第11話『指名依頼を受けてみた』
「受けます」
俺はリルちゃんの依頼を受けることにした。
「「切り替え早!?」」
「おぉ、すげぇシンクロだ」
今度は完全に同じように驚くリルちゃんとソニアさん。
その動きがあまりにもシンクロしすぎていて、どうしてそんなに驚くのかと思うよりも先に感心してしまった。
「ち、ちなみにだけどダンジョンには私も同行するわ。これでも腕に覚えはあるの」
「リルちゃんも?」
俺がそう疑問の声を上げるとなぜかリルちゃんもムッとした顔で俺を睨んできて。
「なによリルちゃんって。私、今年で十五なんだけど? もう子供じゃないわ」
などと驚きの真実を告げて来た。
「なん……だと」
この時、俺は人生で一番驚いたかもしれない。
だって、目の前のリルちゃんはどう見ても小学生程度にしか見えなかったのだ。
それなのに……十五歳?
そういえば俺もこの前十五歳になったばかりだし、同い年じゃないか。
なお、アスカルト家で十五歳の誕生日を迎えた俺だったが、特に誕生会なども行われず祝いの言葉も贈られなかった。
なので俺にとって誕生日など印象の薄いイベントでしかない。
そのため、今の今まで自分が何歳なのか失念していたのである。てへぺろ。
「なんでそんなに驚くのよ」
不満げなリルちゃんことリル……さん?
やはりしっくりこないな。心の中では継続してリルちゃんと呼ぶことにしよう。
「いや、その……ごめん。世の中に秘められた神秘を噛みしめてた」
「何の話?」
「世界は可能性で満ちているって話だよ」
全国のロリコン達よ。喜ぶがいい。
ここに世界の神秘がある。
背も胸も。その態度すらも小学生相当にしか見えないリルちゃん。
合法ロリは……実在したんだっ!!
きっと彼女はこのまま身体的に成長することなく年だけを重ねていくのだろう。
だが、それでいい。いや、そうじゃなければ嘘だ。
だってそれこそが世界の選択なのだから。
「頑張ってね。リルちゃ……リルさん」
「ねぇアンタ。ひょっとして心の中で私のことまだちゃん付けしてない?」
「――――――――――――してない」
「何よその
訝し気な目を向けてくるリルちゃん。
おそらく子ども扱いされる事に敏感なのだろう。鋭い。
「リ、リルさんもダンジョンに同行するって話でしたよね? 腕に覚えはあるって言ってましたけどダンジョンに潜った経験でもあるんですか?」
とにかくこの話題を続けるのはマズイと判断して俺は話題を変えてみる。
しかし。
「話を逸らすな」
話を逸らそうとしているのがバレた。
しかし俺も負けぬ。負けられないのだっ!
「ええいしつこーーいっ!! 今は依頼の話を進めようじゃないかリルちゃ……さんっ! 俺はリルさんがダンジョンに同行するの歓迎ですよ? なんて言ったって俺はまだ冒険者にもなれていないひよっこ未満の存在ですからねー。あはははははは」
強引に依頼の話へと俺は話題を戻そうとする。
すると、リルさんはため息を吐いて。
「はぁ……まぁいいわ。こんなことで時間を潰すのも馬鹿らしいしね」
そう言って折れてくれた。
ただ、馬鹿らしいと思うならもっと早く折れろよとも思ったね。
そんな風な事を思いながらリルちゃんを見ていると。
「なによその目は?」
「ふぇ!? い、いや。なんでもないですよ?」
こやつめ。やはり鋭い。
こっちの心でも読んでいるんじゃないかと思ってしまうくらい鋭いな。
「ともかく。私もダンジョンには同行するわ。ただ……あなた、料理は出来るの?」
「料理ですか? やったことないですね」
「でしょうね……」
「ん? 何か問題ありました?」
「いえ、特に問題はないわよ? ないんだけど……あのね? 私もダンジョンに潜ったことはあまりないの。ましてや数日もダンジョンに潜ったことなんて一度もないわ」
「話の流れからそんな気はしてました」
リルちゃんはダンジョンに関してあまり詳しくなさそうだったからな。
その辺りはむしろソニアさんの方が詳しかったくらいだ。
それだけ見てもリルちゃんがあまりダンジョン慣れしていないのは分かる。
けど、それと俺の料理の腕って何か関係あるのか?
「一日二日のダンジョン攻略ならともかく、一週間以上のダンジョン攻略となると持ち込んだ食料だけで済ますなんて事はできないわ。そんなに多くの食料を抱えていたら邪魔だしね」
「荷物持ちとかも雇えば……いや、そうしたらその荷物持ちの食料も増やさないといけないしその人たちを守らないといけないか。無理だな」
TPSでは基本的に守るという行動は出来ない。
チームで動く事はあるけれど、仲間に危機が迫っていても『横からそっちを狙っている奴がいるぞ』など注意を促すことくらいしか出来ないのだ。
なので俺は『誰かを守りながら戦う』という行動がとにかく苦手だ。
後ろに誰かが居るような状況で前から凄い魔術が放たれても、俺に出来るのは避けることだけだからな。守れてない。
「だから持ち込んだ食料に加えてダンジョンで狩った魔物のお肉なんかを使って調理するのが普通らしいわ。……そうよね?」
唐突にギルド受付嬢のソニアさんに確認するリルちゃん。
「へ? あぁ、はい。長期間のダンジョン遠征ではそれが一般的ですね。もちろん、何が食べられるもので何が食べられない物なのか、そういった知識も必要になりますが」
いきなり話題を振られたソニアさんは変な声をあげるも、そう丁寧に教えてくれる。
しかし……なるほど。
つまりはアレだな。
ダンジョン遠征の前に少しはそういう知識も身に着けて料理も出来るようになれと……ようはそう言う事だな!!
などと俺が一人勝手に納得する中、リルちゃんは「それでね」と話を続ける。
「食べられる物に関しては事前に学んでるからその辺りは大丈夫よ。ただ、その料理に関して何だけど……私ってそこまで料理が得意じゃないのよね。もちろん出来るは出来るんだけど味付けとかそういうのは『自分が食べられればいいや』って思ってたから適当で、だから味は保証できなくて」
もじもじとしながらそう言うリルちゃん。
そうして――彼女は言った。
「だからその、あんたが料理出来ないならダンジョン遠征では私のそんな料理で満足してもらうしかないんだけど――それでもいい?」
「最高です」
俺は即答した。
「え?」
目を丸くするリルちゃん。
しまった。返答を間違えた。
女の子の手料理。
仮にそれがゲロマズ料理だろうが軽く温めたものだったとしてもそれは男としては最高のご褒美でしょうがっ!!
そんな想いが先行して思わず「最高です」だなんて答えてしまった。
なので俺は気を取り直して――
「最強です」
「えっと? え?」
あかん。また間違えた。
今度は女の子の手料理って最強だよねという想いが先行してしまった。
「すみません。ちょっと言い間違えました。リルさんの手料理の味が少し問題かもしれなくて、遠征中はそれになっちゃうけど構わないかって話ですよね? もちろん、俺は構いませんよ」
「あ、えっと、うん。それならそれでいいんだけど……何をどう言い間違えたらそうなるわけ?」
俺はその質問には断固として答えず、ダンジョン遠征について色々とリルちゃんやソニアさんに聞いた。
その後、依頼を受けた報酬として俺はリルちゃんにギルドにある食堂に連れて行ってもらい、そこでようやくその日の食事にありつけたのだった――
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