす兵士達。

 そんな兵士の手をリルはそっと取り。


「情けないなんて。そんな事、ないですよっ!」


 そう言った。


「みんな、魔物が国内に入り込まないようにきっと必死になって戦ってくれたんですよね? だからこそ、インペリアルガードが間に合ったんだと思います」


「リルカ様……」


「だから情けないだなんて。そんな事は言わないでください。私が……私たちが。この国を救って見せますからっ!!」


「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」



 歓声を上げる兵士達。

 それを満足げにリルは見つめていた。


 その後、歓声は次第に収まり。



「時に……リルカ様。後ろの二人はどなたですか? インペリアルガードにもそんな方は居ませんでしたよね?」


 リルの後ろに控えていた俺とティナ。

 そんな俺達を幾人かの兵士達が「誰だ?」という目で見ていて。


「この人たちはジェイドル国からわざわざ来てくれた私の協力者なんですっ!」



 リルはそう俺達の事を紹介して。

 


「こちらのビャクヤさんとティナさん。二人とも、すっごい実力の持ち主なんですよ。ね?」



 同意を求めてくるリル。


 なので俺は「ああ、うん」と答えると同時に。


 俺はさっきからずっと言いたかった事をリルに聞く事にした。



「ところで……あなた、どちら様ですか?」




★ ★ ★




「いきなり悪かったわね。私の本当の名前はリル・クロシェットじゃなくてリルカ・トアステン。クロウシェット国でトアステン家の当主をやらせてもらってるわ」



 国境を守るクロウシェット国の兵士たちが詰めていた砦を越え。

 俺・リル・ティナの三人になったところで彼女は自らの素性を明かした。


 あ、リルじゃなくてリルカ様だっけ。


「リルの本当の名前がリルカ様だってのは分かったよ」


「様は別に要らないわよ。後、今まで通りリルでいいわ。友達にもそう呼ばれてるし」


「あ、そう? じゃあリルで」


 今までリルって呼んでたからな。

 そのままでいいっていうならありがたく今まで通りリルと呼ばせてもらおう。


「それでいいわ。で、なによ?」


「さっきの砦での対応についてだよ。アレ、なに? リルってもしかして二重人格なのか?」


「なのか~~?」



 なぜか横から俺の口調を真似るティナ。

 この子の言う事にあまり意味はないのでとりあえず放置しておく。



「砦での対応? 二重人格ってどういう?」



 軽く首をかしげるリル。

 しかしすぐに俺の言いたいことを理解してくれたのか。

 「あぁ、そういう事」と呟き、リルはそのまま話を続けた。



「あんなの単に軽く猫を被ってるだけじゃない。私のこの素の性格のままじゃ敵を作り過ぎちゃうもの。だから愛されキャラを作ってるだけよ」


 事もなげにそう言うリル。

 それを聞いて俺は。


「軽く?」



 そう思いっきり首をひねりながら呟く。

 いや、だって『軽く猫を被ってるだけ』って……。アレはそんな可愛らしいもんじゃなかったですよね?


 もうなんて言えばいいのか。ガッツリと別キャラになってましたよね?


 そんな俺を見てリルは何を思ったのか。

 彼女は「こほん」と小さく咳ばらいをして。



「本当に……私の為にここまで来てくれてありがとうビャクヤさんっ! 私、ビャクヤさんにはとーーっても感謝してるんですよ?」


 俺の手を取ちながら、満面の笑顔でそう言ってきた。


 それを見て俺は……。



「うわ気持ちわるっ!?」


「ちょっと。それどういう意味よ。表出なさいよコラ」



 思わず本心をらしてしまう俺。

 仕方ないでしょ。

 だってあのリルが素直にありがとうだとか素直に言うなんて。

 俺の事をビャクヤさんとか呼ぶなんて。



 そんなの……普通に違和感しかなくて気持ち悪い。

 

「実際、このキャラ通してると便利なのよ。余計な敵を生まなくて済むしね。それに見たでしょ? このキャラの私って結構人気あるのよ。それなのに気持ち悪いって……アンタおかしいんじゃないの?」


「いや、アレは俺がおかしいというよりはこの国の国民性がおかしいと……なんでもありません」


 余計な事を言うとリルがまた怒るからな。

 どう考えてもおかしいのは微塵みじんも似合わない愛されキャラを演じるリルと、あっさり騙されるこの国の人たちだと思うけど。


 でも、俺も成長してるからな。

 空気を読んで今は口に出さないでおいてやろう!



 そうして大人の対応をしたつもりだったのに。

 なぜかリルの機嫌はしばらく悪いままだった。

 せぬ。

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