第7話『リルさんキレる』


「ここがジェイドル国の最難関ダンジョン。ロウクダンジョンか」



 かつてこの国で活躍していた特Sランクパーティー『灰色の牙』。

 そんな彼らが攻略に大失敗したロウクダンジョン。

 そのダンジョンの前に俺とリルは辿り着いていた。



「意外ね。最難関ダンジョンとかいうから他のダンジョンとは色々と違うのかと思ったけど……出てくる魔物や外見なんかは他のダンジョンと大差ないみたい」



 ダンジョンの入り口からポツポツと出てくるゴブリンやスケルトン。

 そんな色んなとこで見かける魔物を見ながらリルはそう呟いた。



「外見はそうみたいだな。とにかく、中にはほとんど人も居ないはずだしさっさと行こう。『灰色の牙』がここのダンジョン攻略に失敗した後、危険だからって立ち入りが制限されたみたいだし」


「それも当然よね。映像に出て来た女の子。あの子を刺激するような真似はしないほうがいいもの」


「そゆこと。もっとも、そのせいで見ている通りダンジョンから魔物が溢れまくってるけどね」



「ままならないわね」


「まぁ、王様も宰相様も色々と考えてるらしいよ? 実際、今も問題は起きてないみたいだし」


「確かロウクダンジョンから出て来た魔物を討伐した時の報酬。それを何割増かにすることで冒険者達に対処させてるって言ってたわね。はぁ……やだやだ。お金があるところは柔軟な対応が取れてうらやましいわ」



「クロウシェット国は違ったのか?」



「弱小国でお隣には精強な帝国さん。毎年のようにお金が飛んで貯蓄なんて出来ないって国王は嘆いてたわ」



「あぁ……それはご愁傷しゅうしょう様ですと言うべきかなんというべきか……」



 リルも……というかクロウシェット国もかなり苦労しているらしい。


 もしかしたらその辺りも潜伏していたレゾニアの裏工作の仕業だったのかもしれないな。


 その事を口に出そうかとも思ったが……言ったらリル暴れる気がするからな。

 言わないでおこう。



「まぁ、行こうか」


「そうね」



 そうして俺とティナはロウクダンジョンの入り口へと向かう。

 しかし。



「おいおいおいおい。お前らどこ行くつもりだ? ロウクダンジョンは今、S級以上の冒険者以外は立ち入り禁止だぞ?」



 後ろからの声に振り返る。

 そこにはなんとも柄の悪そうなスキンヘッドの男の姿が。



「ガキはお家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな。ほら、あっちいったあっちいった」



 しっしっと手で俺達を追い払おうとするスキンヘッド男。

 その後ろからこれまた柄の悪そうな男三人組が現れる。



「どうしたんですかガニヤルさん」


「なにか問題でも?」


「こいつらは……なぁんだ。二人ともガキじゃないですか。こんなのに構わず早く行きましょうぜ兄貴」



 こちらを見下しながら言う三人。

 特にスキンヘッド男と最後の一人の発言が色々と危うい。

 そんな事を言ったら――



「誰がガキよっ。こう見えても私たちはもう十五よっ!」



 ほら。

 リルが怒った。



「はんっ。十五ってまだガキじゃねえか。そんなんで大人ぶるなんざ……ん? 十五? そっちの坊主はともかくお前も十五なのか? 十歳の間違いとかじゃなく?」


「殺すわ」



 スムーズに詠唱を唱えようとするリル。

 俺はそんな彼女を全力でもって取り押さえるっ!



「お、落ち着けリルッ! 気持ちは分かるけどもっ。ここは穏便にぃぃぃっ!」


「離しなさいよビャクヤッ! ここまで馬鹿にされて黙ってられるわけないでしょっ。ぶっ殺してやるっ!」


「女の子がそんな物騒な事を言っちゃいけませんっ!!」



 血の気の多いリルを必死に止める。

 これからダンジョン攻略をしようというのに、入り口手前で問題を起こす訳にはいかない。

 死人を出すなんてもってのほかだ。


 そうやって俺がメチャクチャ努力しているというのに。



「お、なんだ? 二人してこんな所でいちゃつきやがって。可愛いねぇ。ギャハハハハハハ」


「ママのおっぱいじゃなくてその子のおっぱいでも飲むかぁ? あぁ、でもペッタンじゃぁあなぁ」


「俺の方が胸あるかもなぁ。ふんっ!」


「おー、あるある。よ、セクシィ~~」


「お、おいみんな。こんな奴ら放っといて早くいかねえか?」


 こちらをあおりまくる男四人。

 こいつら……俺が誰の為にこうして必死で止めていると思ってるんだ!!


