第44話『前線基地(村)を焼いてみた』


「いやいや狙撃を避けるなよ。化け物かよ」



 リルがルヴィナス盗賊団の前線基地にガス缶を設置し終えた後。


 彼女は白いぼろ布をまとった少女と対峙していた。


 その時のリルの表情はスコープ越しでも流石によく見えなかったのだが、なんとなく緊張しているように見えた。


 それを見て俺も何事だろうと思っていると。


 ぼろ布を纏った少女は何を思ったのか、その手から何かを放ったのだ。


 ――俺の居る方向へと向けて。


 当然、それは一キロも離れている俺の元には届かなかった。


 届かなかったのだが、遠目に見てもとんでもない威力を秘めていそうな一撃だった。


 無理やり超電磁砲レールガンを魔術で再現しようとしたらああなるのかなぁみたいな。そんな一撃。


 その瞬間、俺の中の少女に対する警戒度はマックスになった。


 当然だろう。


 少女とはいえ、超電磁砲もどきを撃つ個人なんて警戒しない方がどうかしている。


 それに、少女は俺の居る方向へと攻撃を放ってきた。


 それはつまり、少女は俺を殺す気であり、その上で位置まで割れている可能性があるという事。


 位置がばれた。


 それは狙撃手としては由々しき問題である。

 

 ゆえに、問答無用で少女の頭を撃ちぬこうとスナイパーライフルを撃ったのだが――



「それを避けるとか人間業じゃないよね? 常に動き続けて狙撃手が狙いにくいようにするとかなら分かるんだけど……今の完全に撃たれるのを察知して避けたって感じだったからなぁ」



 そのまま少女はこちらに向けて走り出した。


 そして、それを追うリル。


 俺は急いで少女の方に照準を合わせようとするが――



「ちっ。木が邪魔で射線が通らない。手当たり次第に乱射……あほか。それだと後を追うリルに当たるかもだろ。それするくらいなら潜伏位置を変えた方がまだマシだよ」





 俺はこちらに向かってくる少女の姿が視認できなくなったので一旦スコープを覗くのをやめる。


 そうして狙撃位置を変えるべく行動を起こそうとして――



「おっと。忘れてた」



 迫る少女は脅威だ。


 しかし、敵陣地からここに至るまでの道には事前に罠を仕掛けてある。


 いくらあの少女が規格外の存在とはいえ、位置すら分からない罠をかいくぐってこの場所にたどり着くのは至難の業だろう。


 仮に辿り着くにしても、相当な時間をかけてくれるはず。



「ならここでの仕事を終わらせてから対処に向かう感じでも問題ない……か」



 この場所でやるべき仕事。


 俺にはまだそれが残っている。


 それは――



「えーと。リルが仕掛けてくれたガス缶は……お、あったあった。発見」



 再びスコープを覗き、前線基地にリルが放り投げてくれたガス缶を見つける俺。


 ガス缶。


 それ単体では何の威力も発揮しない。


 俺がプレイしていたTPSゲームにおいても基本的には単なる車やバイクの燃料にしかならないもの。


 だが、燃料になる以外にもこのガス缶には使い道がある。


 それが……これだっ!!



発射フォイア



 俺はスコープ内に収めたガス缶へとスナイパーライフルの銃弾を撃ち放つ。


 相手は動かない的だ。外す訳がない。


 よって、そのまま銃弾はガス缶へと着弾。


 すると――



 ――ドガァァァァァンッ



 みたいな音を立てて爆発するガス缶。

 (さすがにここまでは音も響かないので、音に関してはそんな感じでの音を立てているだろうという俺のイメージだ)


