第8話『隣の芝生は青く見える』


「馬鹿ね。殺すわけないでしょ」


「いや、ぶっ殺してやるって言ってたよね!? 目がマジだったよね!?」




 ロウクダンジョン前での騒ぎの後。

 俺とリルは逃げるようにロウクダンジョン攻略へと乗り出していた。


 俺とリルが前に潜ったダンジョンよりも魔物の出現率が高いロウクダンジョン。

 本当に進むたびに魔物が出てきて鬱陶うっとうしい。


 とはいえ、魔物の強さ自体はそう変わらないし、索敵も相手が魔物となれば容易。

 そのため、俺はリルと雑談をしながらダンジョンを進む事が出来ている。



「言葉のあやよ。……一瞬本当に殺してやろうかとも思ったけど」


「独り言のつもりかもしれないけどキッチリ聞こえてるからねっ!?」



 ロウクダンジョン。

 聞き込みをしたところ、少し前にこのダンジョンの近くで銀髪赤目の少女の姿を見たという証言を俺とリルは手に入れていた。


 未だに確証はないものの、やはりティナはこのダンジョンに来ている可能性が高い。

 なのでティナを探すためにも他に時間を取られる訳にはいかない。


 だというのに、ダンジョン前で余計な時間をつかってしまった。



「まったく。リルが強いのはもう分かったけど少しは自重してよ。魔力とか温存しなきゃでしょ……っとぉっ!」



 ――ズガァンッ。


 目の前に出てくる魔物達に遠慮なくショットガンをぶっ放す。

 言った通り、リルは魔力温存の為にも俺の後ろで不意の一撃に備えている。

 なので、目の前に出てくる魔物は今の所ぜんぶ俺が片づけているわけだ。


 ただ、ダンジョン前で魔力をポンポン使うくらいなら今使えよと思ってしまう訳で。

 とはいえ、それで本当にピンチになったとき魔力切れとか言われても困るので。


 結局、俺はリルに何も言えないでいるんですよね。はい。


「いや、アンタに強い云々言われても嫌味にしか聞こえないけどね……。本当に。際限なく使えるのねソレ。何度見ても納得いかないわ……」


「そう言われてもなぁ……」



 回数制限も溜めもいらない力。

 その点だけ挙げれば俺の『TPSプレイヤー』はすごい能力だと思う。


 なにせ魔術は本人の魔力値と言う回数制限があるからな。

 強力な魔術だと大きく魔力を削られるらしいし、詠唱も長くなる。


 その点、ショットガンやマシンガンなんかは素晴らしい。

 弾数という回数制限は一応あるが、俺は銃弾を大量にストックしてあるので実質回数制限なしの状態だし。

 なにより詠唱なんて面倒な真似をしなくても引き金を引くだけで使えるお手軽兵器だ。


 凄く便利。

 この『TPSプレイヤー』という能力は素晴らしいと。

 俺は胸を張ってそう言える。


 ただ……。 


「結局、レゾニアには通じなかったからなぁ」



 三騎士のレゾニア。

 あいつに俺の最大火力であるロケットランチャーを叩きこんだが、普通に防がれてしまった。


 氷のバリアーで身を守るレゾニア本人までダメージが届かなかったのだ。


 氷のバリアーを割る事は出来ても、そんなのすぐに再生されるだけ。

 そうやってこちらの攻撃をかわしながら向こうは広範囲攻撃を仕掛けてくるんだからこっちとしてはやってられない。


 正直、あんなのどうしろっていうんだよと思ったね。


「レゾニア……そうね。でも、それを言ったら私も同じよ。あいつの前で私は為すすべもなく地を這うだけだったわ」


 悔し気に爪をむリル。

 ただ、俺と彼女では立場が違う。


「でもリルにはレゾニアとかティナが使ってた意味不明な不思議魔術を習得したらまだ何とかなるかもって望みがあるじゃん? 魔術って術者の力量どうこうで威力とか変わるだろうし」



 このロウクダンジョンに来た目的の一つ。

 それは戦力アップ目的だ。


 映像で見た少女の不思議魔術。

 アレをリルが覚えたなら帝国三騎士に対抗できるようになる……かもしれない。


 それに映像を見る限り、最深部にはなんか凄い科学技術が眠ってるみたいだしな。

 その内の何かをきっかけにリルは強くなりたいのだと言っていた。



 ああ。あと、そうだ。

 詳しい話は出来なかったが王様や宰相様も帝国を危険視してるみたいだったな。


 帝国と敵対しそうな王様や宰相様。

 そんな彼らにもここで得た情報を渡してやるのもいいかもしれない。

 その情報で騎士達を強くしてくれれば……。


 ――いや、簡単に「はいこれ情報あげる」というのも勿体ないな。

 むしろ情報あげるから帝国と戦う為の戦力ちょうだいとリルに交渉してもらった方が良い気がする。


 あの不思議魔術や科学技術の情報を得る事でジェイドル国の騎士が強くなって。


 その騎士を帝国との戦いに出してくれたらいいなぁ。

 そう俺は思った。



「いやぁ、まだ見ぬ不思議魔術に未知の技術。戦力アップの夢が広がるなぁっ! ――俺以外はね……」


 ガックリと肩を落とす俺。

 無理もないだろう。


 未知の不思議魔術?

 未知の科学技術?

 そんなのがいくら見つかろうが俺の戦力アップにはつながらないのだから。


 なにせ俺の戦力と言えば完全に『TPSプレイヤー』頼りだものな。

 不思議魔術があろうが未知の科学技術があろうが俺の銃器の威力は変わらない。

 むしろ周りが強くなる分、俺が弱く見えるまであるんじゃないだろうか?


「なによその急な自虐じぎゃく。喜ぶのか落ち込むのかどっちかにしなさいよ」


 俺の分かりやすい態度の変化に口を挟んでくるリル。

 力なく肩を落としたまま俺は自分の心境を伝える。


「いや、俺以外は強くなれる要素アリアリでうらやましいなぁと。隣の芝生は青く見えるってやつだよ」


「なにそれ? 時々アンタって訳の分からない事を言うわよね」


 軽く首をかしげるリル。

 その間も俺は現れる魔物をショットガンや、気分によってマシンガンやピストルで撃退していく。



「それだけやれて一体何が不満なんだか……」



 しっかり聞こえるリルのぼやき。

 いや、違うんだよなぁ。

 俺だって自分の『TPSプレイヤー』というのが凄いスキルだというのは理解している。


 ただ、このスキルに頼りっきりだからこそ俺には伸びしろというものがない。

 だから勝てない相手に対し強くなろうという選択が取れないのが悩ましい訳で。

 


「はぁ……」



 そうしてロウクダンジョンの中。

 銃声と魔物の叫び声が断続的に響き渡るのだった――

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