 いい加減俺としても少しムカついてきて。



 ――ぶちん。



「あ――」



 ステコロン。

 そんな感じでリルに転ばされる俺。

 すると当然、リルを止める者なんて居なくなり。


「アンタら……覚悟は出来てるわよねぇっ!!」


 バリバリとその体に紫電を走らせるリル。

 それを見て男四人はといえば。



「お、なんだやる気かお嬢ちゃん?」


「そっちの男に助けて~って泣きつかなくてもいいのか?」


「ちょっとくらい遊んでってやるか。軽い準備運動だ」


「はぁ……。手早く終わらせるか」



 担いでいた武器を手にすらせず、余裕の態度でリルへと相対する男四人。

 

 あぁっ。もう完全にやる気なご様子っ!



「ちょっ馬鹿にげろっ! お前達がどれくらいの強さとか知らないけど相手が悪いからっ! はよ逃げろぉっ!!」


 俺は失礼な男四人を心の底から心配して今からでも逃げるようにと叫ぶ。

 しかし、そんな俺の叫びも男四人はただ「「「ははははは」」」と笑い飛ばし。



「相手が悪いって。こりゃ傑作だ。俺たちゃロウクで売り出し中のBランク冒険者パーティー『鉄竜のあぎとだぜ?』」


「特にガニヤルさんなんかはAランク冒険者に匹敵する力を持ってると言われてるんだよぉっ!」


「相手が悪かったのはお前らの方さ」


「さっさと片づけてダンジョン攻略行くぞ。特Sランクパーティー『灰色の牙』が攻略に失敗したダンジョン。俺達が攻略すりゃ一気にランクアップ間違いなしだ」



 退く様子が全くないBランク冒険者パーティー『鉄竜のあぎと』の皆さん。

 そんな自信満々な様子を見て俺は――


「おいおいおい。こいつら死んだわ」



 もう色々と諦める事にした。

 そっかぁ。Bランク冒険者かぁ。


 ここで一つ報告。

 リルの故郷であるクロウシェット国にも冒険者ギルドはあり、リルもそこで冒険者資格を取っていたらしい。


 と言っても、基本的に王宮勤めだったリルはあまり冒険者として活動していなかったみたいだけどね。


 それでもリルが冒険者資格を取った理由。

 それは立ち入り禁止区域に行く権限を簡単に得るためだ。


 今回のロウクダンジョンみたく高ランク冒険者じゃないと入る事が許されない立ち入り禁止区域。

 そんな場所はここの他にもいくつかあるらしい。

 そこに行くのに冒険者資格は便利だったから、サクっとリルはその資格だけ取ったのだそうだ。



「ふーん。Bランク冒険者ねぇ。Aランクに匹敵……ねぇ。へぇ」



 キラリと。

 リルは金色のカードを男達に見せる。

 それは俺にも見せてくれた事があるリルの冒険者カードだ。



 そこの氏名欄にはこう書かれてある。



 クロウシェット国出身。

 リルカ・トアステン。

 特Sランク冒険者。



「「「「…………………………は?」」」」



 リルの冒険者カードを見て呆然とする『鉄竜の顎』さん。

 

 喧嘩を売る相手を間違えた。


 今さら反省しても遅いが、これできっとこの人たちも理解してくれるだろう。


 そう俺は思っていたのだが、予想以上に『鉄竜の顎』さんは頑固で。



「は……ははっ。こいつぁ傑作だ。そんな偽造の冒険者カードで俺達をだまそうなんてな」


「偽造? そ、そうだよなぁっ。こんなチンチクリンが特Sランクだなんてあり得ねえっ!」


「そ、そうだよな。へ、へへっ。なんだよおい。ビビらせやがって……」


「いや、あの。お前ら? 俺にはアレが偽造カードには見えないんだけど……。というかリルカ・トアステンって。それ確か隣国で最強と言われてる雷神の姫君の名前じゃ――」


 哀れな『鉄竜の顎』さんはリルの見せた冒険者カードの内容が信じられないのか。

 リルが冒険者カードを偽造したものと決めつけていた。


 一人だけ冷や汗をかいて後ずさる賢明な人が居たが……もう既に色々と手遅れで。



「じゃ、お疲れ」



 その後。

 『鉄竜の顎』さんの叫び声がロウクダンジョン前にて響き渡った――


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