第18話『規格外なアイツ(リル視点)』
――リル視点
第三階層で私とビャクヤが休息を取っている時。
肉の匂いにつられ、魔物達が姿を現した。
けれど、それで私が驚く事はない。
事前にそうなるかもしれないと予想していたからだ。
なにせ魔物の多くは鼻が利く。
だから肉を焼けばその匂いにつられて魔物達が多く寄ってくるかもしれないと、そう思っていたのだ。
そんな私の予想通りに魔物達は現れた。
ただそれだけの事。
数が多く対処は少し面倒だけれど、現れたのは所詮匂いに釣られてやってくるような魔物達ばかり。
こいつらは大抵腹を空かせた状態の魔物であり、私たちを標的として定めて近寄ってきているわけではない。
なので、漂う匂いの源泉となるものを投げれば魔物達の注意はそちらに逸れ、魔物同士での争いが始まるだろう。
私はそれを誘発すべく自分で焼いた肉を投げようとしたのだが、ここから私にとって想定外の事が起きる。
「くたばりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
いきなり奇声を上げるビャクヤ。
何事かと思い私は彼の動きに注目する。
食事を中断していきなり立ち上がったビャクヤ。
彼はショットガンとは違う何かを取り出し、そこから何かを撃ちだした。
シュゥンッ――
飛び出した何かはまっすぐに迫る魔物達へと向かう。
魔物達は飛んでくるソレに脅威を抱くことなく真っすぐこちらへと向かってきた。
そして、ビャクヤが打ち出したソレは先頭に居る魔物へと直撃し、直後。
ドゥーンッ!!
「「「ギャビャアァァァァァァッ」」」
激しい爆発音と共に、魔物達は悲鳴を上げながら爆発四散した。
「んなっ!?」
とんでもない強大な一撃を見て、私は驚愕の声を上げる。
今の強烈無比な一撃。
その威力は上級魔術に相当するものだった。
その爆発は火災となり、第三階層の一部が燃える。
もっとも、クリスタルが生きているダンジョンは一種の生き物のようなものなので損壊が起きてもしばらくすればすぐに元通りになる。
この火の手もすぐに収まるだろう。
「うまうま」
先ほどの一瞬の戦いなどなんでもなかったかのように食事に戻っているビャクヤ。
彼は私が焼いた肉を呑気に。そして美味しそうに食べていた。
どうしてそんなに切り替えが早いのか。
そして、どうしてそこまで美味しそうに食べられるのか。
どちらも私には理解できなかった。
私の料理は料理じゃない。
故郷ではそう散々言われてきた。
そのくらい私の料理はマズいのだ。
それなのにこんなに美味しそうに食べてくれるなんて……。
私に気でも遣っているんじゃないだろうか?
そんな事を考えてしまう。
けれど。
「美味しい?」
「最高っす(モグモグ)」
ビャクヤは私の作った料理を親指を立てながら美味しいと言って食べてくれる。
とても気を遣っているようには見えなかった。
私自身ですらあまり美味しいとは思えないものを、こいつは無心でモグモグモグモグと食べてくれている。
そう思うとなぜか頬が緩んでしまう。
「もっと食べる?」
「食べます(キリッ)」
「そ、そうなんだ。……いいわ。元々そういう契約だしね。アンタが望む限り、好きなだけ作ってあげる」
クリスタルの採取。
その依頼が達成されるまでの間、こいつの食事に関してはこちらで負担するというのが最初に交わした契約だ。
なので、私にはこいつが望む限り料理を提供する義務がある。
だから好きなだけ作ってあげると言ったのだが。
「いや、そこは契約とか関係なしに作って欲しいです。俺の為に作るとか言ってくれるとなお良しです」
親指をグッと立ててどうでもいい事を要求してくるビャクヤ。
それでようやく私は理解した。
あ、こいつ。ただ単純に女の子に良くされたいだけだわ。
突っぱねてもいいけど……こいつの為に作るというのは間違いじゃないし、そう言うだけでこいつのモチベーションが上がるのならいっかと私は思い。
「アンタの為に好きなだけ新しく作ってあげる」
そう言ってあげた。
すると。
「ぅんまああ~~~~いっ!!」
あまりおいしくないはずの私の料理をやはり美味しい美味しいと食べるビャクヤ。
なんとなくだけど、それはお世辞じゃないように感じられて。
そして、その姿があまりにも一生懸命で。面白くて。
「ぷふっ――」
つい吹き出してしまった。
魔物達を謎の火力で一掃したビャクヤ。
上級魔術に相当する威力を瞬時に引き出すその力は驚異的だ。
その実力はA級冒険者並みか、もしかしたら特S冒険者にも匹敵するかもと考えていた私だが、甘かった。
――確実に。こいつの実力は特S冒険者の高みへと至っている。
射程。攻撃力。状況判断能力。それらに関して素晴らしいの一言に尽きるし。
唯一問題なのはそのHPの低さだが、一撃すら貰わないのならばHPの低さなど関係ないと言わんばかりにこいつは
だというのに本人はそれを自覚していないのか、
これだけの実力があるならばもっと増長してもおかしくないのに、私のクソマズイとすら言われた事のある料理にすら文句の一つもつけない。
そんなアンバランスさが面白くてついついにやけてしまう。
もっとも、にやけてしまうのはそれだけが理由ではないかもしれないけれど。
「ねぇ、ビャクヤ」
私を変な気分にさせてくるビャクヤ。
恐ろしい力を振るっているというのに、警戒心すら抱かせてくれないビャクヤ。
そんなビャクヤには聞こえないように。
「本当に……アンタは一体なんなのよ」
私は小さくそう呟くのだった――
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