第9話『不合格通知』


「え? 不合格?」


「……ええ、そうです」



 ギルドの待合室。

 冒険者になるための試験を終えた俺は、確かな手ごたえを感じながら合格発表を待っていた。

 ウキウキ気分で待っていた俺だったのだが、告げられたのはまさかの不合格通知。


 なんで?



「え、あの……マジですか?」


「はい」


 俺に不合格通知を告げてきたのはこのギルドで最初に俺が話しかけたギルドの受付にいたお姉さんだ。

 黒髪ロングのキリっとした感じのお姉さんの名前はソニアさんと言うらしい。

 なんかこうキリっとした感じのカッコイイお姉さんだ。


 しかしなぜだろう?

 今はどこか弱弱しい雰囲気をソニアさんからは感じる。


 いや、それも気になるけど。

 今はそれどころじゃない。

 問題はどうして俺が不合格なのかって事だ。



「あの……試験って確か試験官を倒したら合格って話じゃなかったですか?」


 俺は間違いなく試験官であるアレンさんを倒した。

 初見殺しである事は否めないし、アレンさんは手加減してくれていたのだろうけど勝ちは勝ちだ。


 だから合格間違いなしっ! 後は冒険者ランク的な何かをどんな感じで与えるべきか話し合ってるんだろうなと思っていたんだ。

 それなのに待っていた結果はまさかの不合格通知である。

 正直、納得できるわけがない。



「それはその……不正行為が認められたからです」


「ふせいこうい?」


「はい」


 ふせいこうい……不正な行為? つまりズルって事か?


 んんん?


 そもそもさっきの試験、何かをしてはならないみたいなルールなんてなかった気がするんだが?

 それなのに不正行為を働いたから合格はなしですって……そんなのあり?


「不正行為ですか……。ちなみにどんな行動が不正行為にあたったんですか?」


 当然気になった俺はそう聞くのだが。


「それは……規則により申し上げられません」



 受付嬢のソニアさんは顔をそらして何が不正行為にあたったのか教えてくれない。


 正直「ザッケンナコラー! 試験に落ちた理由が実力不足でもなく訳の分からん不正行為だとか納得できるかバカヤロー!」と怒鳴りたい気持ちもあるのだが、そうまで暗い顔で何か抱えてますみたいな顔をされるとこちらも責めづらい。


 いや、もしやこれは計算か?

 そうして気まずそうな顔をすることで顧客(今の俺みたいなやつ)が責めにくくなるという雰囲気を作っているのか?


 だとすればさすが冒険者ギルドの受付嬢だ。

 弱っている相手にも全力で攻撃を加えるウルトラクレーマーならともかく、相手に手心を加えてしまう一般クレーマーならその手法で撃退できるだろう。


 もっとも、俺自身はクレーマーじゃないつもりだが。

 

「そうですか。分かりました」


「すみません」


 そうして。

 俺は冒険者になれなかった。















 ――っていやいや。どうするよ俺。


 冒険者になってここから俺の物語が始まるんだ!! なーんて考えていたのにいきなりつまづいちゃったぞ。


 お先がいきなり真っ暗になってしまった俺。

 そんな俺は現在、ギルドの待合室にて呆けていた。


 そうして数十分が経ったのだが……未だに俺の近くに居るソニアさん。


 気になってふとソニアさんの方をうかがってみると。


「………………」


 おいおい見ろよソニアさんの顔。

 彼女は待合室に居座っている俺の事をちらちら見ながらどこか暗い顔をしていた。


 やべーよ。

 これ絶対に『てめぇいつまでもギルドの待合室に居るんじゃねえよ。落ちたんならさっさと実家に帰って母ちゃんのおっぱいでも吸ってろ負け犬が』とか思ってるよ。


 いや、これは被害妄想が過ぎるだろうけど。


 ともかく、迷惑がっているのは確実だろう。ごめんなさい。

 でも違うんです。

 今の俺には行く場所が無いんです。

 だからここに居座ってるのは俺にとっては仕方のない事なんです許してくださぁいっ!!


「はぁ……」


 

 思わずため息が漏れてしまう。

 本当に。俺はこれからどうすればいいのやら。

 少なくともここにずっと居座る訳にはいかないのは間違いなくて。



「どうしよ……」


 

 いや、する事など決まっている。

 この街から出て、食べられる草やらきのこやらを食べる。そして野宿する。

 それしかないのだ。

 それしかないのだが……どうしても他に何かないかと考えてしまうのが俺な訳でして。


「うーん……」



 そんな事をうだうだ考えていた時だった。



「あんたね? A級冒険者のアレンを倒したっていうのは?」


「ん?」




 声をかけられた気がする。

 俺は反射的に声のした方向に目を向ける。

 するとそこには。


「初めまして。私はリル。リル・クロシェットよ。突然だけどあなた、私の依頼を受ける気はない?」


 そんな事を言う金髪ツインテールのロリっ子が居たのだった――

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