第10話『指名依頼が舞い込んできた』
「あなたね? A級冒険者のアレンを倒したっていうのは」
「初めまして。私はリル。リル・クロシェットよ。突然だけどあなた、私の依頼を受ける気はない?」
なんて事を突然言い出す金髪ツインテロリっ子ことリルちゃん。
ふむ……。
――くるり。
俺は後ろを振り返った。
そうしたら、後ろには待合室に来たばかりのガタイのいいおっさん冒険者様が。
………………なるほどね。
俺は全てを察し、とりあえずそろそろ行くかと待合室から出ようとして。
「ちょっと。どうして無視するのよ!」
後ろからそんなリルちゃんの声が聞こえる。
可哀想に。どうやら子供だからと相手にしてもらえていないようだ。
「ちょっと。無視しないで!!」
――ぐいっ。
「おっと」
なぜか後ろから手を引かれた。
その先に居たのはリルちゃん。
なぜか彼女は俺の手を掴んでいた。なんで?
「なんで無視するのよ。話、聞いてた?」
「え? 俺に話しかけてたの?」
その発想はなかった。
「そうよ。あなたでしょ? A級冒険者のアレンを倒したっていうのは」
「違うよ?」
「「え!?」」
驚くリルちゃん&ギルドの受付嬢ソニアさん。
いやいやソニアさん。なんであなたも驚くんですか。
俺みたいな冒険者にすらなれない奴がA級冒険者のアレンさんとやらを倒せるはずがないじゃないですか。
同じ名前でギルドに所属してるっぽいアレンさんなら確かにさっき倒したが、それとA級冒険者のアレンさんは別人だろうしね。
「いや、でも……あのA級冒険者のアレンがズタボロの状態で運ばれたのと同時にあなたがギルドの奥から出て来たって証言がいくつも上がってるんだけど……」
「あー、多分それは誤情報ですね。俺が倒したのは別のアレンさんですよ?」
「「別のアレンさんってなに(なんですか)!?」」
またもや同時に驚くリルちゃんとソニアさん。
君たち仲いいね。
「ま、まぁいいわ。実力は後で見ればいいし」
「はぁ」
「それでさっきも言ったけどね。あなた、私の依頼を受ける気はない?」
「詳しくお願いします」
俺は全力で話を聞く事にした。
依頼。すなわちお金が手に入るチャンス!!
今の俺は金が欲しいんだ!!(ご飯と泊まるところが欲しいとも言う)
そうして超絶前向きな俺だったのだが。
「り、リル・クロシェット。まさかあなた、ダンジョン深層攻略に彼を連れ出すつもりですか!? やめてください。あの依頼に関しては諦めてくださいと何度も言ったはずです」
横からソニアさんが乱入し、まさかの依頼キャンセルを要求してきた。
「あら。別に構わないでしょう? 無名冒険者相手にならギルドを介さない形で依頼を出す事も認められているはず。ましてや噂だと彼、まだ冒険者になっていないみたいじゃない。なら彼と交わす契約にギルドは介入できないはず。違う?」
「それはそうですが……しかしあなたのやろうとしている事は余りにも危険すぎます! クリスタルの採取など特Sクラスのような超越した冒険者でも困難な依頼なんですよ? それをこのような少年に……」
「もちろん無理そうだったら引き返すわ。ただ、報酬は成功した場合のみしか支払う気はないけれどね。けれど、一生楽して暮らせるだけの額は用意してあげる」
「無理そうであれば引き返す。そう言っていた冒険者が何千人ダンジョンで散ったか。あなたは知らないんですか!?」
「興味ないわ。だって私、そいつらとは違うもの。弱ければ死ぬ。それだけよ」
「ですが――」
なんか言い合っている二人。
なかなか入り込みにくい雰囲気だ。
しかし。
「あのぅ~~」
俺はどうしても気になる事があったのでそれだけ先に聞く事にした。
「ダンジョン深層攻略って言ってましたけど、それってつまりダンジョンの奥深くまで潜って攻略しようって話ですよね? って事はその依頼、結構時間かかります?」
そんな俺の疑問に二人は言い争いをやめ。
「そうねぇ。何人パーティーで行くかとかにもよるでしょうけど……半日くらいかかるんじゃない?」
「何を適当な事を言っているんですかリル・クロシェット。特Sクラスの冒険者でも最低一週間はかかりますよ。もちろんダンジョンにもよりますが」
「へー、そうなのね。知らなかったわ」
なるほど。
最低一週間か。
よし。
「せっかくですけどその依頼……断ります」
俺はリルちゃんに悪いと思ったが、依頼を断る事にした。
「ふぅん。自信がないんだ?」
俺を見下すように見るリルちゃん。
「何を挑発してるんですかリル・クロシェット。彼は正しい判断をしただけですよ」
そんな俺を庇うようにしてリルちゃんへと反論するソニアさん。
しかし、リルちゃんの猛攻は止まらず。
「だから自分の力量に自信がないって事でしょ? はぁ。この街の冒険者は揃いも揃って――」
そうしてまた言い争いを始める雰囲気の二人。
その時っ!!
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「「………………」」
二人がどこか気まずそうな目でこちらを見つめている。
ふぅむ。
どうやら俺の中の獣が我慢できずに唸り声をあげてしまったようだ。(ただお腹が鳴っただけとも言う)
とはいえ、これできっと二人にも分かってもらえただろう。
俺がリルちゃんの依頼を受けない理由。
それは自分の実力不足を感じてるだとかダンジョン深層が怖いだとか、そんな理由じゃない。
もっと切実な理由だ。
全てを察して押し黙っているのだろう二人に、俺は自分の口でその理由を語る。
「俺は……俺は一刻も早くご飯が食べたいんです。その為には一刻も早くお金が必要なんですよ。そりゃあダンジョンには少し入ってみたい気持ちもありますけど……無理です。一週間もおあずけ喰らうなんて俺には耐えられない。依頼の最中に
「そんなどうでもいい理由で断ってたの!?」
「………………」
どこか呆れたような目で俺を見るリルちゃんとソニアさん。
ソニアさんに至っては言葉も出ないくらい呆れているらしい。
なぜだ。
俺は真面目に依頼を断ったはずなのに。
それなのにどうしてこんなにも呆れられているんだ。
解せぬ。
「そ、それじゃあ逆に聞くけれど……。ダンジョン深層攻略が終わるまでの食事はこっちで用意すると言ったら――」
「受けます」
俺はリルちゃんの依頼を受けることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます