第36話『凶報』



 ルヴィナス盗賊団が攻めてくる。

 その報せを聞いたギルドに居る冒険者達は荒れに荒れていた。


「なんでルヴィナス盗賊団が街に攻めてくるんだよっ!!」


「あいつらはお偉い貴族様しか狙わないんじゃなかったのか!?」


「おいおいなんでそんなに慌ててんだ? 盗賊団くらい俺達で軽くひねってやれば――」


「お前知らないのか!? ルヴィナス盗賊団。あいつらはカルシュクレイン家が抱える騎士団すら軽く蹴散らしたって噂の盗賊団なんだぞ!? B級冒険者クラスの実力者でなきゃ入団できないって噂のあの騎士団にだっ!! しかも奴らは貴族相手に容赦ようしゃしない。奴らに襲われた貴族は全員殺されるか、奴隷として外国に売り払われるって話だ」


「なん……だとぉ!? なんでそんな奴らがこの街に!?」


「俺が知るかよぉっ!!」



 ギルド長不在の冒険者ギルド。

 彼らはルヴィナス盗賊団が攻めてくるという事で、その撃退を冒険者たちに依頼した。

 そうしたらこの騒ぎである。




「この街の冒険者は……揃いも揃って腑抜ふぬけ野郎ね。――チンコ付いてんのかしら?」


「いや言い分は分かるけど言い方ぁ!?」



 慌てふためく男性冒険者たちを見てとんでもない事を呟くリル。

 確かにうろたえてばっかりの男性冒険者たちを見てみっともないなぁとは思うが、それにしても一人の女の子としてもうちょっとこう何か言い方と言うものがあるだろう。



「しかしルヴィナス盗賊団か。うわさには聞いていたけど……どうすんのよビャクヤ。連中の目的はアンタみたいだけど。アンタ、連中の恨みでも買ってんの?」


「いや、俺はそのルヴィナス盗賊団っていう存在すら今まで知らなかったんだけど……。いや、ホントなんで俺を狙ってるんだろうなぁ?」



 ルヴィナス盗賊団が攻めてくる。

 俺はその事を語る男性職員の話を横で聞いていた。

 それによると――



「ビャクヤを差し出せば良し。差し出さないのならば街の奴らは皆殺しだなんて……随分と過激なラブレターじゃない。妬けちゃうわ」


「そんな物騒なラブレターに妬かれてもなぁ」


 ルヴィナス盗賊団。

 今日初めて聞く名前の盗賊団が要求している物。

 それは俺の身柄だった。



「見ず知らずの盗賊団に狙われるのなんて恐怖しかないよね。まぁ、どうせクソ親父かクソ兄貴が絡んでるんだろうけど」


 それくらいしか盗賊団が俺を狙う理由なんて見当たらないし。

 

「それで? 結局アンタはどうするのよ? 敵は噂じゃかなり厄介な盗賊団らしいし、逃げるのなら今の内よ。でないと――」



「なんせ連中の狙いは俺だからなぁ。ここの冒険者たちがその事を知ったら俺を差し出そうって話になりかねない。そういう話だろ?」


「そうよ。幸い、今は連中パニックのあまりその事に気付かないでいてくれるけど……それも時間の問題でしょうね」



 屈強で残虐と知られるルヴィナス盗賊団が攻めてくる。

 冒険者達は自分達では歯が立たないと思っている。

 ならば彼らはどうするか。


 答えは逃げる、もしくは交渉するの二択だろう。

 そして今回、盗賊団側はご丁寧に交渉の糸口を提示してくれている。

 それが俺の身柄だ。


 それを知ればここの冒険者達は人身御供よろしく俺の身柄を拘束して盗賊団に差し出そうとするだろう。

 

 だからこそ、彼らがその結論に至っていない今のうちにトンズラこくのはアリではあるのだが――



「けど、逃げたら逃げたで俺のせいでこの街滅びかねないんだろ? それはそれで寝覚めが悪いんだよなぁ」


「別にいいんじゃない? ここの領地、どうせろくでもない奴ばっかでしょ?」


「いやそうじゃない人も居るよ!? アレンさんとかソニアさんとか。ちゃんと優しい人だって居るからっ!」


 リルの中でこの領地に住む人間評価は相当低いようだ。


 彼女がこの領地で目にした人間は俺が知る限りソニアさんとギルド長、後は何人かのギルド職員に目の前で混乱しまくってる冒険者達くらいか。


 ……うん。

 確かに、改めて考えてみるとこの領地にはろくでもない人間が多い気がしてきた。


「けど……それだけじゃないんだ」


 この領地、ろくでもない人間が多い気がするというのは認めよう。

 だけど、そんな人しかいないって訳じゃない。

 ちゃんとまともな人だってきちんと居るんだ。


 それが俺の知っているアレンさんとソニアさんであり。

 他にも素晴らしい人がちゃんと居るはずで――


「ソニアさん? あぁ、あのギルド受付嬢ね。アレは確かにまともな部類だと思うけど……あのアレンが優しい? ねぇビャクヤ。アンタの目、節穴じゃない?」



 なぜかジト目でこちらを見つめてくるリル。

 ソニアさんの事はともかく、アレンさんの事をリルはあまり良く思っていないらしい。

 うーん……まぁアレンさんってA級冒険者のアレンさんとギルド関係者のアレンさんと二人居るみたいだからな。


 きっと、俺の知らないA級冒険者のアレンさんとやらがろくでもない奴なのだろう。


 けど、俺の知っているギルド関係者のアレンさんはそうじゃない。

 彼は忙しいと言うのに俺の試験なんかに時間を取ってくれた優しい人であり。

 さらに、冒険者の心構えを身をもって教えてくれた親切な人だ。

 ろくでもない奴であるはずがない。


 とはいえ、今そんな事を言ってもリルを困惑させるだけだろう。

 俺は「それはそれとして」と前置きして攻めてくるルヴィナス盗賊団とやらに焦点を当てる事にした。



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