 だが、盛大に爆発しているのは間違いない。



 ガス缶。


 それは重火器による一撃を受けると爆発するという側面もある危険物である。


 あまりやらないプレイだが、相手の足元にあるガス缶を撃ち抜いて間接的にダメージを与えるというやり方もなくはない。


 今回はそれをリルの協力の元、無理やりやってみた感じである。



「リルの電気に反応して爆発する可能性もあったけど……検証してみた感じ、やっぱり俺が何らかの干渉を行わないと俺のFPS武器は威力を発揮しないみたいだからな。それを今回は逆手に取ったという訳だ」



 事前に検証してみた結果、リルがガス管を蹴ろうが電気を放とうがガス缶は爆発しなかった。


 だが、そんなリルだからこそガス缶を安全に運搬、配置する事が出来る。


 なので俺は彼女にガス缶を敵陣地まで運んでもらったのだ。


 後はこうしてガス缶を狙って銃弾を放てばあら不思議。


 ――敵陣地は地獄と化す。



 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ

 ――ドガァァァァァンッ



 次々と爆発していく敵陣地のガス缶。


 最初のガス缶の爆発によって他のガス缶が引火、そして爆発。


 続いて他のガス缶も同様に爆発していき……敵陣地ではそれが延々と繰り返されていく。


 そうしてしばらくすると――




「――終わったな」


 先ほどまでルヴィナス盗賊団が前線基地として使用していたトバッチリ村。


 そこは今や見るも無残な焼け野原と化していた。


「よしっ。目標は完全に沈黙。生存者は0……だな」


 爆発の中、なんとか生き残ろうと逃げだす盗賊団員が幾人も居た。


 だが、そのどれもが体を炎に包まれたり爆発に巻き込まれたりして途中で力尽きた。


 これでルヴィナス盗賊団とやらは壊滅したとみて間違いないだろう。



「さて。後の問題はあの女の子だけ……か」



 ルナと対峙し、こちらに届きはしなかったものの一撃を加えようとした彼女。


 何者なのかは分からないが、警戒だけはおこたる訳にはいかない。


「とはいえ、警戒するにしてもどうしたものか……」


 少女がこの場所に到達するまでの道。


 そこには既にいくつかの罠を仕掛けている。


 俺が仕掛けた罠を少女が踏破できるとは思いたくない。


 だけど、もし突破されてここまで来られたら?


 相手は俺のスナイパーライフルによる狙撃すら避けた化け物だ。


 そんなのを相手にショットガンだのロケットランチャーだのが当たるとは正直思えない。


 連続で弾を発射するマシンガンなら当たるかもしれないが……もしこの企みが外れたらその時こそ俺の負け。


 あの少女に懐に入られた瞬間、問答無用で俺の敗北は確定事項となるだろう。



「追加で罠を仕掛ける手もあるが……今から仕掛けられるような罠に引っかかるような奴にあの地雷原を突破できるとは思えないしな」



 仕掛けた罠の一つは地雷だ。


 ルヴィナス盗賊団の前線基地からこの狙撃ポイントに至るまでの道。その要所要所に俺は既に地雷を設置しているのだ。



 もちろん、地雷設置作業にはリルも協力してくれたので彼女も地雷の場所を把握している。


 もともと、敵陣地に乗り込んだリルが追われた場合の事も考えて設置した罠だしな。

 なので、リルが罠の位置を覚えるというのは必須事項だった。


 全ての罠の位置と種類を把握しているリル。


 だからリルが罠にかかる心配はない。


 ならば――



「ここで俺が一人待ち伏せするよりも、罠を仕掛けている地点でリルと一緒にあの少女を相手取る方がまだ勝ちの目はありそうだよなぁ」



 罠の種類と位置を知る俺とリル。


 対するはそんなものを知らず、初見で罠に対応しなければならない少女。


 その状態に持ち込めれば圧倒的有利な状況で事を運べるだろう。



「――よしっ。行くかっ!!」



 やれやれ。


 得意なステージで狙撃しまくれば終わると一時は思ったのに……とんだジョーカーに出くわしてしまったものだ。


 俺はそう肩をすくめながら、自分が罠を仕掛けた地点へと移動を開始するのだった――



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