第9話『ティナVS謎の少女』


 ロウクダンジョン攻略三日目。



 攻略は順調に進んでいた。

 幾度も休憩をはさみ、下に下にと深い階層へと降りていく。


 今は第十九階層。

 この時点で俺とリルが前に攻略したダンジョンより深いという事が分かる。



「しっかしティナのやつ居ないな。戦った痕跡こんせきくらいは残ってくれてると良かったのに……」


「ダンジョンはクリスタルの力で自然修復するからね。戦闘の痕跡なんて数時間もすれば消えちゃうのよ。それよりほら、気を引き締めなさい。次が最終階層よ」



 第十九階層の魔物もあらかた狩り尽くし。

 俺とリルは更に下に続く通路を発見した。


 この先は第二十階層。

 ロウクダンジョンの最深層だ。



 この先に映像のあの少女が。

 そして未確定だがティナも居る……はず。


「行こうか」


「ええ」



 そうして通路を進む。

 進んだ先は第二十階層。


 辿り着いてはみたものの、魔物は出てこない。

 おそらく前回のダンジョンと同様、クリスタルのとこまで行ったら魔物が湧く仕組みだろう。


 前回は圧倒的魔物の物量を無視して、クリスタルを奪取する事で切り抜けた。

 しかし、今回はそうはいかない。


 クリスタルを取ってしまえば、クリスタルを失ったこのダンジョンは崩壊する。

 さすがに第二十階層からだとリルの足でも脱出は不可能らしいし、このダンジョンに崩壊されるのは非常に困る。


 そもそも今回、俺達の用事はクリスタルではない。

 その奥にある科学技術の詰まった部屋だ。


 なので、クリスタルの奪取はもちろんの事、傷つけるのも今回はなし。



「さーてさて。なかなかに面倒な戦いになりそうだ」


「それでもやるしかないでしょ。ほら、行くわよ」



 一本道を進む。

 ひたすらに進む。

 前に攻略したダンジョンよりも長く思えるその一本道を進んで――



 ――ドォン。

 ――ギャァァッ。

 ――バリィッ。



「――誰か戦ってるな」


「え?」


 リルには聞こえていないらしい。

 だけど、俺には聞こえる。


 何かが爆発する音。

 魔物の叫び声。

 電撃が空気を伝う音。


 間違いない。

 誰かが先に来て、すでに戦闘をしている。

 もしかしたら――



「行くぞリル」


「ま、待ちなさいよっ」



 リルを置いて俺は走り。


 ――その三秒後。


「………………ホントにアンタおっそいわねー。何が起きてるのかは知らないけど急がないとまずいんじゃないの?」


「これが全力疾走だよ悪いかっ!!」

 


 あっさりリルに追い抜かれる俺。

 全力疾走をする俺の横で、リルはスキップでもしているかのような軽い足取りで俺を呆れた目で見ていた。


 やはり身体能力の差が大きすぎる。

 

「しっかたないわねー。ほら」



 ぱしっと。

 柔らかな感触が俺の手首を包む。

 そうして俺の手首をリルは掴み。


「じゃ、行くわよ」


「へ? うぉわお!?」



 さっきまで以上の速さで走り出すリル。

 一応加減はしてくれているのだろう。前に全力を出したリルほどの速度じゃない。

 だけど、それでも俺には速すぎる速度であり――



「これもう走ってるというか引っ張られてるぅ!?」


 引っ張られながら叫ぶ俺。

 そう、俺はもう走ってすらいなかった。


 だって俺の足はもう地面についてすらいなかったもの。

 横方向に猛スピードで引っ張られていくだけ。

 気分は絶叫マシンにられているだけの一般客だ。



「あーうっさいうっさい。騒いでると舌をむわよ? あ、確かに何か聞こえるわね」


 わずらわしそうにしながらも走るリル。

 本人的にはこの程度の速さはジョギング程度でしかないのか、かなり余裕があるようだった。

 そうして――


「はい到着」


「――おえっ」



 俺とリルはクリスタルの部屋の手前で停止。

 そこで少しだけ吐きそうになったが、なんとか俺は耐える。



 そうしてクリスタルが鎮座している部屋の中を覗いてみれば――



「Κρυσταλλόπαγος Εξουσία!!」


「Βόρεια Παγωμένη Συνείδηση!!」



 ぶつかり合う氷の光の奔流ほんりゅう

 そして――



「「「ギュワァァァァァァァァァッ――」」」



 そのとばっちりを喰らうかのように、クリスタルを死守しながら灰となっていく魔物達の姿があった。



「あれは」


「映像の女の子と……ティナ?」


 

 広いクリスタルの部屋。

 その中で猛威もういを振るっているのは映像で見た黒髪の少女とティナだった。



「あぁ、痛い。いたいよ。頭が……いたいっ! だから、でも、私が、わたしが……そうだ。待ってて。ごしゅじんさま。関係ないっ! 私が今度こそ。いや、いや、おもいだしたく……ないの。あなた達を守って。だから――」


「――理解不能。上位の同種存在。機能不全の可能性あり。排除します」


 必死に黒髪の少女へと語り掛けるティナ。

 今度こそ救うと。よく分からない事を叫んでいる。

 

 それに対して顔色一つ変えず、今なお機械的な受け答えをする黒髪の少女。

 両者の関係が今一つよく分からなかった。


 ただ――



「ティナの様子が……おかしい?」


 しきりに頭を振るティナ。

 攻撃を受けたからとか。そういうのじゃないだろう。


 現に今も、黒髪の少女の攻撃をかわしているにも関わらず苦しそうにしている。

 それに――


「ねぇビャクヤ。今のティナ、変じゃない? いや、あの子が変なのはいつもの事だけどさ。それでも……今のティナはいつも以上に言ってる事がメチャクチャに思えるわ」


「やっぱりリルもそう思うか」



 頭が痛い。

 思い出したくない。

 今度こそ守る。

 


 言ってる事が支離滅裂しりめつれつだ。

 もっとも、今までのティナも幼い子供のように言っていることが支離滅裂だったけど。


 ただ、今はなんだろう。

 今まで見てきたティナとはどこか違う。なんというか必死さをひしひしと感じる。


 俺の命令と興味深い事にだけ反応を示していたティナ。

 それが俺の知っているティナだ。


 それに比べ、目の前で戦っているティナはなんというか。

 譲れない何かの為に全霊を尽くしているみたいに見える。



「機能不全? 違うっ! 私は……守るの。世界なんてどうでもいい。私はただ妹たちを……あなた達を守りたいだけ!!」


「不適切。私たちはご主人様を守る為。世界を救うために製造された。やはりあなたは壊れている。――危険」


「あぁ、うるさい。うるさいよ。こわれちゃえ。こわれ……あ、あぁ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」



 ますます激化していくティナと黒髪の少女の戦い。


 互いに謎の詠唱を唱え、光と氷が激突する。

 そして時には俺の目にも見えない速度の肉弾戦へと移行したりして。


 周りには魔物だって居るのに、そんなのを歯牙にもかけず二人の戦いは続く。


 そうしていつまで続くのかと呆然と俺は二人の戦いを眺め。


「まずいわビャクヤ」


 不意にリルが声をあげた。


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