第37話『凶報-2』
俺はストールの街へと攻めてくるルヴィナス盗賊団とやらに対し、どうするべきかと思考を巡らせていた。
別に『命を賭けようと思えるくらいこの街の事が大切なんだ!!』なんて思っている訳でもないし、逃げてもいいのだが……連中の狙いはなぜか俺の身柄らしい。
なんでも俺の身柄さえ差し出せば街には手を出さないと言っているのだとか。
そうやって名指しされている俺が逃げたとしよう。
その結果、この街が滅びたとかなったら……流石に寝覚めが悪いじゃん?
なので、俺はこのルヴィナス盗賊団とやらをどうにかしようと思っていた。
「ルヴィナス盗賊団っていうのはなんかやり手の盗賊団なんだよな? そいつらをとりあえず撃退するとして――」
「撃退するのが前提なのね。別にいいけど」
リルが途中で何か言うが、それを半分無視して俺は続ける。
「問題は連中がどこに居るかだよな。場所が分かればやりようはいくらでもあるけど、街に連中が攻めてきてからじゃ手遅れなんだよなー。拠点防衛しながら戦うとか、そういうの俺はかなり苦手だし」
ダンジョン攻略中は自分の身を守るだけで良かった。
リルは自分の身は自分できっちり守っていたし、なんなら彼女が俺の事を何度も守ってくれた。
だが、今回ばかりはそうもいかない。
街を攻めてくる盗賊団。
さらに今回は後ろから狙われるリスクまでついてきている。
そんな戦いで受け手に回ったら確実に負けるだろう。
そもそも、何度だって言うが俺は何かを守りながらの戦いは苦手なんだよな。
後ろで一般市民がお助けくださいと助けを求めていても、前から盗賊が斬りかかってきたら俺には避ける事しかできない。
つまり、全然守れてない。
なので手っ取り早いのが連中のアジトを特定して先に仕掛け、殲滅する事なのだが……相手は盗賊団。そう簡単にそのアジトが分かるわけが――
「連中の居場所? そんなのギルドの連中に聞けばいいじゃない。多分知ってるわよ?」
「WHY(ホワイ)?」
奇妙な事を言うリル。
いやいや。
いくら冒険者ギルドとはいえ盗賊団のアジトを
なんて思ったのだが。
「だって、奴らの要求はアンタの身柄でしょ? なら、その身柄をどこで引き受けるか指定されてるでしょうし、そうじゃなくてもルヴィナス盗賊団っていうのは数百人規模の盗賊団って話じゃない。軽く調べればすぐに連中がどこに居るのかなんて分かると思うけど」
「――言われてみれば確かに」
数百人から成るルヴィナス盗賊団。
その数は脅威だが、裏を返せば移動すれば痕跡が必ずどこかに残ると言う事でもある。
食料を運ぶにしても現地で調達するにしても、それが数百人分となれば
そして、その
「そうと決まれば話が早い。さっそく聞いてみるか」
そうして俺は先ほど俺達にルヴィナス盗賊団が攻めてくると教えてくれた男性職員に話を聞きに行った。
すると――
「ルヴィナス盗賊団の現在位置……ですか? 確かにそれに関してはこちらで把握していますけど」
そう言って男性職員はルヴィナス盗賊団の現在位置を教えてくれた。
なんでも、奴らはこのストールの街を落とす為に前線基地を築いたらしい。
俺の身柄を引き渡すようにと指定された場所もその前線基地なのだとか。
「ここは……ストールの街から数キロ離れた村?」
「トバッチリ村ですね。奴らはこの村の住人の多くを殺害し、ここに拠点を構えたそうです。奴らがこの街に攻めてくると分かったのは住人の一部がこの街に流れて来たからなんですよ」
なんと。既に被害者が出ていたのか。
奴らの狙いが宣言通り俺の身柄だとすれば、襲われた住民達はたまったもんじゃないだろうな。とんだとばっちりだ。
だからこそ――これ以上の犠牲は出したくない。
「そうですか、ありがとうございます」
俺は情報をくれた男性職員に礼を言って、そのままギルドを出ようとする。
しかし。
「待ってくださいっ!」
俺の肩を掴んでそれを阻止する男性職員。
彼は声を荒げ。
「もしかしてビャクヤさん一人で行くつもりですか!? やめてくださいっ! 確かにあなた一人が犠牲になれば済む問題かもしれません。ですが、それではあまりにもあなたが報われないじゃないですかっ!!」
必死に俺を諭そうとしてくれるギルド男性職員。
名も知らない職員だが、俺の事を心配してくれているというのは分かる。
正直、少し嬉しい。
嬉しいのだが、彼は一つ大きな勘違いをしている。
それは――
「いや、別に俺は自分一人が犠牲になればいいやーとか。そんな殊勝な事は考えてませんよ?」
俺は肩にかけられた手をそっと振り払う。
そして、男性職員の勘違いを正すべく言ってやった。
「俺はただ、迷惑な連中を片づけに行こうとしてるだけですよ。俺のせいで街に迷惑かかるとか嫌ですしね」
「なっ!? そんな事、できる訳が――」
「できますよ」
ルヴィナス盗賊団を片づけるなんて、そんな事できる訳がないと男性職員が言い切る前に、俺はそれが可能だと断言してみせる。
別に自分の実力を過信している訳じゃない……と思う。
そもそも俺は自分が強いだなんて思っていないしな。
ダンジョンでもリルが居なければ確実に死んでいただろうし。
そんな俺が屈強と噂のルヴィナス盗賊団と正面切って戦うなんて自殺行為以外の何物でもないだろう。
その点においてはこの男性職員は圧倒的に正しい。
だが、今回ばかりは話が別だ。
俺はニヤリと笑い。
「敵の居場所が分かってて、そこはダンジョンみたいな狭っ苦しい空間じゃない。そんなの俺にとってはボーナスステージ以外の何物でもないんですよ」
俺の身を案じる男性職員にそう言って、俺はリルと共にギルドを出た。
さぁ――盗賊狩りの始まりだ。
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