第12話『魔物を倒してみた』


「リルさん。今日はよろしくお願いします」


「ええ。こちらこそよろしく頼むわ。そこそこ期待してるから」



 翌日。

 泊まるところのない俺はまたまたリルちゃんに頼り、ギルドにある集会所みたいな場所に泊まる事ができた。

 なんでもギルドの集会所は格安で泊まれる所らしく、そこでは冒険者同士で情報交換したり、パーティーメンバーの募集したりと色んなことが行われているらしい。

 もっとも、俺は冒険者じゃないしアスカルト家から弾かれた出来損ないだしで誰も近寄ってこなかったからその辺りの恩恵は全く感じなかったが。


 ともあれ。

 リルちゃんが先にギルドの食堂にお金を払ってくれていたこともあり、今の俺は空腹でもなければ体調も悪くないパーフェクツな状態だ。

 そんな俺はストールの街のはずれでリルちゃんと合流。これから近くにあるというダンジョンまで歩いていく予定だ。


「ダンジョンからは魔物が生まれるわ。そして、飽和した魔物が野に放たれるの。だからダンジョンに向かうなら高確率でそんな魔物達を相手する事になるわ」


「なるほど」


「まだ私はアンタの実力を知らない。あのアレンを下したと聞いているから期待しているけど、まだこの目で直接あなたが戦っている所を見たわけじゃないしね。だから――」


「だからダンジョンに着くまでの間の魔物は全部俺の方で引き受けろって話ですよね? もちろんいいですよ。俺も自分の力が魔物にどれくらい通用するか知っておきたいですし」



 ただ、アレンさんを倒したって話に関しては何かの勘違いだと思うんだけどなぁ。

 仮に俺が倒したアレンさんがA級冒険者の『アレン・グラディウス』っていう人だったとしても、あの時のアレンさんは油断していたし。


 それなのにリルちゃんだけじゃなくてソニアさんまで俺を過剰に評価するんだから困ったもんだぜ。

 




 そうして歩き始める俺とリルちゃん。

 街から外に出て、草木が生い茂る森を抜ければそこがダンジョンの入り口だ。


 そうして森を歩いていると――



「――音がする」


「音?」


 俺は立ち止まり、どこかから聞こえてくる音を必死に拾う。

 風に木々が揺れる音。それとは別に何者かが草木を踏みしめているような音。

 ふむ。


 

「リルさん注意を。ここから前方に何者かが居る。人間の足音じゃないし、魔物かもしれない」


「そうなの? 私には聞こえないけど――」


 TPSにおいて相手の位置情報を音で割り出す技能は必須だ。

 ここは森林地帯だし、音もそこそこ響く。相手が動いていないとかじゃない限り俺の探知から逃れる事はできない。


「ちょっと待っててくださいね。軽く見てきます」


 俺は相手の姿を視認すべく、近くにあった木に登ろうとする。

 しかし。


「ちょっ。どこ行くのよっ!!」


 大きな声を上げるリルちゃん。

 あ、馬鹿。そんな声を上げたら――



 ガサッ。ガサッ――



 音がこちらに近づいてくる。

 グルルルと獣のような声をあげ、急速に近づいてきているのが俺には分かる。



「ちっ。仕方ない」



 本当は木の上からスナイパーライフルで遠くの状況を探り、可能ならば姿を見られることなく魔物に銃弾をお見舞いしたかったのだが……どうやらそれは無理らしい。

 なので、俺はスナイパーライフルではなく別の武器を選択して取り出した。



「グルオォォォォォォォォォッ――」



 そうしてようやく魔物が俺達の目の前に現れた。

 それは狼を少し大きくして牙も大きくしてみせたみたいな魔物。

 こいつは――


「クロウウルフ。C級の魔物ね。迷宮の外に出る魔物の中では上位に位置するわ」


 目の前の魔物を見ても平然としているリルちゃん。

 そもそもあなたが大きな声を出さなければとも思う俺だったが、彼女にとってはこの程度の魔物などどうという事はないのだろう。全然動じてないしね。


「さぁ――どうする?」


 動じてないどころじゃなかった。

 リルちゃんはどこか期待した眼差しでこちらを見ていた。

 この戦闘で俺の実力を測る気なんだろう。



「おりゃあぁっ!!」


 俺は先ほど取り出した武器をクロウウルフに向け、その引き金を引く。

 その武器とは――ショットガンだっ!!



 ズガァンッ――



「グォウゥッ!?」


「……はい?」




 何発もの銃弾がクロウウルフへとぶち当たる。

 ショットガンは近距離戦でもっとも使いやすい銃器であり、小さな弾をばら撒くように放つ銃だ。


「そりゃっ。とりゃぁっ。えいっ!」


 ズガァンッ――

 ズガァンッ――

 ズガァンッ――



 俺は何発放てばクロウウルフが死ぬかなんて知らない為、とりあえず装填されたぶんは全部持って行けという感じでクロウウルフへとショットガンをぶち込みまくろうとした。

 しかし――



「ちょっ、もういいわよっ!!」



 リルちゃんが強引に俺の腕を掴み、銃撃をストップさせてしまう。

 構わずに撃ち続けようかとも思ったのだが、腕には自信があると言うだけあってリルちゃんの腕力は強くてかないませんでした。男として地味にショックである。


 そうして。



 ――ばたーんっ



 魔物であるクロウウルフはその場に倒れ、身動きひとつしなくなった。



「これで倒した……か?」



 まだ生きているんじゃないだろうか?

 そう思うと怖くて仕方ない。

 用心深くクロウウルフへの警戒を続ける俺だったが。



「もうとっくに死んでるわよっ。なんなら最初のやつの後にすぐHPが無くなってたわよっ!!」

  

 ゴツンッ!

 

「いたぁっ!?」


 そんな突っ込みのごとく軽く飛び上がって俺の頭をポコンと殴るリルちゃん。

 普通に痛い。



「っていうかそれ何なのよっ! ちょっと見せなさい」


「あ」



 あっという間もなくリルちゃんが俺の手からショットガンを奪う。



「なんなのこれ……。特殊な魔術式が込められた武器? いえ、でも魔力は感じない。でも、それならさっきのは一体……」


 ショットガンの引き金をカチカチ鳴らしたり、その銃口を覗いたりしているリルちゃん。

 いや何やってんの!?


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