第35話『クズなギルド長-2』



 ギルド長を投げ飛ばし、地べたへと叩きつけたリル。

 そのままリルは地べたに転がるギルド長の頭をその小さな足で踏みつけた。


「ぐっ」


 うめくギルド長。

 床に頭を埋めたまま、それでもギルド長は声を上げる。


「貴様……こんなことをしてただで済むと――」


「それはこっちのセリフよ。何か勘違いしてるようだから教えてあげるけどね。わたしも、そしてビャクヤも冒険者なんかじゃないわ」


「な……に?」


 頭を踏みつけられながら訝し気な表情を見せるギルド長。

 いやいや、なんでアンタが驚いてるんだよ。

 俺の試験を見届けたのはお前でしょうが。そして不合格にしたでしょうが。


「冒険者じゃない私たちは一般人に分類されるわ。ねぇお偉いさんの豚。アンタに聞きたいんだけど、冒険者ギルドって一般人の拾得物まで勝手に買い取れる権利まで持ってるんだっけ?」


「それは――」


 言いよどむギルド長。

 そりゃそうなるわな。



 冒険者のあれこれを全面的に支援してくれるのが冒険者ギルド。

 だからこそ彼らは冒険者の拾得物を買い取れる権利とやらを持っているのだろう。


 じゃあ一般人に対しては?

 当たり前の話だが、冒険者ギルドは一般人の支援なんかしてくれないし、する必要もない。


 だって関係がないんだもん。


 だけど、それはつまり一般人の方も冒険者ギルドにあれこれ口出しされる謂れはないという事である。


 つまり――


「アンタ達の強権で買い取れる品は冒険者が手に入れた物だけ。つまり、一般人である私たちが手に入れたクリスタルを奪う事は出来ない。もちろん、交渉の末に買い取ったりは出来るかもしれないわね。でも、おあいにく様。私はいくら積まれてもこれを手放す気はないわ」


「ぐっ……」


 リルに言い負かされ、現在進行形で頭を踏まれているギルド長が悔し気にうめく。

 それでもギルド長とやらはクリスタルを諦められないらしく。


「だ、だがギルド長である私にこのような無礼を働いているのだ!! この事実を公にすれば貴様らなど――」



 なんかこの状況を利用して脅しをかけてきた。

 いや、脅すにしても小さい女の子に踏みつけにされたまま脅すとかどうなのって話だが。


「別にいいわよ。公にすれば? その頃には私たちはここには居ないでしょうし。でもいいのかしら。そんな事をしたらギルド長であるアンタの立場がなくなるかもしれないわよ?」


「な、なんだと?」


 リルの言っていることが理解できないのか、困惑するギルド長。

 そんなギルド長にリルは続ける。




「だってそうでしょう? それってつまり、ただの一般人の女の子に押し倒されましたって自分で言いふらすって事よ? そんな事をすれば……賭けてもいいわ。アンタ絶対に舐められて笑いものにされるわよ?」


「な、何を馬鹿な事を。貴様らはダンジョンを完全攻略できるような強者だ。そんなお前達に押し倒されるのは無理ない事で――」


「呆れた。それ、どれだけ多くの人が信じてくれると思う? ダンジョンの完全攻略を為した小さな男女の二人組。その二人にコテンパンにされましたーって。そんな話を聞いてアンタは信じるの?」


「それは――」


 言い負かされるギルド長。

 それに満足したのか、リルはギルド長の頭から足をどけて。



「目障りよ」



 ガンッ――



「ぐあっ――」

 


 そのままギルド長の頭を蹴り飛ばすリル。

 ギルド長の身体はそのまま動かなくなり。



「まったく。こんなのがギルド長だなんて。ビャクヤの兄貴とやらもクズ野郎だったみたいだし、本格的にここの領地の奴らは完全に腐ってるわね」



 冷めた目で動かなくなったギルド長を見下すリル。

 まさか……殺しちゃったのか?

 俺は恐る恐るギルド長の様子を窺うと……ふぅ、良かった。死んでない。

 息はしてるし、ただ気を失ってるだけみたいだ。


「もっとも、こんな奴らばかりだったからこそビャクヤの価値に気付かないでくれてたのかも。そこだけは感謝ね」



 そう言ってリルは誰の許しを得る事もなく部屋から出て――



「ほら、行くわよビャクヤ。もう義理は果たしたし、こんな所には居たくないわ」


「あ、はい」


 確かにもうダンジョンなくなったよーという報告はしたのだ、

 元々ギルドにはそれだけ伝えに寄ったわけで、つまりもう用はない。


 なので俺達はギルドから立ち去るべくさっさとこの場から立ち去ろうと――



「ギルド長っ!! ギルド長は居ますか!?」



 ――したところでギルドの男性職員が慌ただしい様子でやってきた。

 なんだ?



「あ、あの……ギルド長はたった今お休みになられ……て?」


 そう説明するのは最初に俺達の応対をしていたギルド受付のお姉さん。

 ギルド長の傍で一部始終を見ていた彼女は、ちらちらとこちらを見ながらやってきた男性職員にそう説明していた。


 どうやら一部始終を見ていたこのお姉さんは俺達の肩を持ってくれるらしい。

 ソニアさんも親切だったし、ギルド全体が腐ってるわけではないようだな。


 とはいえ、ギルド長は床に泡を吹いて倒れている。

 これを見た男性職員にお休みになられているだなんて言い訳。通じる訳が――


「はぁ!? こんな時に休んでいる場合かよっ!! クソッ、ギルド長。起きてくださいギルド長っ。火急の要件なんですっ!!」


 寝ている(気絶している)ギルド長を揺さぶり起こそうとする男性職員。

 取り乱しまくっているからだろうか。ギルド長が床で寝ている事に何の疑問も抱いていないようだ。


「あの……先輩。一体何があったんですか? 火急の要件って言ってましたけど。いつも毛嫌いしているギルド長の耳に入れなければならないほどの何かがあったんですか?」



 取り乱しまくっている男性職員の様子に気圧されながらもそう尋ねる受付のお姉さん。


 しかしこのギルド長。ギルド内部からも嫌われてるのか。

 無理もないか。こんな偉そうに威張ってるやつが好かれる訳ないもの。


 そんなギルド長を嫌っているらしい男性職員。

 彼は受付のお姉さんの問いに声を荒げさせ。



「どうもこうもないっ!! 奴らが……ルヴィナス盗賊団がこの街を襲いに来るんだよっ!!」



 そう答えるのだった――



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