第10話『ティナVS謎の少女-2』



「リルの動き、どんどん悪くなってる。あの子、やっぱり調子が悪いのよ。このままいけば……殺されるわ」


「マジですか」


 さすがリル。すごいな。

 あの戦いが見えてるなんて。



 正直、バチバチガリガリとやりあってるのは分かるが、どっちが優勢かなんか俺には分からなかった。

 アレか。


 これがベ〇ータとカカ〇ットの戦いを眺めるヤム〇ャの視点か。

 なんて下らない事を考えてる場合じゃない。 


 ともかく、リルから見たら現在ティナは劣勢らしい。

 とはいえ……だ、



「でもどうする? ティナを助けようにもあの戦いに俺はついていけないぞ。リルはついていけるのか?」


「正直、厳しいかもね。なんとかティナの援護だけならこなせるかも……程度かしら。本当に。何がクロウシェット国最強の雷神の姫君よ。自分が情けないわ」


「いやいや。あの戦いの援護こなせるかもってだけでも十分に凄いと思うけどね」



 俺には無理だ。

 だって二人とも速すぎるんだもん。

 当てる事すら困難。がむしゃらに撃って命中したらいいなぁ程度だ。


 そんな状態でティナには決して当たらないように。それでいて相手だけ狙ってライフルの弾を当てるとか。そんなの無理ゲーすぎる。


 まとめて始末していいなら方法がないわけではないんだけどな。

 それこそ手榴弾をこの部屋にポイポイ放って退散すればいいだけなんだけど……それじゃ何のためにここまで急いで来たか分からなくなるからなぁ。


 そうして俺達が手をこまねいていると。


「ぐぅっ――」


「「ティナ!?」」



 リルの言う通り、限界が近かったのか。

 ティナはその動きを止め、両手で頭を押さえながらその場に倒れこんでしまった。



「検証結果。やはり故障の可能性大。マスターの指示……未だなし。独断での判断を許可。思考中……結論、廃棄。上位個体の廃棄を実行します」


 そう言ってまたもや謎の詠唱を始める少女。


 マズイ。

 言ってる事は未だにちんぷんかんぷんだが、ティナをる気だという事だけは分かった。


「――さ、せ、る、かぁぁぁぁっ!!」


 俺が即座にライフルを取り出す中、飛び出していくリル。

 スキル発動中なのか、その体の表面に紫電をバチバチと走らせている。


 それを見た少女は詠唱を一旦止め――


「……新たな敵性戦力を確認。人間。測定――結果。検証の価値あり。しかし、最も脅威度の高い上位個体の排除を優先します」


 詠唱を止めた少女はリルを一瞥いちべつするだけで特に何をするでもなかった。

 今なお少女の視線の先にはティナが居て。


 そうして次の瞬間。


 少女が高速で動き出す。

 そうして動いた先に居るのは――――――倒れているティナ。



「検証の為、魔術使用をキャンセル。物理にて上位個体を排除します」



 そう言って少女は今も苦しんでいる様子のティナの首を絞めながら持ち上げる。

 


「あ、あぁ。あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」



 苦しみながらも必死にもがくティナ。

 それを少女は無機質な目で見つめるのみ。

 本当に……まるで機械のようだ。



「こんの……ティナを離しなさいよっ!!」


 ――パァンッ

 飛び出したリルが黒髪の少女に向けて蹴りを放つ。


 スピード自慢のリルの一撃だ。

 仮に倒せなくても、これでティナの拘束は解けるはず。

 そう思っていたのだが。



「――警戒度上昇。しかし現在は上位個体を最優先。軽微な損傷は許容します」



 リルの蹴りを片腕で受け止めながら。

 少女は平然としており、ティナの首を絞め続ける事を優先していた。



「ったく。どうなってんのよほんとに。普通の奴ならこれで吹き飛んでるわよ? と言っても、さっきのアンタらの戦い見てこうなるかもって思ってたし。驚きも少ないんだけど……ねっ!!」



 ――バチィッ

 ――バチィッ

 ――バチィッ 



 電撃音が響く。

 リルの蹴りが。拳が。少女へと突き刺さる。

 しかし、少女はそれを片腕のみで打ち払い。または防御していた。



「ちぃっ――」



 リルが一旦少女から飛びのき、通常の詠唱を始める。

 ティナを巻き込むのを覚悟のうえで魔術を放つつもりだろう。


 それを横目で少女は目で追い。

 ――その瞬間を俺は待っていた。




「今だっ!!」



 ――パァンッ。


 乾いたライフルの音が響く。


 それが少女の眉間みけんを撃ち抜く。



「………………損傷………………重大。新たな……敵性戦力。人間。測定――――――結果。見込み……なし? 不可解。検証開始………………不可。マスター。指示を。応答……願います」



 ずしゃぁっと。

 呆気なく黒髪の少女の身体が崩れ落ちる。



「……は?」


 あまりにも呆気ない幕ぎれ。

 正直、俺は自分の一撃が黒髪の少女に届くだなんて思ってなかった。


 ティナと激しいバトルを繰り広げ。

 それでいてリルの攻撃を片手でいなしていた少女。

 そんな奴が一発の銃弾で倒れるなんて。予想できるわけがない。



「ケホッ、カホッ。はぁ……はぁ……」



 少女の身体が崩れ落ちるのと同時に。ティナの拘束も解けた。

 その様子を俺はうかがうが……良かった。ティナは無事のようだ。



「マスターの応答……なし。施設の開放判断……不許可。その権限は当機にはなし。守護者システムの動作継続……不許可。施設への損傷を誘発する恐れあり。システム強制ダウン……不許可。有望個体を失う恐れあり。――不許可。不許可不許可不許可不許可不許可ふきょふきょふきょふきょっ――」



「な、なにこいつ……」



 後ずさりするリル。

 かくいう俺もだ。


 黒髪の少女がよく分からない事を呟きながら、なんだか大変な事になっている。

 まるで壊れた機械のように頭をガクガクと揺らしていて――



「――――――そっか。もう壊れてるんだね。当然と言えば当然だけど」



 ――スパァンッ


 目にも止まらぬ速さの何かが風をきる。

 


「ふきょ――――」



 同時に黒髪の少女の声が途切れた。

 そうしてゆっくりと。

 一滴の血も流さないまま、少女の首と胴体どうたいが離れ。



「――今までお役目ご苦労様、私の妹。どうか来世では幸せに生きてね」



 とても悲しそうな顔で。

 腕を振り下ろしたままの格好で。

 ティナは絶命する少女に向け、別れの言葉を口にするのだった。


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