第19話『作戦会議』


 俺はこのダンジョンで学んだ。

 魔物。

 こいつらはアホだ。



「ほい」



 ズガァンッ――



「ほらよ」



 ズガァンッ――



「そいや」



 ズガァンッ――



 俺がショットガンを放つたびに魔物は悲鳴を上げながら絶命していく。

 たまに一発じゃ死なない魔物も居たが、そういうのも追加で2,3発喰らわせてやれば普通に沈んだ。


 別にそれは良いと思う。

 なにせショットガンは近距離戦における高火力銃器だ。TPSでも当たれば3発くらいで相手プレイヤーは沈んでいた。


 けれど、そのプレイヤー達と目の前に現れまくる魔物には大きな差がある。


 それこそが知能の差だ。


「現れる度に咆哮あげたりドッシドッシと足音鳴らしたりさぁ。位置がもろばれだから狙いやすいんだよなぁ」


 ダンジョンで現れるこいつら魔物達は足音を殺してはならないルールでもあるのか?

 なんて俺が思ってしまうくらいこいつらは接敵する際に必ず大きな音を出す。


 こちらもショットガンを何度もぶっ放しているから位置はもろばれだけど、もうちょっと不意をつくように動きなさいよと思ってしまう。


「それにこいつ(ショットガン)の威力は見て分かってるはずなのになーんでこいつら直線的な動きしかしないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」


 加えて魔物達は理性がないのか知らないが直線的な行動しかしない。

 俺がショットガンを構えているというのに、その射線から逃れようとしないのだ。

 だから撃たれる。


 これがプレイヤーなら上下左右に動いて弾を避けようともがくか、もしくは一目散に逃げて態勢を整えるかするというのに、こいつらときたら馬鹿正直にまっすぐ攻めてくるだけ。

 そんなもの、こちらからしたら「どうぞ撃ってください」と言われているようなものだ。



 そんな訳で。

 第三階層にあったような庭園や泉が第六、第九階層にもあったのでそこで睡眠をとりつつ、俺達は第十階層へと足を踏み入れていた。



「この先にクリスタルがあるわ」


 第十階層へと足を踏み入れたリルちゃんが続く道の先を示してそう言った。


「おー。リルちゃ……リルさんがお求めのクリスタルですか。ようやくご対面ですなー」


「そうね。私、何もしてないけど」


 ため息をつくリルちゃん。

 いやいや、十分にリルちゃんは役に立ってくれてるよ?

 なにせリルちゃんが居なければ俺なんて普通に餓死がししてると思うし。 


 俺が一人でこのダンジョン攻略に挑んだ場合、庭園や泉のある第三階層の果物やらキノコを食べて生き繋ぐ事は出来るかもしれない。

 けれど、俺だけじゃ何が毒か毒じゃないかなんて見分けられないからな。


 餓死しないにしても、毒に当たって『THE・END』となるのが目に見えている。


 逆にリルちゃんはそういうのを見分けられるし、何より料理も作れる。

 それが例え焼いただけ肉だったとしても、魔物の解体や血抜きの手際は見事だった。

 俺じゃあんな事はできない。

 そもそも、全力で刀を振り下ろしても魔物をあんな簡単に両断なんか出来ないだろう。


 何もしていないなんて事はない。

 なんだか落ち込んでるようにも見えるリルちゃんにその事を伝えてはみるものの。


「そう言う事じゃないんだけどねー」


 何か納得がいかないのか、やはり浮かない顔をしている。

 うーん、分からん。

 女心は難しいと言われるだけの事はある。


 などと話している間も俺達は第十階層を進んでいく。

 そこで。


「あれ?」


 ふと気づく。

 あれほどわんさか湧いていた魔物の姿はおろか、気配すら今は感じられない。

 最終階層と言われる第十階層ならばそれこそ雪崩のように魔物が来ると思ったのだが。


「どうしたの?」


「いや、魔物の気配がないなって。ここって最終階層なんですよね? 凄腕の冒険者達が制覇出来なかった第十階層。それならもっと魔物が居るんじゃないかなって思ったんですけど」


 気づいたばかりの違和感を口にする俺。

 すると。


「ああ、そう言う事ね。ごめんなさい、言い忘れてたわ」


 あっけらかんと言い忘れていたと口にするリルちゃん。


「言い忘れていた?」


 何を?

 そう疑問に思う俺にリルちゃんはこの階層について教えてくれる。


「ここはダンジョンの最終階層。この先にダンジョンの管理をしているって噂のクリスタルがあるわ」


「元々魔物っていう存在はこのクリスタルを守る守護者みたいなものらしくてね。クリスタル自身が彼らを生み出しているのだという説もあるわ」


「だからかしらね。クリスタルのある階層に他の誰かが入ってきたら魔物達の行動パターンは変わるらしいのよ。魔物達はクリスタルを守るようにクリスタルの部屋に集結するらしいの。だから――」


 なるほど。

 最終階層である第十階層に俺達が至った時点でそのクリスタルの部屋とやらに魔物達が集結するシステムなのか。

 だからこそこうして最終階層に着いてもクリスタルの部屋とやらに着くまでは魔物は現れない訳だ。


 しかし、それは逆を言えばクリスタルの部屋にたどり着いた瞬間に一気に魔物達が襲ってくると言う話でもあり。


 ふむ。


「もしかして……ダンジョンの突破が困難な理由ってそのクリスタルの部屋で魔物が一気に溢れてくるから。とかだったりします?」


「それも要因の一つではあるわね」



 俺の問いにあっさり答えてのけるリルちゃん。


 うひゃあ。マジですか。

 これまで単調だった魔物の行動パターンがここに来て変わって、なおかつその数が一気に増すのか。

 そりゃ確かにきついですわ。



「ただ、魔物は侵入者がクリスタルの部屋に入室するか、もしくは自分達が攻撃を加えられるまで決して手を出してこないらしいわ。

 ……だからビャクヤ。初っ端からアンタは自分の最大火力をクリスタルの部屋の魔物達にお見舞いしてやりなさい。それに合わせて私も最大魔術をぶっ放すわ」



 なるほど。

 数が増えて、かつその行動パターンを変える魔物達は厄介そうだが、そんなデメリットも抱えるようになるのか。

 それなら確かに開幕でかい一撃を喰らわせた方がお得ですな。

 しかし。

 

「でも、いいんですか? 魔物達はクリスタルの部屋とやらに集結してるんですよね? そんな部屋に最大火力の一撃をぶっ放したらクリスタルが壊れちゃうんじゃ……」


 俺の最大火力とはロケットランチャーだ。

 当たり前だがロケットランチャー自身に相手を識別する能力なんてものはない。

 放てば着弾地点を中心に敵味方関係なくダメージを与えてしまう、それがロケットランチャーと言う武器だ。


 なので、そんなものをぶっ放したらリルちゃんの求めるクリスタルを壊してしまうかもしれない。

 そう思ったのだが。


 

「その心配はないわ。仮にクリスタルが砕けてもその破片さえあればいいもの」



 リルちゃんとしてはクリスタルが壊れても問題ないようだ。

 ふむ。まぁ依頼主がそう言うんならいいか。



 などと話しているうちに。



「居るな」



 聞こえる。

 この通路の奥から。

 魔物達が呼吸音が聞こえてくる。



「まだ先のはずだけど……ホント、あんたの索敵能力はどうなってるのよ」


 呆れたようにそう呟くリルちゃん。

 しょうがないだろう。TPSにおいて索敵は最重要事項なんだから。

 どれほど早く相手の位置を把握できるか。

 それだけでその後の戦いを有利に運べるからな。


 そうして魔物の位置を把握したところで。


「リルさん。魔物って一撃を加えたら襲ってくるんですよね? それはどれだけ遠くて気配を殺した一撃でもですか?」


 遠く離れたこの位置からの攻撃ならもしかしたら気づかれることなく相手の数を減らすことが出来るかもしれない。

 そう思って俺はリルちゃんにそう聞いてみるのだが。


「え? それは分からないけれど……。けど、クリスタルの部屋に居る魔物達を外から一方的に倒し続けたっていう話は聞いたことがないわね」



 うーん、これはどうもダメっぽいな。


 この距離からスナイパーライフルで狙えば一方的に殲滅せんめつできるんじゃないかとも思ったのだが、それで目論見通りにいかず残った魔物達が雪崩のごとく通路に押し寄せてきたら絶対にさばけないだろうしなぁ。


 通路で範囲攻撃武器であるロケットランチャーなんてぶっ放せるわけもないし。


 ここはリルちゃんの言う通り、クリスタルの部屋の手前からロケットランチャーをぶっ放し、魔物が密集している所に着弾させた方が良さそうだ。



 そうしている内にクリスタルの部屋の手前まで到着。



 クリスタルの部屋は泉や庭園があった第三階層よりも更に広い空間だった。

 そんなクリスタルの部屋には通路には入れないだろっていうくらい大きなドラゴンやらサイクロプスみたいな。とにかく強そうな魔物さんがうじゃうじゃ居る。

 今まで相手した魔物とは一線を画しているのが見ただけで分かる。



「それじゃあ行くわよ。私の攻撃に合わせて」


 ダンジョンの中、初めてリルちゃんが俺の前に立つ。

 そして。


『荒れ狂え雷光、天災と恐れられる汝の力よ、今ここに顕現けんげんせよ』


 魔術の詠唱を始めるのだった――

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